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    copperzipper

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    ヒョウスパ♀小説
    !女体化  双子ダブルカプ まだ同棲してない頃の話

     水たまりをわざと踏みつけながら歩いていく。雨は上がっていたけども空には相変わらず水を含んだ雑巾そのものの雲ばかりがひしめいていて、いつまた、ぎゅうっと大粒の水滴を絞り出すかわからない。今日は雨と風と雷が元気な日だとテレビの中の天気予報士は繰り返していた。線の細い男の人が言うことも聞かない僕のことを、空はいやいやながら味方をしてくれたらしい。靴以外は濡れることもなく無事に白色のマンションに辿り着き、自動ドアをくぐって床も天井もぴかぴかとしたエントランスに踏み入る。きゅ、とうさぎの鳴き声が聞こえた。番号は覚えているから部屋の主を呼び出す必要はない。オートロックを解除して、第一の扉を突破する。エレベーターに乗り、降り、すべての電球に明かりがついた廊下を歩き、鍵を取り出して第二の扉を開けた。
     朝に来ようが夜に来ようが、この部屋はいつも真っ暗だったから気にはならない。でも人の気配があるのは珍しかった。黒色のパンプスが片方だけ横になっていたからきちんと並べ直して、僕も靴を脱ぐ。スイッチの場所はすぐに探り当てたものの、押すのはやめた。足音を殺して部屋を歩き、無作為に散らばった鞄や衣服に躓きそうになりながら、寝室の扉を開く。
     小さなかたまりがベッドの上にできていた。優しく扉を閉めて、そろそろと近寄ってみる。処方箋と書かれたくしゃくしゃの紙袋や役割を終えたPTPシートの死骸に囲まれて、きみの、真っ白な顔が見えた。
     子どものように体を丸くして、でも呼吸は乱れていない。矯正器具もつけていない。ただぎゅっと目を閉じて唇を噛み、薄い皮膚に皺を刻んでいる。鼻を啜ったり咳き込むこともしなければ震えてもいないから風邪の類ではないらしい。そもそも散乱している薬は、痛み止めばかりのようだった。生理痛はひどいほうだと知っているけども、確か、今月のものは二週間ぐらい前に終わったはずだ。どうしたものだろうと困っていると、一度眠ると舐めても吸っても入れてもうっとりと溶けるだけで起きはしないきみにしては珍しく、目を覚ました。雨雲色のまぶたを憂鬱げに震わせ、薄暗く弱々しい紫の光線を、うろ、と彷徨わせる。僕を見つけると訝しげに目を細める。そのあと眉尻を下げた。そんな仕草さえ、息切れしそうなほどにやっとという思い、といった雰囲気だった。
    「……帰ってくれ、今日はむり…」
    「どうしたの」
     きあつが、と呟いてきみはまた疲れたように目を閉じた。聞いたことはある。気圧や気候という、自分では対処しようもない存在でこうも苦しめられるきみをかわいそうだと思った。大人しくしていれば紫の花束のようにいい匂いのする女の人なのに、一枚花びらを剥けば、人を尊重することも優しくすることもなく、人を言葉で的確に傷つけるのが得意で、そのくせ人に愛されたがっていて、呆れるほどに仕事が大好きで、清々しいほどに自分のために生きている、ちょっと驚くほどの傍若無人ぶりを知っているから余計だ。
     床に膝をつき、頭を撫でるときみはほっとため息を吐いたあとに、帰って、と繰り返した。胃の裏がちくりと痛んだ。確かに僕ときみは、セックスから始まった関係で、その他大勢と違ってきみは僕に対しての役割はセックスだとはっきり自認してくれていたし、そして現に僕はきみとセックスをしたくてここにきているわけだ。だからといって目に見えて弱っているきみを放置してさっさと帰る男に思われていることに純粋に苛立った。そう思われても仕方ない振る舞いをしている自覚はあるし、僕も大概、自分のために生きたいほうなので反省する気もないものの、きみから、きみを気持ちよくする以外のことを微塵も期待されていないと突きつけられるのはどうにも堪えた。
