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    copperzipper

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    copperzipper

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    ルチスパ小説
    双子ダブルカプの話

     液晶画面にひびの入ったスマートフォンが緑のランプを灯した。確認はすぐに終わる。ソファーの隅に投げ、ちょうど手を拭きながら戻ってきた男に渋々と白状する。
    「泊まるって」
    「そうですか。俺の勝ちですね」
     踵を返し、俺のコレクションケースから今日の晩酌を選んだ男のセンスは憎らしいほどに俺を知り尽くしている。氷を詰めたグラスふたつに琥珀をゆっくりと注ぎ、俺に手渡してから男もソファーに腰を下ろす。微かに体が揺れ、体の右側がほのあたたかくなる。
     つるりと光る飲み口に唇をつけ、喉をアルコールで勢いよく焼く。壁にかけた時計は二十二時を五分ほど過ぎたことを教える。急に静寂が気になった。特に、俺達三人とは違い、妹の男はほとんど家にいる。顔立ちや体格とは違い、表情筋だけは自身の兄に似なかったあの義弟は、姿が見えようが見えなかろうが騒がしい男だった。そこに妹が加われば余計だ。そういった連中がいない、と思うと急に部屋が広く感じた。これは感傷でもなく、精々しているという話でもない。
     男はゆったりと背もたれに体を預けて酒を飲んでいる。
     もはや沈黙を苦に感じる関係ではない。だが落ち着かない。この静寂は、俺達をソファーから立ち上がらせる機会を奪う。そう、いつもは、向かい側のソファーで指と指を絡ませる妹と妹の男に腹を立てながら寝室に行くのだ。おおよそ邪魔と面倒の評価しかないはずのあのふたりは、その実、俺達の生活にしっかりと組み込まれてしまっている。さも酔い覚ましのようにため息を付いた。つまみを作りますが、と男が聞く。いらないと答えた。わかりましたと返ってきて、それでまた会話は終わる。一向に中身の減らないグラスの中で踊り歌う氷だけが上機嫌だった。
     グラスをテーブルに置き、舞踏会を遠ざける。革製の手袋はしっとりと濡れていた。外す。軽く拳を作り、開いても指先は火を知らない蝋のままだ。暖房をつけていようが手袋をはめていようが指先だけは冷える。だから、お前が必要だった。
     長針の位置が大きく変わっていた。気がつけば七分経っている。
     男の左手は男の膝の上にあった。果たして妹はどうやっていただろうか、と無意識に思い出そうとして即座にやめた。手を伸ばし、同性なのに俺よりも大きく長く分厚く育った手の甲に手のひらを重ねる。骨と血管を浮かせたみずみずしい肌をするりとなぞり、無防備に開いていた指と指の隙間に残らず指を差し入れ、そっと、握り込む。
     男の体温は高い。そして俺は低い。混ざり合って、俺たちの好きな温度になる。好きだ。これが、好きだ。常に短く整えられた固い爪も、すらりと長い指も、太い手首も、俺を優しく優しく傷つける指紋すら、いとおしい。俺の男。俺だけの男。待っていたものをようやく得られたのが嬉しくて、男の左手の薬指を撫で、そこにはまっている金属もついでにあたためてやる。
     視線を感じて顔を上げる。男が俺を見ていた。うつくしい新緑の瞳を無垢な子猫のように丸くしていた。つられて俺も目を見開く。
     爆ぜる前の星のように、緑が一層の明るさを放つ。肉食獣の瞳が、きゅ、と細くなった。
    「……っ、あ、」
     頬の熱さを自覚した。瞬間的に十本分の火が灯って溶けそうになる。これ以上は危険だ。俺ではなく、男が燃え盛って収まらなくなる。慌てて離そうとしたもののそれを許す相手ではない。案の定手遅れだった。スイッチはオンになっている。押したのは俺だ。そうだった、俺の男は存外、耐え性がない。大きな手は、魚の尾のように翻って手のひらと手のひらをしっかりと張り付けて強く握り込んできた。かん、と氷が飛び出すほどにグラスを遠慮なくテーブルに叩きつけ、それをやってのけた力の持ち主と本当に同一人物なのかと疑うほどに過剰に手加減しながら俺を押し倒した男の影が、全身に落ちる。
     目を閉じて、開くと、ほのかな石鹸の香りとともにさらりと落ちてきた黒い髪が俺の頬に触れた。ぐる、と獣の上機嫌な声が鼓膜に届く。
    「……あのふたりに感謝しないといけませんね。あなたが、こんな、かわいい誘い方をしてくださるなんて」
    「お、お前が…なにもいってこないから、」
    「折角の上質な酒です。飲み終わってからと思っていただけですよ……それに、心配せずとも、遅く始めたからといって早く終わるなんてことはあり得ません。特に今はふたりきりですからね」
    「心配、じゃ、……おい馬鹿、ここでするな、」
    「…ええ、では」
     ベッドに、と俺の左手を取り薬指の先から根本までを舐めた男の顔にかわいげはない。笑い方だけは妹の男に少しぐらい似てほしいと思った。




