帰省してきた弟が実家に恋人を呼びつけた「ちいさ……」
初めて会った姪の顔を見るなり、弟はそう言って固まってしまった。
夏が始まりかけた深緑の季節、一時的に実家に帰省している私に合わせ大阪にいる弟が姪に初対面するべく帰ってきた。
兄弟でそっくりと幼い頃からよく言われ続けてきた真っ黒い瞳が困惑げに私の腕の中ですぴすぴ眠る存在を見つめている。
「抱っこする?」
「いい、大丈夫」
相変わらず慎重で心配性な弟は、限りなくひそめた声で首を横に振った。
「なんか、意外とちゃんと似てるってわかるんだ」
「ね。今寝てるからわかんないけど目開くと私に似てるってすごい言われる」
「口とか鼻は匠くんっぽいね」
聖臣はまじまじと興味深そうに娘の顔を覗き込むが、それでも決して触ろうとしないあたりが彼らしい。
「出産もその後も大変って聞くから、聖那ちゃんも赤ちゃんも無事でよかった。会いに来るの遅くなってごめんね」
嘘偽りのない真っ直ぐな言葉に少し照れくさくなる。あの聖臣も立派な大人になって……なんて感慨も浮かんできて、年を追うごとに涙もろくなる自分を自覚する。
「いいよ。わざわざ大阪から来てくれてありがと」
「ん。出産祝い、何がいいかわからなかったからいろいろ買ってきちゃった」
「生まれた時ギフトカタログくれたのにまた買ってきたの?」
「お祝いは何回してもいいって言われて」
言われて、という聖臣の言葉に、この子は向こうでこういうことを相談する近しい相手がいるのだとなんとなく思った。
「聖臣、抱っこしないの?」
湯気が上がるマグカップを3つ持ってきた母が、テーブルの向かいに腰を降ろしてまた同じようなことを聞いた。母の両手が空いたのを賢く察したトイプードルのプリンがぴょんぴょん跳ねて母に抱っこをせがむ。
「何かあると危ないからいい」
「お兄ちゃんのとこが生まれた時も、あんた絶対抱っこしなかったもんねえ」
「首すわってないの怖い」
「でもあんた、さすがに自分の子供が生まれた時は首すわってなかろうがふにゃふにゃだろうが抱っこしなきゃいけないんだから」
私がそう言うと、聖臣はなんだか一瞬変な顔をした。そんなことを考えてもみなかったというような虚を突かれた顔だ。それからまたじいっと娘の顔を見つめ、長い睫毛を瞬かせてから私と母さんの顔を順繰りに見た。そうして真面目な目をして口を開いた。
「……俺の子供って、見たいもの?」
これは母さんも予想外の問いだったのだろう。聖臣はまだ23だし、このタイミングでこんなことを聞かれるなんて私も少なからず驚いていた。
「……まあ、当たり前に見たいけど……。でも結婚とか子供とか、べつに何も強要する気はないよ。なんかあった?」
母さんがそう返すと、聖臣は明らかにほっとした表情になった。ずっと両手で包むだけで持ち上げなかったカップをやっと口もとに持って行く。私も母さんも、それを緊張の面持ちで見守っていた。一生独身でいるつもり、とかそういうのならいい。けど実は病気があって……とかそういう話だったらどうしようと一瞬のうちに不安がよぎる。
けれど、聖臣の口から出た言葉は心配していたものじゃなかった。
「……今、付き合ってる奴がいるんだけど、俺そいつ以外と結婚するつもりはないから。血の繋がった子供っていうのは見せれないよ」
子供の頃、実家を出て井闥山高校に行くと宣言した時と同じくらいきっぱりとした口調で聖臣は言った。そのどこにも遠慮や後ろめたさはなくて、彼が今付き合っている人との将来を本気で考えているのがわかった。聖臣の恋愛事情などを聞くのは初めてのことだったので(元也から普通にモテてるとは聞いたことはあったけど)なんだかじーんと来てしまった。冷たく見えるかもしれないけど、真面目であたたかくて思いやりのある子だったから、ちゃんと寄り添ってくれる人が現れたらいいと姉なりに密かにずっと心配していたのだ。
「なに、付き合ってる人いるの!」
かわいい末っ子のことを私以上に気にかけていたのだろう、聖臣の言葉を聞いて母さんがぱっと明るい声で食いついた。
