二人と綺羅星。海と山に面した朱桜家の別荘。子どもの頃に何度か夏を過したこの場所は、なんだか大きな秘密基地のように感じていたのをよく覚えている。今はレオさんと二人、久しぶりに重なった休日を使ってこの別荘へ夏休みのキャンプに来た。別荘は定期的に清掃されている為か、以前とさほど変わらないようだ。持ってきた食材や荷物を一度片付けて、水着へ着替え海へ向かう。
「つめたっ」
夏とはいえ海の水は冷たく、足元から熱を奪っていく。暑い日差しで火照った身体にはその冷たさが気持ちいい。ゆっくりと腰まで浸かると、先程までの冷たさにもだいぶ慣れてきた。バシャッとレオさんは海にダイブして少し離れたところまで泳いで遊んでいる。
「司、見てて!」
「はい、見てますよ♪」
素潜りも得意なようで、潜ってはピョコっと水面に顔を出してまるでイルカとかアザラシみたいな泳ぎだ。潜ったあと、しばらく出てこないな?と思っていると、ズルっと足を掴まれて海底に引き込まれる。
「わぁっ!」
思わずギュッと目を瞑っていると、肩をトントンと叩かれ、恐る恐る目を開けた。目の前には、レオさんがいたずらっ子な顔でこちらを見ている。水中で怒り半分にやり取りをしていると、急に酸素が足りなくなってゴポッと空気の泡が漏れ出す。レオさんは慌てて口付けると、ふぅっと酸素を分けてくれた。
「ぷはぁっ!」
やっと水面から顔を出し、肺に空気を送り込む。脳にも新鮮な酸素が行き渡ると、やっと呼吸も落ち着いた。
「もう!レオさん」
「ごめんって、司に見せたい技があったんだけど、水中の方がいいかと思って。」
「でしたら、先に言ってくださいまし。全く…溺れるかと…。」
「でも、溺れなかっただろ?」
「そ、それはそうかもしれませんが!」
「ねぇ、今度こそ見てて!」
そう言うと、レオさんはまた水中に潜っていった。今度は大きく息を吸って、水中に潜る。すると、目の前で泳ぐレオさんはくるっと身体を翻して、プクッと泡でいくつも輪を作って見せた。レオさんの作った輪は、どんどん大きく広がっていき、水面にポコッと浮き出る。
「わぁ〜♪すごいです、レオさん!」
「だろ〜?バブルリングって言うんだけど、イルカが自分で気泡のリングを作って遊ぶらしい。」
「そうなんですね!つかさにもできますか?」
「練習すればできるんじゃないかな?」
「つかさ、練習します!」
「うん♪」
レオさんに教えてもらいながら、なんとか小さなバブルリングを作れるようになった。他にも、貝殻を見つけたり、どっちが砂でかっこいいお城を作れるか挑戦したり、海で冷やしていたスイカも食べた。
「はぁ〜楽しかった♪」
「つかさも、こんなに遊んだのは久しぶりです♪」
「そろそろ戻ってご飯の準備しよっか。」
「そうですね!」
貝殻一つ、砂浜に残して別荘へと戻った。シャワーを浴びて着替えを済ませると、レオさんは火起こしの準備を進めている。野菜は予め家で切ってきたし、お肉も串に刺してある。あとは、焼いて食べるだけ。パチパチと炭が音を鳴らして火の粉を散らしている。
「そろそろですかね?」
「うん、もう焼いてもいいよ!」
ジュウッと美味しい音がする。それだけで、なんだか楽しくなってきて、レオさんとワクワクしながらお肉が焼けるのを待った。
「いただきま〜す!」
「うん、美味しい♪」
沢山用意していたはずのお肉は、あっという間に平らげた。次は、デザートにと持ってきたマシュマロを焼いていく。トロッと溶けていい感じの焦げ目が出来た。焼いたマシュマロをチョコとクッキーに挟んで食べると、口の中に温かな甘さが広がる。
「このスモア、出来たてでとっても甘くて美味しいです♪」
「結構甘いけど、意外と好きかも♪」
「それは良かったです!」
「こんなカロリー爆弾食べたなんて知ったら、怒られちゃうな?」
「これは、二人だけの秘密にしましょう。」
「秘密な♪」
デザートも食べ終わり炭を片付けていると、レオさんはトングを使って炭を一つ掴み、どこかに行ってしまった。またなにか思いついて遊んでいるのだろうとレオさんが戻ってくるのを気長に待ちながら片付けを進めた。
「つかさ、こっち!」
片付けも終わり、ソファーに座って寛いでいたところ、レオさんが走って呼びにきた。レオさんは手を引くと、砂浜へと歩いていく。連れられた先の砂浜には、流木が積み上げられて綺麗に燃えていた。
「ジャーン♪キャンプファイヤーです!司としてみたかったんだー♪」
「これ、レオさんが作ったのですかつかさ、初めて見ました!」
「そうなの?はい、これ持って!」
「あ、花火!」
「やろ♪」
シューッとカラフルな火花が散る。赤や緑、黄色、オレンジ、が二人の楽しげな顔を照らす。火薬の匂いと煙に包まれながら、クルクルと花火を回したりハートや星を描いたりして二人で花火を楽しんだ。最後の花火の火が消えると、辺りはキャンプファイヤーの炎だけで真っ暗になっていた。
「おいで。」
レオさんの呼ぶ方へ行くと、レジャーシートに寝転んで、隣をポンポンと叩いている。レオさんの隣に同じようにして寝転ぶと、見上げた先は、今にも降ってきそうな程の無数の星。時折、星が流れていくのが見える。
「わぁ……!」
「世界に二人だけみたいだ。」
180°どこをを見てもキラキラと輝いている綺羅星に、なんだか別の世界へ来てしまったような錯覚をする。隣にいたレオさんの手を握ると、レオさんもそっと握り返してくれた。
「綺麗…。」
天の川に夏の大三角が浮かび上がっている。ベガとアルタイルを繋いでくれるデネブ。綺麗に白鳥が羽ばたいているのが見えた。こうして、同じ星空を見上げているレオさんともデネブが繋げてくれているようなそんな気がする。
「司、来年も一緒に来ような。」
「はい、再来年も一緒がいいです♪」
「うん!」
「ふふっ♪」
「司は、流れ星にお願い事とかした?」
「はい、しましたよ♪」
「どんな?」
「レオさんのことです。」
「おれ?」
「はい♪」
「気になる、教えて?」
「レオさんと、大きなステージでパフォーマンスができますように。それから、ずっと一緒にいられますように。」
「司らしいお願い事だな。だけど、その願いは星じゃなくて、おれが叶えてやるよ。」
「レオさん……。」
「どんな事があっても、おれが隣にいるよ。」
「ありがとうございます。レオさんが隣に来られない時は、つかさがレオさんをどこへでも迎えに行きます。」
「司なら、本当に来てくれそうだな♪」
「はい♪もちろん!」
「約束。」
「約束です♪」
二人、星空の下で誓う。星の瞬きにも似た一瞬のこの世界で、一番大切な人を幸せにすることを。そして、願う。これからも隣でずっと「レオさんを」「司を」愛せますように。
「愛してる。」
「愛しています。」
ゆっくりとキスを交わし、二人の未来を星々に願った。