春告げのきみ午後、カドックはいつものように紅茶を淹れていた。この奇妙な習慣は、自分の召喚したサーヴァント・アナスタシアに数日前、突然「この時間は私と一緒にお茶を飲むように」と厳重に命じられたのが始まりだ。理由としては「マスターたるものサーヴァントとのコミュニケーションは大事にしないと」と、いう彼女の主張である。最初はよくわからないまま紅茶を出しては、彼女に渋い顔をされたものだ。今では一緒に出す焼き菓子に合わせて濃度や種類を変えることも覚え、手慣れたものになっていた。自分のルーティンに、まさか一番縁遠い「サロン」の真似事をやる日が来るとは、人生何が起きるかわからない。そうやってトレーに載せた茶会のセットを手に応接間に入ると、アナスタシアが机の上に何かを広げて眺めている。召喚してからしばらく経つが、初めて彼女が何かを読んでいる姿を見た気がする。
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