「なんだ、なんで言ってくれないの。お姉ちゃんなんて匠くんと付き合ってすぐに教えてくれたのに。ていうかえ、会ってみたい! その人も大阪に住んでるの? どんな人?」
途端に矢継ぎ早に質問する母さんに、聖臣が目をぱちくりとさせる。
「……会いたいの?」
「会いたいに決まってるでしょ! ねえ、お姉ちゃん」
「まあ、どんな人かは気になるけど」
頷きながら少し考えた。聖臣が奴とかそいつって言い方をしたからなんとなく相手は女の子ではないだろうなと思った。それを母さんは気にしないかな、とちょっとだけ心配する。ちらりと隣の聖臣を見上げると、何を考えているかはわからない無表情でひとこと
「わかった」
とだけ言って席を立った。
そうして出て行った廊下の先で何やら話し声が聞こえる。まさか電話して相手を大阪から呼びつけるつもりか!?とハラハラして見ていると、母さんがねえねえと声をひそめて呼びかけてきた。
「聖臣、私たちに恋人さんのこと紹介したかったんだね。まさか今の今で呼びつけようとするなんて思わなかった」
「いや、止めなくて大丈夫? 大阪から来いはやばくない?」
「聖臣のことだから来てくれると思ってるから呼んでるんでしょ。あまり私たちが心配することじゃないんじゃない? 母さんが今すぐ呼べって意味で言ったんじゃないってあの子もわかってるでしょ」
「それはそうだけど相手が気の毒すぎる……」
いきなり遠方に住む恋人の実家に呼びつけられるのって普通にドヤバいと思うのだけど、まあそれを良しとできるから聖臣の恋人やってられるのかなとも思う。
「……相手の人、たぶん女の人じゃないよ」
なんとなく、母さんにショックを与えたくなくて小さな声になってしまった。べつに同性婚に抵抗があるわけではないけどそれは私個人の話で、母さんが聖臣の恋人を女性だと信じているなら相手のためにも言っておく必要があると思った。
けど、母さんはさっきの聖臣のようにぱちくりと目を瞬かせ、膝の上のプリンのふわふわ頭を撫でて言った。
「やっぱりお姉ちゃんもそう思った? どんな人だろうね、バレーしてる人かな? お兄ちゃんの時みたいに日本語あんまり通じないとかだと緊張しちゃうね」
兄が結婚すると言ってお嫁さんを連れてきた日、お人形さんみたいにスラリと長い義姉の手を取ってたどたどしい英語で話しかけていた母さんの姿を思い出す。私が旦那を初めて連れてきた日も、母さんは兄の時と態度を変えることなく純粋に来訪を喜んでいた。
なんだ、あんまり心配いらなかったかとほっと息を吐くと電話を終えた聖臣が戻ってきた。
「明日の4時頃には来れるって」
「本気で呼んだの? 相手の子かわいそうなんだけど」
「べつに明日会うのもいつか会うのも一緒じゃん。明日なら聖那ちゃんもいるんだし」
「あらじゃあ夜ご飯気合入れなきゃね。聖臣、何がいい?」
「……寿司。俺買ってくるけど」
「じゃあ五十鈴さんのとこにお願いしてね、聖臣明日取りに行くのまで任せていい? お寿司だけだと物足りないから何か作るけどどうする?」
「……ロールキャベツだと、嬉しい」
「いいね、それにしよう。なんだか誕生日みたいだね」
母さんが作る具沢山のトマトスープの大きなロールキャベツは私たち兄弟みんなの大好物だった。いつもは仕事が忙しい母さんも誕生日やクリスマスの時はじっくり時間をかけてロールキャベツを作ってくれる。それが子供ながらにすごく嬉しかったのを覚えている。
「何どうしたの? なんか楽しそうだね」
風呂に入っていてひとり会話に乗り遅れた父さんが事情も知らずニコニコと愛犬を母さんから受け取ってダイニングに腰掛ける。
「明日聖臣が付き合ってる人連れてきてくれるんだって。だからお寿司とロールキャベツにしようって」
母さんが言うと父さんは
「えっ、明日!? え、恋人!? えっ!?」
と今日イチ大きな声で妥当なリアクションをした。
「し、起きるから」
元凶の聖臣は静かにとジェスチャーで示しながら私の腕の中の娘を気にかける。
「どうしよ、聖那の時より緊張する……」
と末っ子にゲロ甘な父が声をひそめてそんなことを漏らした。
