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    shiraosann2

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    shiraosann2

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    ゼンの身繕いをカヴェがする話

    ちゃんとゼンとくっつくのはカヴェです、ご安心ください


    捏造100000%
    オベロイ・グルガオンはインドの五つ星ホテルです。スメールには多分ない

    *ぬるい事後表現アリ

    #アルカヴェ
    haikaveh

    Dress Up Mee !「君はこの服とこの服、どちらの方が俺に似合うと思うか?」

    黒い礼服とグレーのそれを両手にぶら下げて、アルハイゼンはソファーに座ってぼんやりとしていたカーヴェに尋ねる。
    ある晴れた休日の昼下がりの事だった。

    「ええと、僕だったら黒を選ぶな。というか、そのタキシード、この前のパーティの前に君に聞かれて僕が選んだ奴だろ。結局あの時は仕立てが間に合わなくて、そっちのグレーのを着ることになったけれど。……礼服、暫くは使う行事もないからって仕舞ったんじゃないのか?」

    束の間思案して意見を述べた後、カーヴェは疑問に首を傾げる。教令院で毎年行われるプロムパーティーの式典やら、フォンティーヌの科学院と合同で行われるシンポジウムは既に終わっていて、礼服を使うような機会は今年はもう無かった筈だ。

    「ああ、実は、今日少し入り用になってな。私事だが、大事な人と今夜泊まりがけの食事をしようと思っていて、それなりのドレスコードを求められる所だから君の意見が聞きたくなった」
    「ああそういうこと…………って、ええっ!?君にもそんな相手がいたんだな!……僕の意見でいいのかい?」

    カーヴェは困惑した様子でアルハイゼンを見やる。
    当の本人は何処吹く風で黒い方の礼服をクローゼットに戻していた。

    「俺の事に関して、自分自身を除けば一番詳しいのは君だろう。ましてや俺が普段気にしない外見のことであれば君の方が俺自身よりも熟知していると思うが?」

    さらりと彼はそんなことを言う。
    まるで林檎が地面に落ちるのは重力が存在するからだとか、1+1は2であるとか、そんなごく当たり前のことを述べるように言われたものだから、当然カーヴェは面食らった。
    顔の辺りがかぁっと熱くなるのを感じながら彼はぶんぶんと頭を振る。

    「そんなに褒めても何も出ないぞ!というか君が僕をそんな風に評価するなんて、何か悪いものでも食べたのか?……まぁ、どうせ今日は暇だし、君の髪の毛のセットとか、僕がやってあげてもいいよ」
    「俺の君への評価は何時だって心からのものだが?……助かる、君の方が俺よりもこういったことには詳しいからな」

    軽口のつもりで言ったのに返ってきたのはあっさりとした感謝の言葉。てっきり拒絶されると思っていたものを全肯定されたものだからカーヴェは豆鉄砲を食らった鳩のように目を白黒させた。

    「君、ほんと何か変なもの食べただろ……」
    「?……やけに顔が赤いが、どうかしたか?俺はあくまで事実を述べただけだが」
    「……なんでもない」

    君と話しているとつくづく調子が狂うな、とカーヴェは嘆息をこぼす。
    けれど、同時に仄暗い気持ちが身を焦がすのも感じていた。あまり深く考えようとしないようにそう思っていたけれど、その分だけ彼の言葉を意識してしまう。

    プライベートに関して他人に踏み込まれるのを良しとしない彼の口から「大事な人」という言葉を聞いたのも予想外だったが、そんな人をディナーに、それもドレスコードを求められるようなレストランに誘うなんて、しかも泊まりがけだなんて、それはもうデートの誘いだろう。

    カーヴェにとってアルハイゼンは、気心の知れた相手であり大事な後輩であり、そして長いこと懸想してきた相手でもあった。
    先輩としては、今まで浮いた話を一つも聞いたことの無い彼がようやく人生の春を迎えた事を言祝ぐべきなのだろう。
    しかし、それは同時に自分の失恋も意味している。
    だから心から喜ぶことは出来なくて、そんな己の狭量さが一番憎かった。

    「浮かない顔してどうしたんだ?」
    「いや、責任重大だなと思ってさ」

    苦々しい思いを笑顔で覆い隠してカーヴェは風呂場に赴き、自分の持っているシャンプーとボディソープをアルハイゼンに渡す。
    仕事の関係で、フォンティーヌの科学院の研究者だったりスネージナヤの豪商だったりと、それなりの地位にある人から依頼を貰う事もあるが、そういう大事な打ち合わせの時に使っている高品質のものだ。

