12/11:鍛錬後 今日はここまでにしようと、ジークフリートが大剣を下ろす。白竜騎士団の団員達が皆、体を休める時間帯。静寂に包まれた訓練場には2つの影があった。
ランスロットはジークフリートに駆け寄ると、ありがとうございましたと一礼する。見習い団員達に稽古をつけるために王都を訪れていたジークフリートは、仕事をすべて終えた後のランスロットの鍛錬に付き合っていた。
「俺の我儘に付き合わせてしまい、申し訳ありません」
畏まるランスロットに、ジークフリートは笑みを漂わす。
「気にするな。俺もお前と手合わせしたかったからな」
ジークフリートからの温かい善意に対し自惚れそうになっていることを悟られないように、ランスロットは話題を振る。
「そういえば、体調は大丈夫ですか?」
竜の血の力による影響について尋ねると、今の所は問題がないと彼は告げる。表情には偽りはなく、その答えに一先ず安堵していると、ジークフリートがぽつりと語り始めた。
「いつ竜の血の力が暴走するかわからず、なるべく他人との稽古を避けていたこともあった」
話を聞くランスロットの脳内に、過去の王殺し事件の時のジークフリートの姿がよぎる。あの姿を目の当たりにして抱いてしまった感情を、もう、何者にも抱かせたくないと剣を握る手に力が入る。何か伝えなければと、名を呼ぼうとした直後ジークフリートが言葉の先を紡ぎ出す。
「だが、お前達のおかげで、その考えを改めることが出来たんだ」
曰く、万が一の時は必ず止めると言ってくれた彼らの言葉が抑止力になっているのか、白竜騎士団の団員達、グラン、そしてグランの騎空団の者達との稽古の間は、竜の血の存在を忘れられている気がすると、彼はそう言った。
「思い込みでしかないだろうがな」と少し呆れた様に笑うジークフリートに、ランスロットは体の奥から熱が込み上げる気がした。嗚呼、この人はやっと、他人への頼り方を知ったのだ。
これからも、稽古を頼んでも良いだろうか?という師に、ランスロットは目の奥の熱が溢れないように力強く、勿論ですと返事をした。