かん、かん、かん、と古びた階段を登る。この先、安アパートの一室が私の担当作家の自宅であり、今日の打ち合わせ場所だ。なんでも学生時代の下宿にそのまま住み続けているらしい。服装はいつも上等そうなスーツなのに、見栄があるのかないのかよくわからないひとだ。
仕事とはいえ男の家に私のような女性がひとりなんて危険だと思われるかもしれないが、そもそもこれは私から提案したもの。作家と編集者の打ち合わせ場所としてありがちな喫茶店では、周りの話ばかり気を取られてこちらの話に耳を貸してくれなかったのだ。私に手を出すような欲求も気概も、彼にあるとは思えないし。同僚も「本投げつけられないように気をつけろよー」と笑うくらい。
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