    「これで全身くまなく洗ってきて、こっちはシャンプーでこっちがコンディショナー、ちゃんと使い分けるんだぞ」
    「助かる」

    それを受け取ってシャワールームに消えていく彼を見送ってカーヴェは居間のソファーに
    腰を下ろした。
    気持ちを落ち着けるなら今しかない。

    けれど、頭の中では先程のアルハイゼンの大事な人がいるんだ、という一言がずっと反響していた。
    確かに彼は、海のような豊かな碧とサングイトの朱が混じった神秘的な色の瞳に、月の光のようなぎんいろの髪と、滑らかでハリのある柔らかな白皙の肌に筋肉質で健康的な身体が合わさった随分魅力的な容姿をしている。口さえ開かなければ一級の美術品なのにと今まで何度思ったことだろう。
    そして教令院でも、一時は代理賢者の地位まで上り詰め、今でも書記官という安定した役職に就いている。
    あのよく分からない個人主義ととっつきにくさを除けば、引く手数多の優良物件である事は確かである。
    認めたくは無いが、少なくとも破産して人の家に厄介になっている自分よりかはマシだろう。
    だから、今まで浮いた話が一つもなかった事の方が普通に考えればおかしいのだ。
    だけど、彼の隣に立っているのが、彼をこれから幸せにするのが、自分以外の誰かだと考えるだけで、胸が締め付けられるようなそんな苦しみを覚えた。
    彼が自分に身繕いを頼んでまで告白したい相手が、一体何処の誰なのか知りたくて、それと同じくらい知りたくない。
    けれどこの胸の痛みを顔に出すのは、態度に出すのは、自分の先輩としてのなけなしの矜恃が許さなかった。
    先程自分はちゃんと笑えていただろうか、言葉の端々にこの心に抱えた仄暗い想いが滲み出ていなかっただろうか、ちゃんと彼に好きな人が出来たことを祝福しているように、彼に見えただろうか。

    暫くすれば、シャワー室の扉が開く音が遠くから聞こえた。アルハイゼンが湯浴みを終えたのだろう。カーヴェは目を閉じてひとつ深呼吸する。
    笑って出迎えてやれ。
    それが恋した相手に自分に出来る餞なんだから。

    「こっちに来てくれ、ドライヤーするから」

    湯上りのアルハイゼンなんて、今まで何度も見ている筈なのに、今は何故だかとても雄々しく見えた。バスローブの上からでも分かる綺麗に鍛え挙げられた形の良い筋肉に、ほんのりと上気した白皙の艶やかな肌。
    普段無香料の石鹸を使っているからか、柑橘類の清涼感を含んだ、それでいてほんのり甘い柔らかな香りを纏った彼は新鮮だった。
    嗚呼、この腕で抱かれるのが自分ならどれだけ良かっただろう。

    彼を鏡の前に座らせて、水分を含んだ銀髪を丁寧に櫛で梳かしながら温風を宛てる。
    ある程度乾いたところで香油を一滴垂らし、髪に馴染ませたら、整髪料を指先で掬い彼の首の後ろにそれを揉み込む。
    そしてそこから頭頂部にかけて馴染ませ、普段跳ねまわっている後ろの髪を全て綺麗に撫でしつけた。それから、普段彼の左目を隠している左側の前髪を目に掛からないようにすると、右側の前髪をブラシでサイドに流しドライヤーを当てて形を整えていく。
    そして彼の目元に下睫毛を描き、目元にアクセントとして朱を入れる。
    髪型を整え化粧を終えれば、次は服だ。件のタキシードを着てきた彼にシルバーのタイを結んでやり、そしてその胸元にスリーピークに折った深緑のポケットチーフをさしてやる。
    そうすれば元々のパーツが良いのも相まってか、鏡には何時もの気難し気な書記官様は何処へやら、すれ違った人間百人中百人が振り返りそうな、そんな好青年が映っていた。

    「はい、終わったよ」
    「……似合ってるか?」

    そう尋ねるアルハイゼンの耳は面映ゆいのか、それともシャワーの名残なのかほんのりと赤く染まっている。

    「そりゃあもう。僕がコーディネートしたんだよ。だから自信を持ちなって」

    そう言ってカーヴェはぽんぽんと彼の形のいい頭をそっと撫でる。
    そこでふと鏡に映った自分の紅い双眸と目が合った。瞳の奥に嫉妬の炎が一瞬垣間見えた気がして、思わず目を伏せる。

    こんなに身なりを整えなくても僕だったら既に君の事が好きなのに。僕の選んだ服に身を包み、僕が髪型まで整えた君が今日一夜を共に過ごすのが、なんで僕じゃないんだろう。

    確かにそんな想いは先程から胸の内に存在していた。
    失敗してしまえばいいのに、と不意にそんな考えが脳裏を過ってカーヴェは小さく息を吐く。
    嗚呼、自分の中にこんな醜い感情があることを知りたくはなかった。

    そんな彼の様子を知ってか知らずか、アルハイゼンはさっさと外出の支度を始めている。
    まだ夕方の五時ぐらいだ、ディナーにはまだ早いだろう。

    「……もう行くのか?」
    「ああ、メナケリーショップで取り置きしている商品を受け取らないといけないからな。……それと、今日は宅配物が届くからそれ迄は家に居て欲しい」
    「……分かったよ。それじゃ、行ってらっしゃい……頑張ってこいよ!!」

    努めて明るい声でそう言って、カーヴェは普段の何倍も男前になった大事な後輩の背中を叩いて送り出した。
    その姿が見えなくなったところで、そっと扉を閉めてずるずると彼はその場にへたり込む。
    意外にも涙は出なくて、その代わり酷い倦怠感が体を支配していた。
    アルハイゼンが思いの外早く家を出ていったのは、出ていく時に一度もこちらを振り返らなかったのは、僥倖だった。
    あと少しでも彼が家に入れば、自分が何を口走っていたか分からない。今の自分がどんな顔をしているのかも。

