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    侑佐久
    ここにあるものは後日Pixivにまとめます
    加筆したりしてるのでそっちも見てくれると嬉しいよ😘

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    宮選手と佐久早選手の結婚を受けてバレーボール協会の企画動画を作ろうと黒尾さんが大阪へやってくる!
    侑佐久第三者視点シリーズ第③ 黒尾くん🐈‍⬛

    #侑サク
    assistingAtDinner
    #侑佐久
    assistingAtDinner

    【結婚おめでとう】宮&佐久早のパートナー理解度クイズ #バレーボール男子 オリンピックが閉幕しほどなくして、宮侑選手と佐久早聖臣選手の結婚が突然発表された。ついこの間まで数々のドラマティックな試合を戦い抜き世間を白熱させていた選手同士の結婚に、日本だけでなく世界中からリアクションがあった。

     黒尾はというと、なんだかんだふたりとは数年来の知り合いであるというのにその発表までこれっぽっちも関係に気がついていなかった。職場で上司に言われた「ミヤアツとサクサ結婚したってね。知ってた?」の言葉に最初、誰と誰のことか一瞬理解が追いつかずフリーズしてしまったほどである。
     
     黒尾にとって、宮と佐久早は旧友である木兎のチームメイトであるというのもあり、その活躍を見る機会は数いる選手たちの中でもかなり多い方だったように思う。佐久早にいたっては高校・大学時代と何度も戦っては苦杯を喫してきた相手でもある。
     ふたりとも同年代の選手たちの中では昔から人でなしと評されてきたが、意外にも年上である黒尾には礼儀を欠くことなく接してきた。会えば普通に話をするし、ふたりきりということはなくても食事にも酒の場にも共に行ったことがある。
     けれど黒尾は本当に、これまで少しも彼らが付き合っていることに気が付いたことはなかったのである。
     
     それは試合やメディアを通して彼らを見ていたバレーボールファンたちも同様だったようで、ネットには「おめでとう」の声の他に「意外すぎるふたり!」という声も多く散見された。(これはまだまだ伸びしろがあるということだが)世間的にバレーボールが大きく注目されるのは国同士の戦いの時であり、全日本代表としての彼らだけしか知らない人も多いであろう。
     そういった広く知られているメディアの中で、宮は角名や尾白、そして何より日向を取り立ててお気に入りとして接しているように見えた。いつも我が物顔で日向の肩を肘置きにしている宮の姿を、バレーに詳しい人なら誰もが知っていた。
     佐久早においても、牛島や古森といることの方が宮と一緒にいるのよりずっと多かったと記憶している。あの常に無表情めいたミステリアスな彼がふたりの前でだけ子供っぽい表情を見せることにときめきを覚えたファンも少なくない。
     まあそんな感じで寝耳に水の結婚報告に世間はびっくりのどんちゃん騒ぎとなっていた。

     黒尾が携わっているバレーボール協会の公式SNSにもふたりに関することをもっと知りたいというリクエストが多く届いていた。
     そこで急遽立ち上がったのが今回の動画企画である。主旨は簡単で、ふたりに関して多く集まった質問を実際にふたりに答えてもらおうというものだ。
     
     しかし渡された企画書の中身を読んで、黒尾は一気に気が重くなってしまった。
    「ふたりが付き合ったのはいつから?」
    「相手のどんなところが好き?」
     など、芸能人の結婚記者会見でよく目にするような質問が並ぶ文字列にもう一度ため息を吐く。そんなに深くない関係性の黒尾でもわかる。
     ――これ、絶対ふたりとも聞かれたりしゃべったりしたくないやつじゃん……。
     撮影協力へのOKの返事がきたことで、よりふたりへの申し訳なさが募る。断ったっていいものを、多少上からの圧があるとはいえ応じてくれるのは、彼らにとってもこの企画がバレーボールを盛り上げる一助になると思っているからなのだろう。
     少し話を聞いてほしくて、黒尾は大阪へ前乗りしたその夜、久しぶりに木兎を食事に誘いだした。