     …どうしてつらいのだろう。僕は、僕と、血の繋がった双子の兄以外のことはどうでもいい。他人からどう思われたっていいのに。
     きみは唇まで真っ白だった。
     一層体を丸めて紺色の毛布の向こうに消え、きみはもう僕を忘れて意識を失うことに努めようとしていた。サイドテーブルには紙カップの中で完全に液体に戻ったアイスクリームがある。スーパーでも一番高い値段がついているアイスクリームをこんな目に遭わせて罪悪感を抱かないのはきみぐらいだろう。柔らかいベルベットの毛並みを掻き分け、桃の表面を撫でるときのように右頬に触れる。いつからそこにあるのか、僕の知らないきみの過去が心地よく僕を傷つける。面倒そうに開いた紫の宝石を覗き込んだ。
    「ねえ、またアイスでご飯食べた気になったんでしょ。で、目についた薬をいっぱい飲んで、気絶するみたいに寝て、いくらつらくったって、そういうの、よくないわ。もっと自分を大事にしなよ。そうだ、スープ作ってあげる。できたら起こすから、ちょっとでも食べようね。いい?わかった?」
     鬱陶しがられることを覚悟の上でまくしたてる。意外にもきみは目を丸くして、つくってくれるの、と弱々しく僕を仰ぐ。いいよと笑いかける。きみはようやく丸くなるのをやめて仰向きになり、つくって、とねだるきみはわかりやすく僕に甘えていて、年上の女の人だとわかっているのに、かわいい、と素直に思った。毛布を足のつま先までしっかりとかけなおして、手のひらを使ってまぶたをあたためてやると、きみはすぐに全身の力を抜いた。アイスクリームのカップを筆頭に銀色や白色のごみを集め、残っている薬はサイドテーブルにまとめておく。寝室のドアを閉める頃には、きみはまた丸くなっていた。
     さて、と焦る。正直なところ僕の料理のレパートリーは少なく、その中に病人向けのメニューはない。僕も、僕の料理を唯一食べている兄も、病気とは無縁なほどに体を鍛えているからだ。スープなんて作ったことはない。食べたこともないような気さえしてくる。コートのポケットからスマートフォンを取り出し、祈る思いでメッセージを打つ。時刻は夕方が近づく頃だ。ネクタイをしっかりと締め、今日も真面目に仕事をしている兄は、スマートフォンの通知ランプが何色になろうが開くことはない。ただそれは以前のことで、最近の家の中で見る兄は、薄っぺらい機械を大切そうに握って黒い画面をじっと見つめていることがよくあった。理由は聞いていない。でもあの執念のような気にかけが、勤務中にも適応されている可能性はあった。賭ける。的中、神はいた。五分と経たずに食材と作り方をごく簡素にまとめられたものが返ってくる。ありがとうとスタンプを押す。既読はつかないが気にはならない。ただ、僕よりはよほど料理上手だけど、僕と同じく病人向けのスープに縁のないだろう兄が、どうして詳しいのかは引っかかったものの、まあいいか、と切り替える。
     締め切ったカーテンの向こうが騒がしくなる。雨が降り出したようだった。
     コートを脱いでソファーにかける。キッチンに向かい、腕まくりをしたあとにふたつある鍋のうち小さい方をコンロに乗せる。ふと、はじめてこの部屋に来て、聞こえていないだろうとわかりつつも飲み物をもらうねときみに声をかけながら冷蔵庫を開けたときの緊張を思い出した。小さな冷蔵庫は野菜室まで水とアルコールしかつまっておらず、嫌な予感のまま冷凍庫を開けると、様々な種類のアイスクリームと氷が、まるでお店のように見事に整頓されていた。そうなるとキッチンの異様なまでのきれいさが気になり、戸棚という戸棚を開けて空っぽだったことにさすがの僕も絶句したのだった。仕事や趣味が好きで、或いは忙しすぎて、自炊まで手が回らない、もしくは関心がない。