12/21:山茶花 花首から落ちるのが椿で、花弁が落ちるのは山茶花。
ランスロットは小さい頃に幼馴染の祖母から聞いた話を思い出しながら、公園に咲く赤い花をぼんやりと眺めていた。
今日は授業が午前中で終わるという話をしたら、ジークフリートから昼食に誘われたのは今朝のことだ。授業を終えたランスロットは、脇目も振らずに待ち合わせ場所へと向かった結果、約束の時間より随分と早く到着してしまった。
待っている間なんとなく、周りに植えてある植物や人に慣れた鳩を見たりしていたが、なかなか時間は進まない。特に何をするでもなくスマホをポケットから取り出し、明日以降のスケジュールが記されている画面を開いていると、すぐ近くで楽しそうな話し声が聞こえて来た。
「この色だったら“あなたがもっとも美しい”じゃないかな?」
よくわかるねぇ、と相槌を打つ相手に得意げに話す少女は、もっと知識を披露すべく別な花が咲いている方へと友人と共に駆けて行く。
先程の内容からするに、花言葉の話をしていたらしく、立ち位置的に目の前の山茶花のことで間違いはなさそうだった。見分け方は知っていても、言葉までは知らなかったと、ランスロットは改めて掌くらいの赤い花をまじまじと見つめた。
先ほど聞いた花言葉が何故かずっと心の中に残っており、ぐるぐると思案し続ける。送るとしたら誰に。そもそも自分が美しいと思う相手は誰なのか。それは、多分。
「もう着いていたのか」
ぎくりと大袈裟に驚いて声の方へ顔を向けると、そこにはスーツの上にチェスターコートを纏ったジークフリートが立っていた。
「待たせてしまってすまなかったな」
と言う彼の言葉でランスロットは我に帰り、謝らないで下さいと焦り混じりに伝える。
「俺が早く着いてしまっただけなので、本当に気にしないで下さい!」
声は上擦っていないだろうか。そんな不安をよそに、ジークフリートはランスロットの言い分を目を細めて聞いていた。
「ふふっ……そうか。では、行くとしよう」
はい!と返事をすると、ジークフリートの後ろを実直について歩くランスロットは隣に並ぶまでの間、顔の火照りを逃がそうとあれこれ考え続けていた。
待つ事になったとしても早く待ち合わせ場所に行きたいと思った理由と、花言葉を聞いてジークフリートを思い浮かべてしまった理由はおそらく同じものだ。そのことに今更気付いた事実がなんとも言えず恥ずかしい。
山茶花はこんな人間を何人も見守って来たのだろうかと、ランスロットはそう思わずにはいられなかった。