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    ひとねむり

    竹くく 勘くく
    小説

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    ひとねむり

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    🎋📛
    現パロ 同棲、しばらく一人でお留守番するたけやくん
    同性も普通の世界観でやってます

    お留守番 兵助が、今日から実家に帰る。
     
    同棲の解消……なんて危うい理由ではなく、実家の方で区画整理があるようで、そのためにお手伝いが必要らしい。期間は3日ほど。久々の帰省なんだからもう少しゆっくりしてこれば良いのに、仕事の折り合いをつけた上でそんなものらしい。
    それでも久々の帰省だからと、兵助は駅で持てるだけのお土産を買っていた。わざわざ駅まで送ってくれなくても良いのに、と兵助は口では言いつつも嬉しそうだった。
    「じゃあ、気をつけてな。少しはゆっくりできるといいな」
    「うん。ありがとう。八左ヱ門も羽を伸ばせよ」
     改札を潜って、また振り向いた兵助はもう一度とばかりに八左ヱ門に手を一振りし、ホームへ歩いて行った。八左ヱ門も手を振り返しながら見送って、少し寂しい気持ちになる。

     今日から3日間、一人、か。

     ほんの少しだけ、寂しい。でも三日間のことだ。
     ……それなら、むしろ。あれだ。この気持ちは。
     ……開放感。

     だって久しぶりの一人の時間だ!!

     同棲を初めて二年。多少の喧嘩はあっても、大きなトラブルなんてない。お互いにこだわりを持つ面があり、そうでない面においては無頓着な二人だ。それに兵助は二人で過ごす生活の中で食い違うことがあれば、ちゃんと理解し、二人が納得する方法を考えてくれる人だ。豆腐を除けば。八左ヱ門だって理解しようと努めているつもりだ。衝突よりも、それ以上の恋人との生活というメリットを過分に受けており、八左ヱ門は毎日を過ごす中で不満を感じてなんかいない。
     二人で過ごしているからこそ、お互いが気持ちよく過ごせるように配慮するのは当然で、それは愛情でもあり、だけど、まぁ、言い換えれば我慢でもある。

     だから八左ヱ門は、今、開放感を感じている。本当に、本当に、久しぶりの一人の時間! 何も気兼ねすることなく、好き放題できる!!

     兵助は豆腐が好きで、食卓の上の一品には絶対に豆腐料理を入れる。食事においてそれ以上のこだわりはない。とは言いつつ、食は細い方だし、料理してくれても油っぽい食事に傾倒することはない。
     だけど八左ヱ門は、肉が好きだ! 栄養バランスなんてそっちのけで油っぽい食事が好きだ! 肉も好きだし、なんならインスタントも好きだ! スタミナ系の丼もの一品だけでも良いくらいだ! 豆腐よりも、よっぽど好きだ!!
     映画だってアクションが好きだ! 派手で分かりやすいストーリーが好きだ!! 長い映画だって観ていられない! 小難しい話は良く分からない! 怖いのだってあんまり観られない!
     兵助はちゃんと風呂に入ってベッドで一日を終える規則正しい生活をする。八左ヱ門だって基本的にはそうである。でも、何件も呑み歩いて、食べに食べて、へべれけの酩酊でふらふらと楽しい気分のまま、こたつで寝るのだって好きだ!! 本当は洗濯物だって、洗濯機が飽和状態になるまで溜まっていたって気にならない。掃除なんて別にしなくたって気にならない! インスタントのご飯とお菓子をテーブルに広げて適当につまんで、ビールを開けて、バラエティとか派手なアクション映画を見てダラダラしているのって、なんて至福な楽しい時間なんだろう!! こんなの兵助がいたら出来ない!!
    だから一人って楽しい!!
    最高に、楽しい!!


    「あ、八左ヱ門?」
    「兵助? どうした? そっちはどう? 明日何時に着きそう?」
    「それがちょっとトラブルあったみたいで、帰るの遅れそうなんだ」
    「え、大変じゃん。大丈夫? 仕事は?」
    「それはさっき電話して、どうにかしてもらえたから平気。だから帰るのは、三日後になると思う」
    「ふーん……」
    「おかげでおじさんが捕まえた鹿肉がいい感じに熟成されそうだよ。お土産に持って帰るからな」
    「え、嬉しい」
    「八左ヱ門は楽しんでる? 久々で羽伸ばせたかな? もうちょっと自由に過ごせるな」
    「まぁ……、それより兵助も体調とか、多少気も遣うだろ? 色々気をつけろよ」
    「ありがとう。大丈夫だよ。八左ヱ門もな!」