     *

    「黒尾さんや~! わざわざ東京から来てくれはったんですか?」
    「……お久しぶりです」
     撮影場所となるレンタルスペースで待っていると、指定時間より10分早く宮と佐久早のふたりが一緒にやってきた。同じBJのロゴが入ったTシャツとジャージに身を包むふたりの距離感は、黒尾の知るふたりとあまり変わりがないように見えた。
    「お久しぶりです、というほどでもないけど。本日は撮影のご協力誠にありがとうございます。遅くなりましたが、結婚おめでとうございます」
    「おお、めっちゃ丁寧。なんや照れるわあ」
     宮が人懐こい顔で笑って、黒尾の格式ばった挨拶にそう返した。
    「わずかばかりですが、こちらは協会からお祝いです」
    「すみません、わざわざ。ありがとうございます」
    「わ、ありがとうございます~」
     佐久早も同じように頭を下げながら、差し出された封筒を両手で受け取る。隣の宮がその手元を覗き込んでぱちぱちと拍手をした。自分で用意したご祝儀が何の疑問もなく受け取られるのを見て、黒尾はやっとふたりの結婚を実感した。
     次いでふたりの左手の薬指にそれぞれ輝く金と銀を見つける。
    「お、指輪」
     黒尾がおもわず声を上げると、宮はもともとご機嫌そうだった相貌をさらに輝かせた。
    「そう! 黒尾さん見て! 普段付けへんからなんやかんや人前でつけるん今日が3回目とかそんななん!」
    「そうなの? 俺すげえレアじゃん」
    「こいつ、こう言ってるけど今日普通に指輪忘れてきてさっき家に取りに帰りました」
    「なんでバラすん、臣くんひとりだけしれっと自分の分持って行くんやもん」
    「俺の方が出たの先なんだからそうなるだろ」
     やんややんやと黒尾を放って言い合いをするふたり微笑ましくて、ふっと笑みが漏れる。ここに来るまで意外だと散々思ってきたけれど、こうしてふたりの会話を聞くとごく自然に「なんだ普通に恋人じゃん」と思えた。
    「てかさっきから気になってたけど指輪ふたつつけてんの?」
     黒尾がビジネスモードで話さない方が自然に話ができるかな、と意図して敬語を外していく。動作だけで椅子の方へ促すと、佐久早はぺこりと会釈してセットされたカメラの前に腰かけた。
    「気ぃ付いた!? さすが黒尾さんやお目が高い」
    「いいからまずお前も座れよ」
    「えーでもさすがにこれはオフレコがええ」
    「大丈夫。ちゃんと企画とそうでないのは分けてるから」
    「じゃあしゃべる! 臣くん、黒尾さんやったら話してもええよな?」
    「俺はいいけど知り合いの惚気聞かされんのは普通にしんどいっていう前提で話せよ」
    「アラ、俺惚気聞きたい派だからどんと来ていただいてオッケーですよ〜」
    「やたー! ふっふ、えっとな、こっちの金色の方が臣くんが買ってくれた指輪で、こっちのシルバーのが俺が買うたやつ。どの指輪買うかふたりでもめまくって、どっちも折れんから「もう知らん!」てなってそれぞれ買いたいの買って来てん」
     宮が薬指から外した2本の指輪を、手のひらに乗せて黒尾に見せてくれる。ゴールドの方は黒のラインが入ったゴツめのデザインで、宮のイメージによく合う。もう一方はくすんだシルバーの細身のデザイン、こちらは佐久早に似合いそう。手に付けていた時には気が付かなかったが内側がイエローゴールドになっている。お互いが自分でなくて相手に似合うデザインを選んできたのだ。
     まったくデザインの趣が異なる2本の指輪を見て、黒尾は早くも砂糖を口いっぱいに詰め込まれた気持ちになっていた。全然嫌な意味ではなくて、単純に甘くて幸せすぎるという意味で。
    「すご。めちゃくちゃいいじゃん、似合ってる」
     黒尾はカメラの録画は押さないままで、心の底からそう言った。
    「ふふ」
    「ありがとうございます」
     言われたふたりも、無意識かそれぞれ薬指を触りながら照れくさそうに小さく笑った。

