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    ヒョウスパ♀小説
    !女体化  先生とJKの話
    (読んでいただけるのなら ひとつ前に上げた話を読んでからのほうがいい…かもしれない)

     この学校ではバレンタインの名目で行うチョコレートの譲渡が禁止されていない。生徒間は勿論、生徒が教師に贈ることも、教師が教師に贈ることも許されていた。その寛容による被害を、男は一等受けていた。あらゆる学年の生徒や教師は勿論、日頃我が子が世話になっているからというもっともらしい理由を携えた保護者までも、男に甘い菓子を渡しにくるのである。しかし男は嫌がらない。いつも通りの笑顔に困惑を一匙加えた顔で頭を掻きながら丁寧に受け取っては即座に愛らしくラッピングされたマシュマロを渡し返した。最早周知のことで、男からの間のない返答を誰も悲嘆しないし怒りもしない。皆、答えがわかりきっていてなお、男に何かしらの好意を贈らずにはいられない。四方へ去った人間の数だけ四方から人間が増えるこの慌ただしくも複雑な環境の影響もあるのだろう。身なりはやや悪いがとかく愛嬌のある若くて穏やかな男は安直に好かれるはずだし、反して男は誰のことも好きにならなかった。生徒の悩みもくだらない世間話も等しく丁寧に耳を傾けたし、教師同士の飲み会にも参加するし、保護者の愚痴にもうんうんと頷いて付き合う。だが、蒲公英を分解してスケッチをし、あらゆる細胞を顕微鏡越しに観察し、猫とじゃれ合っては引っかかれ、拾った蜻蛉の羽を空に透かしている方がよほど好きという男だった。
     今日の少女は生物準備室に入ってくるなり嫌そうな顔をした。昨日はなかったはずの紙袋の山がデスクを早々に占領して床にまで連なっているのを見つけたからである。そこから顔を出す色とりどりの小箱を見つければ、中身は容易に想像がつく。そもそも去年も彼女は同じ光景を見ている。きゅ、と薄桜色の唇を噛み、少女は帰ろうとしたものの、男はちょうどお湯を沸かしたところだよと呑気に笑った。普段は立てかけてあるパイプ椅子をいそいそと広げ、少女用のカップにドリップコーヒーをセットした。クッションまで置かれてしまえば、少女は座るほかなくなる。普段よりも狭い生物準備室に、苦みを含んだ香ばしい香りが広がる。
    「…先生は、本当に人気者ですね」
    「ヒョウ太でいいよ。この日はスパンダムさんも大変でしょ」
    「おれは……なにもしてない。女子たちが、男子たち全員にばらまく用のチョコ買うっていうから、お金だけ出した。たくさん買った小さいチョコをな、豆みたいに本当にばらまいてた。でもみんな、有難がって食べてたな」
    「うはは、豪快」
     なにか食べる、と男は気軽に問いかける。少女は首を振った。同性の同級生から、友チョコ、と称したものをたくさんもらったと話す姿を、男は緑茶を飲みながら聞いていた。
    「もらうばっかりになった。もらえるとも思ってなかったし…」
    「ホワイトデーにさ、返してあげなよ。スパンダムさんならおいしいチョコ知ってるでしょ。友達も増えるよ〜」
    「……おれの友達は、お前だけでいい…」
     ふふ、と男は笑った。デスクの隙間にカップを置く。飲み口の一部が欠けた、白いカップである。フィルターをシンクの角に捨て、完成した珈琲を少女に渡す。薄桃色のカップを受け取った少女は、少し安心したように黒い水面をじっと見つめながら指をあたためている。
    「じゃあさ、僕の分のチョコレート、用意してくれてるんだ?」
    「え」
    「友チョコ、だっけ。ちょうだい?」
     一足早く綻ぶ桜の唇を薄く開け、少女はじっと男を見つめた。普段はうつくしく嵌っているだけの紫の宝石が、くるりと潤み、男だけを酔わせる葡萄の色になる。その瞳がいよいよ芳しくなる前に伏せられた。
    「用意してない。要らないだろ、こんなにたくさんもらってるんだし。それに」
    「それに?」
    「……マシュマロは嫌いだ」
     結局、珈琲を半分も飲まずに少女は帰っていった。男は肩を竦めながら外を見やる。やや自業自得でもあるが、うまくいかないな、と小さく笑う。滅多としない自虐をこぼした男を笑うように、座っている椅子が、ぎ、と唸る。
     デスクの奥に忍ばせたマドレーヌは、また、自分で食べざるを得ない。去年も、今年も、駄目だった。来年はくれるだろうか、と考えながら男は窓の外を見やった。今にも雪が降りそうな灰色の空の下を、春咲きの花が足早に駆けていくところだった。