     差し障りない会話が続いた後に、じゃあな、と電話が切れた。電話の向こうは深い山の方というだけに静かだったし、むしろこっちのが都会の喧騒の音が絶えず窓から響いてくるぐらいなのに、電話を切った瞬間無性に静けさが広がった。
    「三日後、かぁ……」
     乱暴にソファに寝転がる。まだ兵助は帰ってこないらしい。と言うことは、あの洗濯物はまだ畳まなくても良い。洗濯も回すのは明日以降でいいか。掃除は帰ってくる前日でいいか。洗い物も、外食とかお惣菜とかインスタントばっかだからそんなにない。だから、もうちょっと自由気ままな生活が送れるのだ。

    ……でも、なんか、……飽きたな。

     昔一人暮らしをしていた時は、適当な飯にもこんなに早く飽きることはなかった。八左ヱ門も兵助によって豆腐に慣らされてしまったということなのだろうか。なんとなく豆腐の味が恋しい。でも食べたいか、作るか、となるとそういうことでもない。丁寧に作った煮物料理があろうと、魚料理があろうと、肉料理があろうと、……一人で食べてもなぁ。
     映画も、他に見たいのあるけど、まぁいつでも見れる。兵助だって付き合ってくれる。大して面白くはなさそうにしながらも見てくれる。でもたまに、思わぬ琴線に触れるかのように楽しそうな顔をしてくれるのが嬉しいし。こたつで寝るのもやっぱり疲れが取れないし、夜遅く起きてても翌日に響くだけだし。外食も結局二人で行ったほうがたくさん頼めてお得だし。二人用のソファは、一人だとのびのび出来る。それも、なんだか落ち着かなくて笑えた。

     一人の開放感をひとしきり楽しむと、二人分だった空間が、しみじみと広く八左ヱ門の心の空洞になって物足りない。
    別に電話でも話せる。メールも出来る。三日後に帰ってくる。だけど、昨日見た新しい野良猫の話とか、仕事先で誰かがしていた笑える話とか、つまらない映画の話とか。そんな取り止めのない話をするためだけにメールするのも変だし、だからといって三日後では話の期限が過ぎたように面白みもないものだと思う。今、色んな事を、話したい。過ごしたい。共有したい。でも、兵助はまだ帰ってこないのだ。
    なんだかつまらない。飽きた。
    ……寂しい。

     俺、兵助のこと、好きなんだなぁ。

     桜の花がひとひら散る時のような呆気なさで、そう思った。当たり前のことが、身に染みた。
     一人の開放感があんなにも嬉しく、一人での生活がこんなにも寂しい。離れている時間が愛を築く、とか、誰が言ったことだろう。陳腐なことだけど、本質をついているじゃないか。
     だって、あと三日は、こんなにも遠い。




     迎えに行くから時間教えて、と連絡したら、電話口の向こうの兵助は『気を遣わなくてもいいのに』と笑いながらも嬉しそうな響きに聞こえて、空洞が広がる八左ヱ門の胸に、なんとも暖かく響いた。
     一度の予定外がありつつも、なんとかその一回きりの予定外で帰ってくてくれることに八左ヱ門は安堵した。ダラダラと一人考えることの増えた夜に、八左ヱ門は兵助に付き合って見た因習村ホラー映画が浮かんで、ここだけの話、気が気でなかった。殺人事件とかあったら……、祟りとか……、なんか変な祭りとか儀式は見たことないけど……、おじさんたち皆良い人だけど……、とか、まぁ色々と考えてしまっていた。けれど、そんな杞憂を振り払ってくれるように兵助は楽しそうにお土産の話と、ちょっとだけ苦労話をしてくれて、その話ぶりに帰省を楽しんだ様子が伝わってホッとした。