    「………あ、整髪剤片付けなきゃ」

    我に返って立ち上がった所でふと背後で呼び鈴がけたたましい声を上げた。
    そういえば先程アルハイゼンが、宅配が届くとか言っていたっけ。

    半ば反射でカーヴェががちゃりと戸を開ければ、何時もこの家に荷物を届けて居る若い男性が荷物を持って待っていた。

    「あ、良かった。カーヴェさん、またこちらに居らしたんですね!アルハイゼンさんの仰る通りでした」

    こちら、彼から貴方へのお届け物になります。
    そう言って彼が渡してきたのは白い紙袋。
    受領証にサインをして受け取り、中を見てみれば、見るからに高そうな礼服一式が入っている。
    特に目を引いたのはフォンティーヌの有名ブランドの燕尾服にサングイトを加工して作られたカフリンクス。

    どうしてこのタイミングで、と訝しみつつ中身を検分すれば、ふと紙袋の中に便箋が入っていることにカーヴェは気づいた。
    封を開ければ中から出てきたのはオベロイ・グルガオンというスメールシティの中では一番のホテルの招待状。日付は今夜。

    ………今夜!?!?

    そして、便箋の中に入っていたもう一枚の紙には、そのホテルのスイートルームを取った旨とそれからもうひとつ。

    From Alhaitham to Kaveh, with lots of love

    少し癖のある彼の文字で綴られたその言葉に心臓が跳ね上がった。
    同時に胸に仕えていたものが、まるで炎元素を浴びた氷スライムのように急速に溶けて消えていくのを感じた。

    嗚呼、彼に誘われていたのは、彼の言う「大事な人」は他の誰でもない自分だったんだ。

    そう確信して頬が緩む。

    「き、き、き、君って奴は〜!!!」

    知らず、抑えた口元からそんな言葉が漏れた。
    ちゃんと玄関扉を閉めといてよかった、そうじゃなきゃ一人で叫んでいる変人にしか見えない。
    とりあえず、急いで身体を全身くまなく洗って清めて、髪もしっかりとセットして、きちんと化粧もしなくては。

    先程まで全身を支配していた倦怠感は何処へやら、シャワールームへと駆け込む彼の足取りは軽やかだった。




    翌朝、ふわりと意識が浮上する感覚に目を開ければ、まず最初に視界に入ったのは海の蒼とも森の翠ともつかない綺麗なあおにサングイトのあかの混じった複雑な色彩。

    「……おはよう」

    声を出そうとすれば少し喉がいたんで、想定よりも酷く掠れた声が唇から漏れた。
    起床したばかりのまだぼんやりとした頭で一瞬どうしてだろうと考えて、それから直ぐにカーヴェは思い出す。

    ああそうだ、昨晩自分達は体を交えたのだ。

    今現在は理知的な光を湛えている綺麗な瞳も、あの時は妙に据わっていて、その奥に欲に満ちた光を宿していた。
    恍惚とした様子で獣みたいに自分を貪る彼の姿が脳裏に過って、カーヴェは心拍数の上昇と共に顔が熱くなるのを感じた。きっと鏡を見れば耳まで真っ赤になっているのだろう。

    「……今更になって君は照れているのか?俺はなんとも思わないが」

    素知らぬ顔でアルハイゼンは寝台から身を起こすと、まだ少し気怠そうにシーツの海に埋もれたままの恋人に水の入った杯を手渡した。それを一息に飲み干してサイドテーブルに置き、カーヴェはぷくりと頬を膨らませる。

    「君ってやつは!!……少しは照れてもいいだろ、君が言っていた人が、まさか僕の事だったなんて、つゆも思わなかったんだから」

    ……それにしても、どうしてあんなまどろっこしくてややこしい事をしたんだい?

    脱がされてベッドの下に散らばったままのスラックスを見遣って彼は尋ねる。
    最初から直接デートに誘ってくれればあんなに気を揉むことは無かったのに。

    「ああ、その事か。………君をデートに誘うなら君自身に俺の身繕いをして貰うのが一番だろう?」

    そして、俺も君に自分の選んだ服を着てもらいたかった。

    散らばった衣服を片付けながらアルハイゼンはそう続けた。
    一等彼に似合うと自分が思った服を寄越したが、建築士として己の美的感覚に自負のある彼にちゃんと着て貰えるか少し不安だったのだ。だから考える時間を与えなかった。

    「そんな心配しなくても。……確かに何処かへ旅行へ行く度にご当地だか知らないが訳の分からない木彫りの人形を家に持ち帰ってくる君のセンスは信じられないが、こういうこと、に関する君のセンスにはそれなりに信頼を置いているからね」

    そう言ってカーヴェはアルハイゼンの方へ腕を伸ばして己の左手を見せつける。
    その薬指ではブラックダイヤモンドが埋め込まれた白金の指輪が今朝一番の陽光をキラキラと反射させていた。
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