余裕なんてあるわけない ずるい、と唇を尖らせると何が。と康平くんの本当によく分かっていないような声が聞こえてきた。
「はあ?余裕過ぎてずるい、って……」
私はこういうことは康平くんが始めてで、それなのに康平くんは余裕そうな感じなのがどうしても気になってしまった。過去の女性の影など気にならないわけではないが、こういう時は自分の経験不足が嫌になり余裕が欲しくなる。
「…別に、余裕なんてないですし。俺もこんなことするの朱里だけだけど」
嘘、と思わず口にしてしまう。
「嘘じゃない」
そう言って康平くんは私の鼻を摘まみ、笑った。
「まず、色恋にうつつを抜かすほど当時の俺は余裕なんてないし。それにあんたが俺以外とこんなことしてたって思うと、それこそ嫌なんだけど」
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