    (20240405)
    (一年後ももらえなかった先生)
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    copperzipper

    DONEヒョウスパ♀小説
    !女体化  先生とJKの話
    (読んでいただけるのなら ひとつ前に上げた話を読んでからのほうがいい…かもしれない)
     この学校ではバレンタインの名目で行うチョコレートの譲渡が禁止されていない。生徒間は勿論、生徒が教師に贈ることも、教師が教師に贈ることも許されていた。その寛容による被害を、男は一等受けていた。あらゆる学年の生徒や教師は勿論、日頃我が子が世話になっているからというもっともらしい理由を携えた保護者までも、男に甘い菓子を渡しにくるのである。しかし男は嫌がらない。いつも通りの笑顔に困惑を一匙加えた顔で頭を掻きながら丁寧に受け取っては即座に愛らしくラッピングされたマシュマロを渡し返した。最早周知のことで、男からの間のない返答を誰も悲嘆しないし怒りもしない。皆、答えがわかりきっていてなお、男に何かしらの好意を贈らずにはいられない。四方へ去った人間の数だけ四方から人間が増えるこの慌ただしくも複雑な環境の影響もあるのだろう。身なりはやや悪いがとかく愛嬌のある若くて穏やかな男は安直に好かれるはずだし、反して男は誰のことも好きにならなかった。生徒の悩みもくだらない世間話も等しく丁寧に耳を傾けたし、教師同士の飲み会にも参加するし、保護者の愚痴にもうんうんと頷いて付き合う。だが、蒲公英を分解してスケッチをし、あらゆる細胞を顕微鏡越しに観察し、猫とじゃれ合っては引っかかれ、拾った蜻蛉の羽を空に透かしている方がよほど好きという男だった。
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    copperzipper

    MEMOヒョウスパ♀小説
    !女体化  双子ダブルカプの話
     彼らは一時間に一分間だけの口づけを許されていた。それが終わると何事もなかったように十二時の方向へと淡々と進んでいく長針を、取り残された短針が時々震えながら見つめている。恋人たちを引き裂き、二十二時が今日も無事に生まれたのを確認しておれは席を立った。あらかじめ話してあるので、誰も引き止めはせず、また来週だのお疲れさまですだのごちそうさまですだのを口々という。じゃあ、の一言で一括返信する。現時点の会計を支払い終えて外に出るなり寒さに身震いした。けれども身をすくめるよりも先に恋人を見つけたので嬉しくなる。
     おれが駆け足をするよりも恋人がやる大股歩きのほうが早い。飛び立つ前の烏のように腕を広げ、挨拶よりも何よりも先におれを抱きしめた黒いコートの冷たさに驚いた。飲み会を、十時に抜けることは事前に伝えていたし、早まることも遅くなることもないとわかっていたはずだ。なのに恋人の体は天然の冷房によって一時間分は冷えていた。名前を呼ぶ声が呆れと喜びで震えていた。ばかだな、とは続けない。仕事のため、体裁のため、交流のため、どれが理由でも人と飲み食いをし談笑をする機会はおれにとっては貴重で楽しくて嬉しい。それでもお前が嫌と言えばおれは行かない。昔のお前はおれ以外の人間ともセックスしていたが昔のおれは別にいいと許したし今も気にしていないから今更負い目を感じる必要もない。我慢しなくていい。我儘を言っていい。だというのに恋人は、嫌そうな素振りを見せないままいつも通りの笑顔でおれを送り出したあと、リビングの壁と向き合いながら寝転がってしばらく静かにしているほうを選ぶ。兄と、恋人の兄から苦情が来ているが、おれに言われても困る。恋人の決めたことだ。
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