露呈 いつもは賑やかで楽しげな歌声が聞こえて来るセカイは、夜だからか静まり返っている。
普段立寄る広場やステージを通り抜け少し遠くまで足を運んだ先にある小さな花畑が、今回の目的地だ。
たまたま見つけた、人が立寄ることの無いこの花畑は、二人が周りに内緒で過ごすのに都合が良かった。
この花畑は最初から存在していたのか、二人きりの空間が欲しいと願った彼の想いの反映なのかは、わかっていない。
「おや、早いね。まだ、時間まであるんじゃないかい?」
「思ったより早く時間が出来てしまってな。ここでのんびりさせて貰っていた」
予定ではまだ存在していないはずの金色に向かって声を掛ける。
横たわっていた彼が返答とともに体を起こしたので、その隣に腰を下ろした。
「もう、寝る準備は出来ているか?」
「ああ。君に指定された通り、全部済ませてきたよ」
沢山の人に生誕を祝って貰った後、別れ際にこっそりと告げられた要求。
それは、家族との時間をしっかり過ごした上で、戻ったらすぐ眠る事の出来る準備をしセカイの花畑まで来て欲しい、とのことだった。
「もっとご両親とゆっくりしていても良かったのだぞ?」
「ちゃんと、時間を気にせず過ごしたさ。二人とも明日が早いみたいだったから、この時間にはフリーになったわけだよ」
もちろん、嘘では無い。
夜は両親に生誕を祝ってもらったが、この後予定があるなど伝えていないのだ。
寧ろタイムリミットがあったのは親の方で、そのために夕飯の時間が普段より少し早くなっていた程だった。
「ならばよし!」
「それで、ご要件は何かな? もう既に、君からも沢山貰ってしまっているのだけれど」
『――誕生日おめでとう、類!』
今日という日が始まるほんの少し前に彼から電話がかかってきて、日付が変わった瞬間告げられた祝いの言葉。
日中には彼らと予定があったため、まさか日付が変わって真っ先に祝って貰えるとは思っていなかった。
『オレが一番に伝えたくてな! 夜遅くに失礼した。明日の主役が本調子では無いなど許さないから、直ぐに寝ること。おやすみ!』
なんとなくじっとしていることが出来なくて机に向き合っていたのだが、電話を受けて机から離れ横になった。
すぐには寝付けなかったが、気が付いたら朝日が昇っていて……なんて事態にならずに済んだのは、彼のお陰だろう。
そして、その後の生誕イベントに誕生日プレゼント。
お礼を求めるなどという行動を起こすような彼では無いことがわかっているので、余計に目的が分からなかった。
「オレが、プレゼントだ!」
突然両手を広げ辺りに響き渡る声で、彼は高らかに告げた。
今、こうして二人の時間を作ってくれただけでも嬉しかったというのに、彼は予想を遥かに上回る行動を起こしていて。
今日だけで何度驚かされただろう。
嬉しいと感じると共に、ほんの少しだけずるいと思ってしまった。
「……なら。司くんが、僕にしたいと思うことをして欲しいな」
「オレが、したいこと?」
想定していない回答だったのか、彼は腕を組み考えこんでしまった。
意地悪をしてしまった事に反省しつつ、体を寄せ頬に口付けする。
「君がいつも何かを我慢しているのは、気づいていたんだ」
「そ、れは……」
「プレゼント、くれないのかい?」
少し悩んでいる様子だった彼は、やがて照れたような笑みを浮かべると顔を近づけて来た。
目を閉じると額に感じた柔らかな感覚は、こめかみ、頬と少しずつ下へと降りていく。
ようやく触れ合った唇も長居すること無く通り過ぎていき、喉仏に再び柔らかな感覚が届く。
「んっ……擽ったいね」
「嫌か?」
「ううん。恥ずかしいけど、嫌じゃない」
彼とは何度か唇を重ねたことがあるが、こんなに優しく様々な箇所に口付けを貰ったことは無かった。
あまり見る機会のない姿を見せて貰えているという感覚に、気分が高揚してくる。
首元に口付けされると、パジャマがズラされ肩が晒される。
そのまま密着するように腕が背に回されると、彼は肩に顔を埋めた。
途端生まれたこそばゆさに甘噛みされているのだと気付き体が反射的に離れようとしたが、回された腕に阻まれ逃げることは叶わなかった。
「ずっ、と……僕にしたかったのかい……?」
「……っ」
「ふ、ふっ……これはなかなか、情熱的なプレゼントを貰ってしまったねえ……っ」
様々な角度で、それでも痕は残らないように配慮してか優しく歯が当てられる。
その優しすぎる刺激が存外こそばゆくて息が震えてしまい恥ずかしいが、赤裸々に感情を伝えてくれることが嬉しくて止めようとは思わなかった。
「んっ、ぁ……ふ……っ」
「類……大丈夫か」
「んっ……ふふ。大丈夫、だよ」
肩から離れていった彼の腕に引き寄せられ、抱き締められながら息を整える。
これは、知っている。
彼は自分を腕の中に閉じ込めるのが好きなのだ。
先程とは違う熱がなんだか嬉しくて、くつくつと笑ってしまった。
「ありがとう。司くん」
「……ああ。なんだか、恥ずかしくなってきたな」
「お陰で更に君の事を知ることが出来たから、僕は満足だよ」
呼吸が落ち着いたので体を起こすと、頬に手が添えられる。
目を閉じて触れ合った唇は、今度は暫く離れることは無かった。