目の前にいますよ 好きな相手がいるのか、と平静を装いながら片恋相手───仙道彰に尋ねれば、「いますよ」とあっさり返されて、牧紳一の胸中は乱れに乱れていた。
神奈川県選抜合同練習。休憩時間に自販機前で二人きり。牧は、予てから思い悩んでいた「仙道に好きな相手はいるのか」問題を、その張本人である仙道にぶつけていた。
それは誰だだとか、いつからなのかだとか、相手はお前をどう思っているのかだとか、聞きたいことは山ほどあるのに、動揺でうまく言葉が出てこない。
頭の中に台風が吹き荒れている牧の正面で、仙道は照れくさそうに笑う。
「それ、誰に聞いたんすか?」
「……ああ、海南の奴がな、試合会場でそう告白を断ってるお前を見たらしい」
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