翌日、張り切った母さんに連れられてベビーカーとペットカートをそれぞれ押しながら私たちは親子ふたりで買い物に出かけた。男性陣には家の掃除を任せてある。帰った頃には元からそれなりに綺麗だった我が家はピッカピカになっていることだろう。
プリンをトリミングに預け、デザートのお菓子や部屋に飾る花を買いに店々を回っていく。缶バッチを綺麗に並べたカバンを持ったきらびやかな女の子たちとすれ違いながら、整備された人工の小川のせせらぎを眺めて歩く。昔と大きく変わった故郷の街並みに不思議な気持ちになった。
途中で休憩に入ったカフェのテラス席で、母さんは風で揺れる街路樹を見つめながら「緊張するなあ」とふとつぶやいた。
ちらりとテーブルを挟んだ向かいに座る母さんの横顔を覗き見る。ごう、と大きな音がして目の前をモノレールが過ぎ去って行く。風で煽られた髪の毛を手櫛で整えながら、母さんはもう一度「緊張するね」と言った。
「聖臣って慎重だから、変な人は連れてこなそう」
「聖臣だけじゃなく、あんたたちはみんな見る目あるって思ってるよ。そこは昔から心配してない。シンディちゃんも匠くんもすごくいい子だった」
「……うん」
「でもやっぱり、緊張しちゃう。いきなり呼び出されて、相手の子も緊張してるだろうね」
「私だったら全部終わった後でもっと前もって言えってキレるね」
「ね。……相手の子にうちを気に入ってもらえるといいなあ」
母さんはそう言ってラテアートの施されたカップをそろりと傾けた。背にした噴水広場から音楽が鳴って、行き交う人々のざわめきがより賑やかなものになる。
「……それは大丈夫じゃない。匠もシンディちゃんもうちのことすごい好きっていつも言ってくれてるし」
「みんな来るたびプリンにもお土産買ってきてくれるしね」
「うちのアイドルだから」
そんな会話をしてまだ胸の中でざわめく緊張を和ませようとする。いきなり東京に呼びつけられたのに来てくれるような寛容な聖臣の恋人が、私たち家族のことをよく思ってくれたらいい。私たち家族の存在が聖臣たちの仲に悪い影響を与えないといい。
こんなふうに心配する私たちの気持ちなんて、たぶん聖臣は知らない。それは慎重な弟らしくない楽観からではなく、家族への信頼ゆえであると私たちは知っている。
「……聖臣が付き合ってる人紹介してくれるなんて、本当に嬉しいなあ」
今日で何度目かの同じ台詞を母さんがまたつぶやいた。末っ子として家族みんなに愛されて育ったあの子は、自分の恋人と私たち家族がお互いに好きになるはずと当然のように信じているのだ。
夕方、聖臣たちの帰りを待ってリビングに集まる両親の顔には明らかな緊張の色があった。化粧直しの際に見た私の表情もなかなか硬かったから同じようなものだろう。キッチンから漂う美味しそうなロールキャベツの香りも、にぎやかなグルメ番組の音声も、プリンの健やかな寝息も全部和やかな日常の風景のはずなのに手汗が止まらず気持ちが落ち着かない。
秒針の音さえ気になって時計を見上げたところで、ガチャリと玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま」
「あ、と、お邪魔しますー」
聖臣の静かな声に続いたのは、やはり低い男性の声だった。顔を見なくても伝わるくらいの緊張を乗せた関西訛りの言葉に、ドッと心拍数が上がる。いち早く動いた母さんが玄関に向かったのに気が付いて、プリンが飛び起きて一緒に走っていった。それに慌てて父さんが後を追う。私は大人たちの事情なんて一切気にせずすぴすぴ寝続ける娘の小さな手を軽く握って耳をそばだてていた。
「あらあ! はじめまして……じゃないか。遠いところいらっしゃい、よく来てくれました」
母さんのテンションの高い声だけがよく聞こえ、男性陣は恥ずかしさが勝っているのかお互いにもしょもしょと挨拶しているようで細部までは聞こえない。
「大阪から来てくれたんでしょ? 聖臣がいきなり本当にごめんね」
「いえ、こんなん全然……。こちらこそいきなりお邪魔してすみません」
足音が近づいて相手さんの声がよりはっきりと聞こえる。あれ、この声どこかで聞いたような……そう思い至ったところで母に続いて長身の金髪がリビングに現れる。