そういう人には飽きるほどに出会ってきたけども、ここまで徹底としてキッチンをキッチン扱いしていない人は初めてだった。僕がきてようやく本来の役目を思い出したキッチンと冷蔵庫は嬉しそうに仕事を始める。冷蔵庫がよく守っていてくれていた、にんじん、じゃがいも、キャベツ、玉ねぎ、かぼちゃ、ウィンナー。全部を細かく細かく刻み、キャベツ以外の野菜だけを先に鍋で軽く炒めてから水とコンソメを入れる。沸騰したら蓋をして弱火に切り替え、ゆっくりと煮込む。キャベツとウィンナーを入れてまたしっかり煮込む。満を持して火を止めて蓋を開ければおいしそうな湯気がたっぷりと噴き出した。野菜派ではない僕でも、くたくたになった野菜の匂いはほっとする。スープの味を確認し、塩をほんの少し足して軽くかき混ぜ、白い器に盛り付けた。クラッカーの中身のようにきれいな出来映えに、ほっとする。火傷させないためにプラスチックスプーンを選び、グラスに水を入れ、再び寝室の扉を開く。
     きみはますます小さくなってしまってかわいそうだった。激しい雨風の合間に雷鳴が何度も走る、こんな天気はきみにはよほど毒らしかった。できたよ、と囁く。ベルベットの蛹が揺れて、顔を出したきみは羽化する気力すらないほどに疲れ切っていたものの、いい匂いがするとへにゃりと笑った。ベルベットを剥くと光沢のある白色のパジャマが目に入る。その下にある、曲線も脂肪も少なく、それでも柔らかくて華奢な体を、僕は隅々まで思い出せる。必死に僕を咥えて汗を掻くこの体は本当に健気でかわいい。僕がはじめてで、僕が育てていると思うと余計だった。上半身だけを起こし、枕を立てかけたヘッドボードに凭れかけさせる。手を伸ばしてきたので膝の上に戻して毛布をかぶせた。
     スプーンの先に掬ったひとくちに、ふう、ふう、と息をかけてしっかりと冷まし、きみの小さな唇の間に差し入れた。小さな口がもぐもぐと動き、細い首がゆっくりと波打つ。
    「おいしい」
    「そ。よかった」
    「ヒョウ太の作るご飯、好き」
     ああキスがしたいな、と思った。コンソメ味のきみの唇に触れたい。ひんやりと柔らかい唇を食んで、つるりとした歯の形を舌でなぞって、僕と比べればあまりにも薄くて小振りな舌を一心に吸いたい。真っ白く冷えた唇を、真っ赤にしたい。キスってそんなに好きじゃなかったはずなのにな、と思いながらもうひとくちに息を吹きかける。大人しく口を開けたきみは、くたくたに煮た野菜のかけらをおいしそうにした。
     用量を確認してから、アルミに守られて行儀よく整列している突起に触れ、ぱき、と凹ませる。手のひらに乗せた薬を一息で飲み干したきみはまた蛹に戻った。中身の残った皿を流しに置きにいき、ついでにグラスの中の水を新しい水に入れ替える。スープはまだ残っていた。鍋に蓋をして、寝室に戻る。
     きみは驚いていた。帰らないの、とまたそういうことを言うから、サイドテーブルに水を置いてベッドに膝を乗せる。きし、と大げさな軋み音が聞こえたけども、僕ときみが何度も動いても壊れる素振りもないベッドだから大丈夫だ。毛布の中に潜り込み、薄くて小さな体に後ろから寄り添った。
    「僕が帰ったら、スープあたため直せないでしょ」
    「……できる、それぐらい」
    「だぁめ。それに僕、傘持ってきてないもん。わかってるでしょ。外、すっごい雨になっちゃって、こんな中帰ったら風邪引いちゃうよ。ここにいさせて。なにもしなくて、いいから」
    「…変なやつ」
     そう悪態はついたものの、僕の腕の中できみは上手に身を翻し、向き合う形になると抱きついてきた。すり、と僕の鎖骨に頬を擦り付け、僕を全身で引き止めたきみは早速眠る。あーあ、と思った。一度でも人に抱かれて人の匂いが染み付いてしまった獣は、もう獣の群れに戻ることはできない。いいか、と抱き締めた。僕はひとりぼっちじゃない。兄がいるし、きみもいる。眉間に皺を作らずに眠るきみの項をあたためながら、空が乾くのを願った。






