今日という特別な日を / リーアス----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ぴたりと天辺で重なった時計の針が、特別になった日の始まりを告げる。
「リーンハルトさん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう。今年も一番に祝ってくれて嬉しいよ」
ソファで隣に腰掛ける恋人からリーンハルトがこの言葉を聞くのは毎年の光景だ。それでも一点の翳りもなく満面の笑みで誕生日を祝うアステルに、リーンハルトも自然と笑みが零れる。あの二人と出会い、勇者とされる少女が選ばれてから、今日というこの日は単純に歳をとるだけではなくなっていた。陛下への恩を返しあの人を探すために通過するだけだったはずの日は、今や一年の中でも一際大切なイベントだ。
「今日はずっと一緒にいられるんだろう?」
「はいっ! エスコートは任せてください!」
「ふふっ、楽しみだな」
それならそろそろ眠らなくてはね、とリーンハルトはアステルを抱えあげる。アステルは首へと手を回して、リーンハルトを緊張した面持ちで見つめた。
「あの、目を閉じてくれませんか? たまには、その、私から……」
「……いいよ」
言われるままに目を閉じるリーンハルトに、アステルの鼓動はいちだんと速さを増していく。何年見ても慣れる事のない整った顔立ちは、勇気を振り絞った一言を取り消させるには十分だ。アステルは大きく深呼吸して再度決意を固めると、触れるだけの口付けを落とした。
「今日はやけに積極的だね。……もしかして、寝かせないような事をご所望かな?」
「な……! 違います!」
目を閉じていた時以上に慌て始めたアステルに、リーンハルトはこみ上げる愛おしさに笑いながら、寝室へと歩みを進める。
毎年やってくるこの日は、こうしてまた少しだけ特別になっていく。