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    shiraosann2

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    shiraosann2

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    ぽいぴく使ってみようと思って練習用に過去作品を貼ってみます

    死ネタとか人選ぶ話はこれからこっちにあげるので

    《注意事項》
    死ネタ
    冒頭からカーヴェさんが亡くなってます

    恋文カーヴェが亡くなった。
    そう聞いたのは彼が仕事でこの家を出てからたった三日後の事だった。
    砂漠で古い建物の修繕工事をしていた時に、崩落事故に巻き込まれて、ほかの大工を庇った彼は石材の下敷きになったのだ。
    その現場に居合わせた技師はそう言って、自分に空になった神の目を差し出した。

    渡されたそれは、彼の腰元で揺れていた時に放っていた鮮やかなペリドットの色をすっかり無くし、ただの冷たいガラスのようになっていた。
    あとから運ばれてきた棺は、遺体の損傷が激しくとても見せられる状態では無いのか、通常開き戸になっている顔の部分が釘で打ち付けられていて、そのささやかな重さの他には彼の存在など何処にも伺うことは出来なかった。

    この工事が終われば借金もあらかた返済の目処が着くんだ。そしたら僕から君に話したいことがある。

    出発前に、そうにこやかに話していた彼の横顔が、その葬儀が終わった今となっても脳裏に焼き付いて離れてくれない。




    「…………またやってしまったな」

    アルハイゼンの手元にあるのはランバド酒場で買った二人分のピタ。

    扉を開けても出迎えてくれる同居人は今は居ない。
    その彼の不在でできた空間に、もうそろそろで三ヶ月になるのにまだ慣れない。

    余ってしまったもうひとつのピタに手をつけながらアルハイゼンは自分の家の内装に目を向けた。

    今でも玄関の前には置かれたまま誰も使うことの無い二つ目の鍵があって、部屋の奥には、置かれたままの図面台と図面が書かれた紙の束と開かれたままの資料の山が戻って来ない持ち主の帰りを待っている。
    三ヶ月もその状態のままなのにそれらの資料の上に塵一つないのはアルハイゼンが定期的に埃を払って掃除をしているから。

    カーヴェはアルハイゼンが本を散らかしていると怒ってそれらを片付け始める癖に、彼が仕事中に広げた本を片付けようとすると、動かしたらどこに置いたか分からなくなるからやめろと怒るのだ。

    そんなことをいつも思い出してアルハイゼンは掃除はするものの彼の部屋のものを片付けることは出来ないでいる。

    そんな部屋の様子を見ながら食べる二つ目のピタはとても味気なく感じられた。

    「流石にそろそろ片付けるべきなんだろうな」

    死に顔も見ていない、渡されたのは本当に彼のものなのかも分からない空になった神の目と、遺体が入っていると言われただけの箱で、この国の主流は土葬であるから焼かれたあとの骨を見ることもない。

    それで、アルハイゼンは彼が死んでしまったことをいまだに信じられないでいる。
    あの殺しても死ななそうな彼はいつかひょっこりとこの家に戻ってきそうな気がするから。

    しかしそれでも明日で丁度彼が死んだという日から三ヶ月だ。
    あれだけ残っていたはずの彼の借金とツケにされていた酒代は自分が肩代わりをすることも無く、もうほとんど完済していて、そして街は彼の不在に慣れ始めている。彼の借金が無くなるのは良い事のはずなのに、それを素直に喜べないでいるのをアルハイゼンは感じていた。世界が彼を忘れていくのが見ていられないのだ。

    きっと取り残されているのは自分だけ。

    そろそろ区切りをつけなくてはいけないのだろう。
    区切り、そう区切りだ。

    その日のうちに休暇をとってアルハイゼンは彼が亡くなったという工事現場の跡地へと行くことにした。




    「ここ、か」

    近くの集落で駄獣を借り、事故のあった場所を聞き、朝から列柱砂原の中を進めば、太陽が南中する頃にようやく現場が見えてきた。

    打ち捨てられた建築物は、自分の家の床に置かれてあるラフと同じもので、それがこんなところで忘れ去られかけていることに何故か無性に腹が立つ。

    さらに近づけば崩れた箇所もよく見えた。
    その傍に手向けられている、強い陽射しで萎びた花束も。

    「……ッ」

    散らばる白い石材の中に汚れがこびりついて赤茶になっているものを見つけ思わず声が漏れる。よく見ればその傍らで何かが砂に埋もれながらも陽の光を反射していることに気づいた。

    ひとまずこの古い建物がこれ以上崩れたりすることは無いと確認してから恐る恐るそこに近づき手で掘り返す。

    そこにあったのは、全体に罅が入り所々欠けた耳飾り。
    そのデザインにアルハイゼンは見覚えがあった。
    いつも同居人の耳元で光を放っていたそれと同じものだ。
    街中ではあまり見かけないデザインだなと彼に聞けばこれは自分でデザインから作ったものなんだ、と自慢気に言っていたか。
    だから、これが彼以外の赤の他人のものである筈がない。そう分かってしまった。


    ああ、きっとここで。かれは。
    ほんとうに。いなくなって。


    やるせないような、何処かに穴が空いたような感覚を覚えながらアルハイゼンは地面に放り出されたままのそれを手に取る。
    手の中で太陽の熱を伝える軽い金属を握りしめ、彼はその場を後にした。