「っ、宮侑……!」
「ハイッ!」
私がおもわず呼んだフルネームにシャキッと背筋を正し、弟の連れてきた恋人は元気よく返事をした。
リビングでの挨拶が終わるなり、「手洗い、うがい、消毒」と聖臣のいつもの三拍子を言われミヤアツは弟により洗面所へと連行されていった。再び弟たちのいなくなったリビングで、母さんと父さんはめちゃくちゃ興奮気味に「宮くんだ!」「侑くんだ!」とはしゃぎ始めた。うちの両親は、弟と同じチームで活躍する選手全員を推しメンとして日頃からものすごく応援しているのだ。一瞬のうちにふたりの雰囲気が「息子の恋人に初めて会う親」から「推し選手に偶然出会ってしまったファン」になってしまっている。
「すご……、びっくりした……」
「後で握手頼んでもいいかな」
「え、母さんずるい」
「でも、たしかに聖臣って静かな子より宮くんみたいな子の方が合うかもね」
「そんな話されるとまた緊張してきた……」
「お父さん黙らないでちゃんとしゃべってね」
と思ったらまた「息子の恋人に初めて会う親」に逆戻りして百面相を繰り返している。
私はその様子を眺めながら、結構意外なとこ来たなと弟たちふたりの姿を思い返していた。
世間一般から見て、ミヤアツの印象は「バレーは強いんだろうけどツラもいいしチャラそう」というのが共通認識だと思う。その第一印象で入るからこそ、Vリーグや日本代表の試合で真剣にバレーをする彼のギャップに何人もの人間が撃沈されているのだ。現に私も佐久早聖臣の姉ということでミヤアツガチ勢の女の子たちになんとか接点を作ろうと近づかれることがかなりある。勝手に、こんなにモテるのだしあの顔なのだから恋愛周りは派手なのだろうなと思っていたが、まさかそんなミヤアツがうちの弟の恋人になっていたとは。
「かわい~! 名前、なんていうんですか?」
「ゆめ」
いつの間にかリビングに戻ってきたミヤアツが娘を見て目を輝かせている。私に名前を聞いただろうに聖臣の方が先に答えた。
「名前もむっちゃかわいいやん! 抱っこしてもええですか?」
「いいよー。首すわってないから気をつけてね」
「はあい。うわ、むっちゃちっちゃい……」
案外慣れた手つきでミヤアツが娘を抱き上げたところで、キッチンにいた母に聖臣が呼び出される。聖臣が少し心配そうな目で私をちらりと見たので、大丈夫と頷いておいた。
「宮くん抱っこ慣れてんね」
「侑でええですよ~。こないだ友達んとこにも赤ちゃん生まれてん、抱っこマスターしましたー」
テレビ越しに見るのとはまったく違う親しげな笑顔でミヤアツ、いや侑くんが言う。
「聖臣はびびって全然抱っこしないの」
「臣くんは慎重さんやからなあ」
そう話す侑くんの目もとが優しく緩み、キッチンに立つ聖臣を目で追う。たったそれだけだけど、侑くんが弟のことをちゃんとすごく好きなんだというのが伝わってきた。そりゃ帰省したと思った恋人にいきなり呼び出されて新幹線で来てくれるくらいなんだから、好きなんだろうなというのはわかっていたけど。
侑くんのことはこれまでも試合で何度も見たことがあったけれど、その彼がこうして弟の恋人として家にいるっていうのはなんだかものすごく変な感じがした。
「トロ好きでしょ、食べないの」
「や、食う、いやいただくから、ありがと……」
なんかやけにまぐろづくしの寿司だと思っていたら、聖臣はちゃんと恋人の好物を揃えていたらしい。「ビールじゃない方がいい?」とか「ロールキャベツも食べなよ」とかまめに侑くんを気に掛ける様子に両親がほっこりしている。わかる、私ですらあの小さかった聖臣が……!という感動で今ちょっと涙が出そうだもん。
侑くんは夕飯前のお茶で一回ほどけた緊張がまたぶり返したらしく、来た時と同じくらいのカチンコチンっぷりで父さんの注ぐビールを受けている。
「なんでそんな緊張してんの」
「いやそらするやろ……!」
「そりゃ初めて付き合ってる人の実家に来たら誰だって緊張するよねえ。聖臣も侑くんの実家にお呼ばれしたら絶対そうなるから」
「懐かしいね、昔父さんも山梨のお母さんの実家行った時口から心臓出そうになった」