    (20240113)
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    Replies from the creator

    copperzipper

    DONEヒョウスパ♀小説
    !女体化  先生とJKの話
    (読んでいただけるのなら ひとつ前に上げた話を読んでからのほうがいい…かもしれない)
     この学校ではバレンタインの名目で行うチョコレートの譲渡が禁止されていない。生徒間は勿論、生徒が教師に贈ることも、教師が教師に贈ることも許されていた。その寛容による被害を、男は一等受けていた。あらゆる学年の生徒や教師は勿論、日頃我が子が世話になっているからというもっともらしい理由を携えた保護者までも、男に甘い菓子を渡しにくるのである。しかし男は嫌がらない。いつも通りの笑顔に困惑を一匙加えた顔で頭を掻きながら丁寧に受け取っては即座に愛らしくラッピングされたマシュマロを渡し返した。最早周知のことで、男からの間のない返答を誰も悲嘆しないし怒りもしない。皆、答えがわかりきっていてなお、男に何かしらの好意を贈らずにはいられない。四方へ去った人間の数だけ四方から人間が増えるこの慌ただしくも複雑な環境の影響もあるのだろう。身なりはやや悪いがとかく愛嬌のある若くて穏やかな男は安直に好かれるはずだし、反して男は誰のことも好きにならなかった。生徒の悩みもくだらない世間話も等しく丁寧に耳を傾けたし、教師同士の飲み会にも参加するし、保護者の愚痴にもうんうんと頷いて付き合う。だが、蒲公英を分解してスケッチをし、あらゆる細胞を顕微鏡越しに観察し、猫とじゃれ合っては引っかかれ、拾った蜻蛉の羽を空に透かしている方がよほど好きという男だった。
    1778

    copperzipper

    MEMOヒョウスパ♀小説
    !女体化  双子ダブルカプの話
     彼らは一時間に一分間だけの口づけを許されていた。それが終わると何事もなかったように十二時の方向へと淡々と進んでいく長針を、取り残された短針が時々震えながら見つめている。恋人たちを引き裂き、二十二時が今日も無事に生まれたのを確認しておれは席を立った。あらかじめ話してあるので、誰も引き止めはせず、また来週だのお疲れさまですだのごちそうさまですだのを口々という。じゃあ、の一言で一括返信する。現時点の会計を支払い終えて外に出るなり寒さに身震いした。けれども身をすくめるよりも先に恋人を見つけたので嬉しくなる。
     おれが駆け足をするよりも恋人がやる大股歩きのほうが早い。飛び立つ前の烏のように腕を広げ、挨拶よりも何よりも先におれを抱きしめた黒いコートの冷たさに驚いた。飲み会を、十時に抜けることは事前に伝えていたし、早まることも遅くなることもないとわかっていたはずだ。なのに恋人の体は天然の冷房によって一時間分は冷えていた。名前を呼ぶ声が呆れと喜びで震えていた。ばかだな、とは続けない。仕事のため、体裁のため、交流のため、どれが理由でも人と飲み食いをし談笑をする機会はおれにとっては貴重で楽しくて嬉しい。それでもお前が嫌と言えばおれは行かない。昔のお前はおれ以外の人間ともセックスしていたが昔のおれは別にいいと許したし今も気にしていないから今更負い目を感じる必要もない。我慢しなくていい。我儘を言っていい。だというのに恋人は、嫌そうな素振りを見せないままいつも通りの笑顔でおれを送り出したあと、リビングの壁と向き合いながら寝転がってしばらく静かにしているほうを選ぶ。兄と、恋人の兄から苦情が来ているが、おれに言われても困る。恋人の決めたことだ。
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