eternal starlight / クロアス--------------------------------------------------------------------------------------------------------
遠い日に約束された普通の幸せは、今も続いている。
風に揺れる鈴蘭が、永遠の愛を誓い合った季節の到来を告げていた。魔法薬に使う植物が生い茂る庭の片隅の、小さな畑へ水やりを終えたアステルは満足そうに頷く。夏に赤く甘い実をつける苗は順調に育っている。この分なら豊作は間違いないし、一度に多く消費できるレシピを探しておいた方が良いだろう。また一つ明日への楽しみを増やしたアステルは、道具を片付けて家の中へと入った。
本棚から料理本を数冊手に取り、ぱらぱらとめくる。今度こそ「悪くない」ではなく一番に「美味しい」と言わせてみせる、と意気込むものの、中々ピンとくる料理は載っていなかった。チルダ婆ちゃんからもらったお祝いにそういう本がなかったっけ、とふと思い立ったアステルはおもむろに収納用のチェストを開ける。目的の物を探し視線を彷徨わせていると、奥の方に見慣れない箱があることに気が付いた。
「なんだろう、この箱」
なんのラベルも貼られていないそれを引き出すと、紙の擦れ合うような乾いた音が聞こえた。迷いつつも見てはいけない書類ならそうと書いてあるよね、と最終的には結論付けて、アステルは好奇心に従い蓋をぱかりと開ける。
箱の中には自分の筆跡で宛名が書かれた手紙が入っていた。形に残る物に興味はないという言葉とは裏腹に、几帳面な彼らしく綺麗に開けられた封筒に至るまできっちりと保存されている。何度も読み返したのか開け口が柔らかくなっていることに顔をほころばせ、アステルは一つ一つ中身を確認していった。これは遠征の時、これは誕生日の時、と紙束をより分けていくと、当時の思い出が鮮明に蘇っていく。最初の頃は怖くてちょっと苦手だったな、あっまだこの頃は緊張してたんだ、この時のお返事嬉しかったな、と文面を見返していると、現在まで繋がる愛おしさに自然と温かな笑い声が漏れた。そして、一番底へ隠されていた古びたカードを見つけたところで、帰宅を知らせるベルが鳴り響く。
中身を戻した箱を元の場所へと慌ただしく戻し、アステルは玄関へと駆け出した。そうしてドアを開けた先の人物に飛び付けば、恒例となったやり取りが今日も繰り返される。
「おかえりなさい!」
「……まったく、君はいつになったら落ち着きというものを覚えるのだ」
小言とため息を零しながらも、抱きとめた腕はアステルを離す様子はなく。うしろ手で扉を閉めたクロービスは、アステルに顔を上げるよう促すと、向けられた唇へと口づけた。
奥底へと大切に仕舞われた星々は、変わらぬ光を黒い三角帽子の雪だるまへと降り注いでいる。