空 手の届かない澄み切った青に、魚の群れのような白が浮かぶ午後。こんな天気のいい日は誰もが陽に当たりたくなるだろう。バーコード頭の子守唄から逃れたリョータは、この時間だけ最高の昼寝スポットになる裏庭へと向かっていた。今や手入れされることの無くなったその場所は、知る人ぞ知る秘密の場所である。
2階の渡り廊下からパイプ伝いに地面に降り、校舎と備蓄倉庫の隙間をするりするりと抜けていくと、目の前に突然ぽかりとした空き地が現れる。
「お、流川」
「ウス」
裏庭につき、周りを見渡すと見知った姿があったので声をかけた。軽く挨拶を交わし話を聞けばどうやらサボりらしい。
「悪いヤツ」
土埃っぽい朽ち始めたマットに寝転ぶ頭をぽんぽんと揶揄うようになぜると、物言いたげな視線でこちらを見詰めてくる。
「センパイも抜けてきたくせに」
「うっせ」
めげずに見た通りのサラサラの黒髪をかき混ぜていると、陽に当たり、ぽかぽかして睡魔に襲われ始めたのか流川は睫毛を重そうにパシパシと瞬かせた。
「暇だな」
「眠い」
「…体育館空かねーかな」
「センパイ、あとで1on1」
「バスケ馬鹿」
踏み慣らされ緑もまばらになった地面に大の字になって寝転び、突き抜けるような青を見上げる。
元々色々な意味で、校内に限らず名前を轟かせていた流川と仲良くなったのはここ半年ほどの話だ。一匹狼で周りを寄せ付けない男だと思っていた彼は、パーソナルスペースが狭く、周りに人が居ない時には意外と大胆に甘える男だった。いまだに、遠巻きでしか彼を見ようとしない他の人間を哀れに思うのと同時に、柔らかく目を細めて笑う彼を知っているのは、自分だけで良いとも思う。
しばらくぼーっと空を見つめていると、暇を持て余したのか、ぬ、と流川が覗き込み、リョータの顔に影ができる。お互いに沈黙のまま見つめ合っていると、ふ、と息を吐くように口端を釣り上げ、端正な顔立ちが近付いてきた。
「センパイ」
耳元が吐息で擽られる。
「、どうした?」
「 」
こそりと囁かれた一言に、思わず顔が緩んだ。近くにあるデカい身体を引き寄せ、彼の重みを抱き締める。
やはりこの男について知っているのは、自分だけで良いと思うのだ。