ざんはるメインストーリー_1話「幸せだね、幸せだねぇざんじ」
母がぼろぼろになりながら毎秒のように呟くその言葉の意味が、俺にはよく分からなかった。
「ざんじも幸せ?」
「……?わからない」
俺が答えたその言葉を最後に
「…そっか」
母は目の前で自殺した。
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2010年.9.23
「幸せ……幸せ……しあわせってなに?」
「……あ?」
自分とよく似た瞳に睨まれる。次の瞬間、急に腹部に激痛が走った。殴られたのか蹴られたのか、確認をする前に次々と痛みの雨が襲う。…お母さんは毎回これに耐えていたのか。
「…あの女、自殺なんかしやがって、あーめんどくせ、こんなガキ残して、一緒に死んでくれりゃよかったのに」
…お母さんは数週間前に目の前で自殺した。やさしくてあったかくてふわふわしていたお母さんはもういない。ショックなのか、なんなのか、それ以来、俺は何をしても、何をやっても、何も感じなくなった。……でも、でも
「パチンコ行ってくるわ、その間に酒買ってこいよ、買ってきてなかったらまた殴るからな」
「……幸せ」
「……それしか言えねぇのか、クソガキが」
ガチャン、ドアが閉まる音がした。鈍い音が響いていた部屋は静寂に包まれる。
お母さんが最後まで言っていた『幸せ』とはなんなのか、その言葉だけが、何も感じない心の中で響いていた。
「……本、絵本、、、しらべてみればなにか、、」
お母さんが買ってくれた少ない絵本のページをめくる。
「幸せ、幸せ……」
ざんじは本をめくる
「幸せ、幸せ、幸せ……」
ひたすらめくる
「……うんめい?こいびと?」
そうしてみつけた
「……あい、うんめいの、ひと?」
彼の答え
「…うんめいのひと……!」
ガチャン、ドアが開く音がした
「…おい、酒買ってきてねぇじゃ「お父さん!」
勢いよくお父さんに抱きつく
「みつけたの!幸せをみつけるにはね!うんめいのひとが」ゴッ、
鈍い音ともに頬に激痛が走る
「……なぁに酒も買ってきてねぇのに飛びついてきてんだ?気持ち悪い」バキッ、ゴッ、
次々と殴られる、顔を見上げると、お父さんは今まで見た事がないような表層でこう告げる。
「……ッ運命の人なんてなぁ」
その言葉を聞いた瞬間
「いねぇんだよ!!!!」
目の前が真っ赤になった
次気がついた時には、お父さんらしき肉片が転がっていた
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あれから2週間がたった、腐った死体の匂いが部屋を充満させて、息がむせかえりそうだった。
お母さんが死んでから食べ物も飲み物もあまりない劣悪な家庭、少ない食料を漁り何とかやってきた。だけどもう限界が近づいているのか、1歩ももう動けない。
「……しあわ、せ」
最後まで考えるのは、お母さんが最後に教えてくれたその言葉、そんなことを考えていると、
玄関から足音がした。
近づいてくる足音、リビングのドアがガチャッと開き、目の前に冷たい顔をした男がしゃがみ込んだ。
「……お前がざんじか」
そう告げる男に、静かに力なく頷くと
「この死体……お前が殺したのか」
「……う、ん」
自分の声とは思えないほどかすれた声が出る
「……そうか、ざんじ……お前が知りたいものを教えてやる。」
その言葉に動かない体がピクリと反応する。力が入らない腕に無理やり力を入れて起き上がる。
「ただし、条件がある、俺のもとで、殺し屋として雇われろ。幸せを、教えてやる」
差し伸べられた手のひらに、その言葉に、目を輝かせ、静かに手を取った。
「……よし、契約成立だ」
その日から、人を殺し人を求める、不思議な生活が始まった。
2010年.10.7の出来事だった
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続く