6本のバラJohn Doe「お疲れ様」
シフト上がり、草臥れた体に鞭を打ちながら通勤カバンを背負い直したところで、エントランスで声を掛けられた。
緩慢に振り返ると、何がそんなに嬉しいのか、いつも通りの満面の笑みを浮かべたドゥが、小走りで駆け寄ってくる。
You「…ドゥ?」
しぱしぱと瞬きしているYouに、ドゥは腕を絡めると、その手を引く。
You「どうして、ここへ?」
ふわり、と香る甘い香りの出処を探すYouに、ドゥはその背中に何かを隠した。
John Doe「…えへへ、実は、今日は散歩していてね。」
かさ、と差し出されたのは小ぶりなバラの花束。
可愛らしい透明なセロハンと、ピンクのリボンで装飾されたそれを差し出すドゥの頬は、うっすら赤らんでいる。
John Doe「……これ、君に。…、も、もちろん君が帰ってくるのを家で待ってても良かったんだけど 、その、えと。」
もじもじと恥じらうドゥに、肩の力が抜けた気がした。
Youは緩く微笑むと、差し出された腕ごと自分に引き寄せ、赤い薔薇に顔を寄せた。
You「…いい匂い。」
すぅ、と吸い込むと鼻腔に広がる甘い香り。
花弁が開ききった熟した花の香りに、思わず顔が綻ぶ。
You「嬉しいよ、ドゥ。ありがとう。…お迎えも、たまになら悪くないわね。」
John Doe「…」
瞳孔を見開き、真っ赤な顔に汗を滲ませた彼に微笑むと、その癖毛を軽く払ってやる。
You「でも、たまにでいいからね。…毎日は来ないで、恥ずかしいから。……、聞いてる?」
夢見心地のドゥを軽く揺すぶるも、彼は中々帰ってこない。
呆れた溜息をつきながら、それでも穏やかな顔で。
Youはバス停までの道を、ドゥの腕を引きながら歩いた。
You「(今日の夕飯は何にしようかな、)」
かさり、と音を立てる花束に視線を落とし、もう一度微笑むと、彼女は繋いだ手を強く握りしめた。