     兵助の実家は遠いから、朝に出ても着くのはほとんど夕方だ。帰省ラッシュに当たる時間帯、いつもと違う帰り道の電車に乗って兵助を迎えに行くのは、特別な感じがしてワクワクした。
    昨日、家はちゃんと整えた。掃除に洗濯、洗い物。お互い疲れているから、今日は外食かお惣菜で良いだろう。このたった数日間で飽き飽きした料理といえども、兵助と一緒に食べると思えばつまらない気持ちにはならなかった。洗濯も洗い物も、二人分になる。あっという間に増えるだろう。兵助は疲れているから、八左ヱ門がやろう。
     そう思っていた時、ホームから降りてきた兵助と目が合った。
     手を振る隙もない。兵助は一直線に人の波に乗って、改札を目指した。一人ずつ抜けていく改札に兵助の番が巡ってくるのを八左ヱ門は見る。行った時よりも多い荷物が目に入ると微笑ましい気持ちになる。改札の目の前に近づきたい気持ちはやまやまに、通行の邪魔にならない隅で待つ。改札を潜った兵助が一目散にこちらに小走りでくるのを、八左ヱ門は手を降りながら迎えて、目の前に来た兵助を抱きしめた。
    「お!? あ!! あ、八左ヱ門!?」
    「おかえり。六日間って長いなー……」
    「え、あ、あ、そ、そう? ゆ、ゆっくり出来た?」
    「うん。十分に。楽しかった。だからしばらくはお留守番できない」
    「えー……? え、……どうした? 寂しかったの?」
    「そう。一人って、つまんないな」
     空港や駅で、おそらく恋人同士の二人が嬉しそうに抱擁する様を八左ヱ門も何度か見たことはあったけれど、まさか自分もそちら側の人種だとは思わなかった。しかも、言ってしまえばたかが六日間の別れでしかないのに。それでもたかが六日間ぶりの兵助が、今勢いよく八左ヱ門の空洞を埋めていれば、それが答えである。
    「ただいま」
     荷物を両手に抱えて動きづらそうな兵助の両手が、八左ヱ門の背中を優しく叩く。帰省の間、八左ヱ門に対して申し訳なさか嬉しさかのどちらかだった兵助の声色に、寂しさと安堵が滲んでいた。兵助が帰ってきた実感を味わって、八左ヱ門の空洞が、ようやく全て埋まっていった。
    「お土産、鹿とね、猪ももらった。あと干し柿! あとー、えーと、色々! 他にも持ってけって言われたけど、持ち切れなくて」
    「すごい。それでも十分なのに。みなさん相変わらず、兵助に何かしてあげたくて仕方ないんだなぁ。俺もお礼言わないと」
    「もっとお土産増えるよ」
    「じゃあ今度は俺も行く」
     兵助はきょとんとした顔をした後に、目を細めて面映い顔をした。そして、「だからもっと増えちゃうよ」と笑いだす。
     一人の生活がまた二人に戻っていく。兵助の話を、今日はうんと聞こう。途中で疲れて寝てしまうかもしれないから、早くベッドに入って、寝入る直前まで話そう。それで、また明日から、取り止めのない八左ヱ門の日常の話を兵助と共有していこう。

     一人の生活は、楽しい。でも兵助と一緒だと、もっと、幸せだ。
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    ひとねむり

    DONE🎋📛
    室町 女装して女の子と張り合うくくちくん
    女装 始まりは、八左ヱ門が村の娘を助けたことだった。

     荷運びをしていた最中なのだろう、荷物が辺りに散らばっていてその横に娘が転がるように座していた。足を挫いただろうことが一目瞭然な状況に、八左ヱ門は少し迷った後、手を貸した。最初は不審そうに、なんなら迷惑そうにしていた娘だったが、自分では動くに動けず困っていたのも確かで、結局八左ヱ門の手助けを受けた。最初は淡白だった娘の受け答えも、歩みが進んで行くうちに本来の性格が出てきて、活発で明るい表情になって楽しげな会話を交わしてくれた。家まで送って去ろうとする八左ヱ門を引き止め、最後にはお礼を申し出るくらい気を許してくれた。
     断れないまま受けたお礼は、また別のお礼になる。会うきっかけとなる。八左ヱ門もお礼を返した。そうしたらまたお礼返しになる。やめ時がなくなる。断ることも難しかった。積極的な娘は押しが強かった。娘の魂胆が分かったところで、あくまでお礼の体裁を取る娘は断るとしおらしく振る舞って、八左ヱ門の罪悪を突く。くのいちじゃなくても女は駆け引きがうまいなぁ、と感心してしまうし、それでもいつまでもこの魂胆に乗ってもいられない。けど、うまく断れなくて!!
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    ひとねむり

    DONE竹くく 室町
    久々知くんが護衛先の娘さんに気に入られちゃった話
    護衛任務「兵助、帰ってこないの?」

     己の口調から滲む不機嫌さは、これでも抑えたつもりなのに全然隠しきれていなくて、余計に不機嫌な気持ちになってしまう。勘右衛門は肩を竦めて「ご覧の通り」と少し笑う。そこにいるのは、勘右衛門一人。見たまんまの状況。つまり、兵助は帰ってきていない。まだ、任務の最中なのだ。
     それが、八左ヱ門は気に食わない。

     武家の姫さんが良からぬ輩に狙われているので護衛を頼みたい。
    い組がその任務に選ばれたのは、ただ都合よく身が空いていて、内容もちょうど良かったからだ。年頃の姫さんという対象に、いささか色めき立った者もいれば、高貴な血筋らしい身分に気後れする者もいたりと、様々な反応だったらしい中でも、八左ヱ門が「いってらっしゃい。気をつけて」と送り出した兵助は平素と変わりのない態度だった。むしろ、どちらかと言えば、前日に逢瀬の際に「しばらく会えなくなるなぁ」と呟いた消沈した声と、詫びしげな顔ばかりが残っている。二人だけの時に見せる顔は、日が昇ればすっかりと引っ込んで、切り替わる潔さと任務に据える心意気は、八左ヱ門が好ましいと思う兵助の一面でもある。だから、頑張れよ、と送り出した。あの時は本気で、本当にそう思っていた。
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