    先程寄った集落で駄獣を返却すれば先程道を聞いた肉付きの良い若い男が声をかけてきた。

    「貴方はもしかしてあの崩落事故にあった方々のお知り合いですか?」
    「ああ。ルームメイトが居たんだが、あの事故で死んでしまったらしいんだ」
    「!!」

    その言葉で相手の顔色が変わった。
    どうやら何か思うことがあったらしい。
    焦った様子で彼は続けた。

    「亡くなられたということはあの方の……すみませんお渡ししたいものがあるんです!……少し待っていただけませんか?」

    そう言い残して彼は自分の家の中へと消えていく。
    しばらくして何かを持って男は玄関口から出てきた。

    こちらをどうぞ。

    そう言って男はアルハイゼンへ持ってきたものを渡す。
    果たしてそれは手紙だった。
    乾いた血のこびりついたその手紙は丁寧に封蝋だけされて宛名も差出人の名前もない。
    けれど封蝋の模様は自分もよく知る彼のものだった。

    彼の懐に入っていたものだと彼は言う。

    「すみません、本当はもっと早く渡すべきだったのかもしれません。ですが私はカーヴェさんのことをその名前と実績の他には住所も含めて何も知らなかったのです。でも彼を知る方にきちんとこれを渡せて良かった」

    私はその時に彼に助けられた大工の一人だったんです。かれは落ちてくる石材を元素力で受け止めて建物の中にいた私たちが逃げるまでの時間を稼いでくださった。

    そう彼は悼むように呟いた。
    ああ、そうだったあの大建築士様はそういう人だった。
    自分がどうなってしまうかなんて考えずに他人に手を差し伸べられる奴だった。

    「…あいつは、その」

    苦しんだのか、そう続けようとして、その意図をくみ取ったのか相手が口を開く。

    「……恐らく、痛みを感じる時間もなかったと思います。駆けつけた時には、もう既に」

    息がなかった。それはきっと幸運な事だったんだろう。

    「……ああ、そうだったんだな……それなら良かった。話を聞かせてくれてありがとう」

    駄獣の貸出料にチップを上乗せして払い、スメールシティに戻る。
    もう彼が戻ってくることは無い自分の家へと。


    帰宅して持っていった荷物を整理したあとアルハイゼンは貰った手紙を手に取った。
    中を開けば意外にも端正な彼の字で文章が綴られていた。





    親愛なるアルハイゼンへ


    悪いとは思っているんだ。君に酒のツケまで払わせておいて、それなのに家に住まわせていてくれる君とは喧嘩ばかりしているんだから。
    本当に嫌であれば僕を追い出してくれればいいのに、それをしない君に僕はきっと甘えているのだろう。

    最近やっぱり僕は君が好きなんだろうなって、やっと認める気になった。ランバドの店で乱闘騒ぎを起こした後、二人で皿を作っただろう?あの時本当に楽しかったんだ。掲示板での口論に関しても、誰かの話にコメントをつける度にそれを見た君が何か突っかかるようなコメントを残してくれることを期待している。

    君と議論をしている時だけは君が僕だけを見てくれる、だから君は嫌なのかもしれないけれど君と何かを話すのは、本当は嫌いじゃない、むしろ好きだ。

    ああ、書いてたらなんかだんだん恥ずかしくなってきてしまったな。
    もしかしたらこの手紙もまた机の引き出しの肥やしになるのかもしれ(上に手荒く線を引いて消した痕)

    思った事を直ぐに綴ってしまうのは僕の悪い癖だ。次に書く時は気をつけないと。

    恐らく今回の仕事でようやく借金の完済の目処がつくから、やっと彼に気持ちを言える。……ちゃんと言えれば良いんだけどな。





    最後の方は出すことを諦めたのかメモのような自戒のようなものになっていた。

    ふと机の引き出しの肥やし、というペンで消された文字列が気になってアルハイゼンは放置していた彼の部屋に入る。
    引き出しを開ければそこには丁寧に整理された手紙の束があった。

    最初から最後まで宛名も差出人もない便箋の中には全て自分宛に書かれたまま彼の中でとどめおかれた手紙が入っている。
    一番最初のものは恐らく奇妙な同居を始めてからおよそ半年くらい後のものだ。


    数年分にわたる、自分へ向けた彼からの恋文。


    この膨大な文字数の思いを彼はずっと抱えていたのだ。そしてそれをひとつも伝えること無く逝ってしまった。

    本当に君は莫迦だ。
    君に好かれていればいいと思いつつそんなことは無いと思っていた俺も莫迦だ。

    君がもっと早くに言ってくれればよかった。なんなら俺の方から言ってしまえばよかった。そしたらきっともっと二人でいる時間を大切にできた。この家から出ていけばいいとは時折言いつつも、それを君が脅しだぞと言ってくれることが嬉しかった。
    いつでも君はこの家にいてくれる、そう思って俺もずっと君に甘えていた。


    「俺も。俺も君の事が好きだったんだ」


    ああ、でも、その言葉を返したい相手はもう何処にも。

    この世界の何処にも、


    もう居ない。


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