「あなたは途中の道の駅で本当に吐いてたよ」
「母さん、食事中だから」
親子の会話に侑くんが笑う。
「実は緊張しすぎて昼ほとんど食っとらんかったからめちゃくちゃ腹減っとって」
「じゃあいっぱい食べて! これね、ロールキャベツ、うちの子たちみんな大好きななの」
「臣くんが誕生日とかにたま~に作ってくれるん、お母さんの味やったんや」
「……真似して作ってるだけだから、同じ味にはなんない」
「なに聖臣、作るならレシピ聞いてくれればいいのに。どう違うの?」
「んー、エリンギやない? 臣くんのには入ってへんよな」
「そうそう、細かく刻んでお肉に混ぜてるの」
そんな三人の会話を黙って聞いていた父さんとふと目が合った。父さんはもともと口数は少ない方だし野暮なことは決して言わない。だから今回も言葉にすることはなかったけれど、聖臣がちゃんと好きな人と一緒にいれてよかったと心から思っているのがわかった。
「あれ、アイス食べとぉ」
「ん、侑くんも食べる?」
「わ~い! いただきます~」
帰省の間はリビング横の小さな和室が娘と私の寝室なので、娘を先に寝かせてリビングでひとりアイスを食べていると風呂上がりの侑くんがやってきた。交代に聖臣が風呂に行ったので今が侑くんとふたりでしゃべるチャンスと私は侑くんを捕まえる。
「今日は奮発して大きいレディーボーデン買ってきたから好きなだけ掬ってどうぞ」
「ほんま? セレブやん」
「しかも特別にカラースプレーとアラザンもある」
「どセレブやん佐久早家……。しかもなんかめっちゃかわいいアイス専用の食器もある……」
「母さんがそういうの好きなのよ」
「こういうのもそうやけど、今日めっちゃ臣くんちやな~と思っとりました」
侑くんがディッシャーで綺麗な球体のアイスを盛りつけながらそんなことを言う。
「そうなの?」
「おん、ロールキャベツとか、図らずも臣くんが俺にしてくれた特別なことの答え合わせできてもうてめっちゃ照れくさかったわあ」
でっかい男が頬を軽く染めて嬉しそうにしゃべるので、なんだか私まで照れくさい気持ちになってしまった。
「ねえ、聞いてもいい? いつから聖臣と付き合ってたん?」
アイスと温かい紅茶を持ってソファに戻ると、私はさっそく侑くんにそう切り出した。侑くんは口に運んでいたアイスをしっかり味わってから、スプーンを離してうーんと唸った。
「えーこれ勝手にしゃべって臣くんに怒られへんかな」
「大丈夫大丈夫」
「適当やん……。聖那ちゃんあんまおっきい声で言わんとってな、……ふふ、臣くんが大阪来てわりとすぐから」
「へえ!」
「で、これはついでやから話してまうんやけど」
「うん」
「俺が臣くんのこと好きんなったのはもっとずっと前やねん、これは臣くんも知らん話」
しぃーと人差し指を口の前に持ってきて茶目っ気たっぷりな笑顔で侑くんが言う。
「へえ、じゃあずっと好きなんだ」
「おん! やから今日臣くんが実家呼んでくれて、ほんまにめっちゃ嬉しかってん。……聖那ちゃんも、お母さんもお父さんもあったかく迎えてくれてほんまによかった……」
「……私たちも、今日侑くんに会えてよかったよ」
侑くんの言葉が本当に切実みを帯びていたので、私の返事もつい柄じゃないしんみりしたものになる。こういうこと言うのって恥ずかしいけれど、弟たちのためにもちゃんと伝えておかなくてはならない。
「うちの親も、侑くんのこともう我が子だと思ってるだろうから、これからもいつでも遊びにおいで」
そしてどうか、うちの弟とずっと仲良く一緒にいてね。そんな想いでそう言うと、私の言外の言葉を拾ってか侑くんは真面目な瞳で「はい」としっかり頷いた。
たぶん、この先この子とは長い付き合いになるのだろうなと予感する。ふたりの結婚式に参列する姿も、今は余裕で想像できる。そこにいたるまで、ふたりにはきっと様々な障害が立ちはだかるかもしれない。そういうものから家族として、ふたりの幸せを一緒に支えて守っていきたい。
自分が選んだのがこの人でよかったと、聖臣がずっと先の未来でも同じように思えてたらいいなとそんなふうに思った。