    (20240118)
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    Replies from the creator

    copperzipper

    DONEヒョウスパ♀小説
    !女体化  先生とJKの話
    (読んでいただけるのなら ひとつ前に上げた話を読んでからのほうがいい…かもしれない)
     この学校ではバレンタインの名目で行うチョコレートの譲渡が禁止されていない。生徒間は勿論、生徒が教師に贈ることも、教師が教師に贈ることも許されていた。その寛容による被害を、男は一等受けていた。あらゆる学年の生徒や教師は勿論、日頃我が子が世話になっているからというもっともらしい理由を携えた保護者までも、男に甘い菓子を渡しにくるのである。しかし男は嫌がらない。いつも通りの笑顔に困惑を一匙加えた顔で頭を掻きながら丁寧に受け取っては即座に愛らしくラッピングされたマシュマロを渡し返した。最早周知のことで、男からの間のない返答を誰も悲嘆しないし怒りもしない。皆、答えがわかりきっていてなお、男に何かしらの好意を贈らずにはいられない。四方へ去った人間の数だけ四方から人間が増えるこの慌ただしくも複雑な環境の影響もあるのだろう。身なりはやや悪いがとかく愛嬌のある若くて穏やかな男は安直に好かれるはずだし、反して男は誰のことも好きにならなかった。生徒の悩みもくだらない世間話も等しく丁寧に耳を傾けたし、教師同士の飲み会にも参加するし、保護者の愚痴にもうんうんと頷いて付き合う。だが、蒲公英を分解してスケッチをし、あらゆる細胞を顕微鏡越しに観察し、猫とじゃれ合っては引っかかれ、拾った蜻蛉の羽を空に透かしている方がよほど好きという男だった。
    1778

    copperzipper

    MEMOヒョウスパ♀小説
    !女体化  双子ダブルカプの話
     彼らは一時間に一分間だけの口づけを許されていた。それが終わると何事もなかったように十二時の方向へと淡々と進んでいく長針を、取り残された短針が時々震えながら見つめている。恋人たちを引き裂き、二十二時が今日も無事に生まれたのを確認しておれは席を立った。あらかじめ話してあるので、誰も引き止めはせず、また来週だのお疲れさまですだのごちそうさまですだのを口々という。じゃあ、の一言で一括返信する。現時点の会計を支払い終えて外に出るなり寒さに身震いした。けれども身をすくめるよりも先に恋人を見つけたので嬉しくなる。
     おれが駆け足をするよりも恋人がやる大股歩きのほうが早い。飛び立つ前の烏のように腕を広げ、挨拶よりも何よりも先におれを抱きしめた黒いコートの冷たさに驚いた。飲み会を、十時に抜けることは事前に伝えていたし、早まることも遅くなることもないとわかっていたはずだ。なのに恋人の体は天然の冷房によって一時間分は冷えていた。名前を呼ぶ声が呆れと喜びで震えていた。ばかだな、とは続けない。仕事のため、体裁のため、交流のため、どれが理由でも人と飲み食いをし談笑をする機会はおれにとっては貴重で楽しくて嬉しい。それでもお前が嫌と言えばおれは行かない。昔のお前はおれ以外の人間ともセックスしていたが昔のおれは別にいいと許したし今も気にしていないから今更負い目を感じる必要もない。我慢しなくていい。我儘を言っていい。だというのに恋人は、嫌そうな素振りを見せないままいつも通りの笑顔でおれを送り出したあと、リビングの壁と向き合いながら寝転がってしばらく静かにしているほうを選ぶ。兄と、恋人の兄から苦情が来ているが、おれに言われても困る。恋人の決めたことだ。
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