sweet after bitter「侑、失恋してすっかり落ち込んでるからさ。お前次の休みとかちょっとどっかに連れ出してやってよ」
ある日の練習終わり、周囲に人気がないのを確認して犬鳴さんが俺にそう耳打ちした。
「……は」
「お前らが意外と仲良いの俺知ってんだから。ちゃんと優しくしてやって」
ぽんと背中を軽く叩き、それだけ言って彼はロッカールームへと去って行った。その背中を見送って、今かけられた言葉の意味をもう一度考える。
――宮が、失恋した。
犬鳴さんは俺が当然にそのことを知っていると思って声をかけてきた様子だった。からかっているわけじゃない、本気で後輩を心配していたのだということは短い会話の中でもしっかりとわかった。
「あれ、臣くん。こんなとこでぼーっとしてどしたん」
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