    「で、俺らって今日黒尾さんに記者会見されるん?ってえらい人に聞いたんやけど」
    「やあ~えらい人たちの中ではそうなってんだけど、ぶっちゃけキミらそういうの嫌でしょ」
    「まあ正直に言うならそうですね」
    「でも木っくんが「黒尾ならダイジョーブ!!」って言うてたからまあええかってなってOK出したんやけど」
     宮の口から出てきた友の言葉に、少しばかりじーんとする。実際、昨夜木兎と共に飲んだ時も今日のことを心配する黒尾に木兎は同じように「ダイジョーブ!!」と言ってくれたのだった。
    「うん、もともとはSNSで集まった質問をふたりに答えてもらうって趣旨だったんだけど。なんか質問がふたり向きじゃなかったから昨日俺と木兎で考えてきました~」
     そう言ってふたりの前にハガキサイズの質問カードを広げて見せる。
    「おお~!」
     まだ内容は見えないながらふたりが黒尾の言葉を聞いて安堵したのを感じとると、黒尾の方も表情に出さぬようほっと息を吐いた。
    「はいこれ。それぞれ5枚ずつ取って。んでその質問というかクイズを相手に答えてもらいます」
    「クイズなん?」
    「俺がこいつに問題を出すってことですか?」
    「そうそう。さらに、ジャーン。正解数が多かった方にご褒美も用意してある。まあ普通にいつも通りにリラックスしてしゃべってもらえればいいから。NG部分はちゃーんとカットするんでご安心くださいな。OK?」
    「ういっす! ご褒美狙います!」
    「わかりました」
    「おー頼もしい。じゃーカメラ回しまーす」
     黒尾の言葉に、ふたりが素直にしゃきっと背筋を伸ばした。

    「……では今回、話題の選手ふたりに会いに大阪に来ています! 今回撮影にご協力いただいたのは向かって正面、左からMSBYブラックジャッカル宮侑選手、そしてお隣が同じくブラックジャッカルの佐久早聖臣選手です!」
     黒尾の撮影用に作ったハイテンションボイスに合わせ、ふたりともぺこりと頭を下げて挨拶をする。
    「どうも~宮侑です」
    「佐久早聖臣です」
    「本日はね、おふたりが結婚されたということで! そのお祝いをお渡しするついでにちょっとした企画にご協力いただきます! 題して『どれくらい私のことを知ってるのクイズ』~!!」
    「え、クイズの趣旨ってそんななん? 今初めて聞いてんけど」
    「そうなんです! 内容は昨日、彼らのチームメイトである木兎光太郎選手と僭越ながら私で考えさせていただきました~。……ではさっそく。どうぞおふたり、裏返してクイズ文を見てみてください!」
     促されるままそれぞれが相手に見えないように手の中のカードに目を通す。ほどなくして宮の肩が震え、佐久早もまたカードで笑う口もとを隠した。
    「なんやねんこれ、知っらな!」
    「やばい、ほんとに知らねえ」
    「てか自分でも知らんやつ全然ある」
    「えーそれではふたりとも内容がわかったところで。あ、ちなみに勝者には賞品があるのでね、視聴者の皆さんもおふたりの応援お願いします。それじゃあ、先攻後攻どっちする?」
    「え、コイントスする?」
    「わざわざやんねえよ、お前試しに最初答えて」
    「えーわかった」
     じゃあどれからいくかな、と続けた佐久早の顔には楽し気な色が浮かんでいる。最初ここへ来た時の心配と不安が残る表情とはその表情の差は明らかだった。

    「じゃあ一問目。俺の好きな牛肉の部位は何?」
    「いや知っっっらな! つかこれ昨日木っくんたち焼肉屋で飲んでたやろ!」
    「これ制限時間ありますか?」
    「いや特にないですね」
    「ヒントは?」
    「まあOKで」
     答えながら、黒尾は昨日の木兎の話を思い出していた。
     ーーふたりが楽しそうに話してるの見たら好き同士ってわかると思う。だからさ、聞く内容なんてスッゲーくだらないことでいいんだよ。あいつらが何これって笑っちゃうようなやつ。
     そう言って奴は黒尾のメッセージアプリに「好きな牛肉の部位」と一言送ってよこした。

    「おっし、絶対当てよ。いや言うてこの人、焼いたそばからなんでも食べんねん」
    「まあ好き嫌いはないから。……よし、決めた」
    「え~俺当てられそ?」
    「お前の記憶力次第」
     佐久早は長い足を組んで、おもしろそうな顔で宮を見つめた。宮の方も、うーんと唸りながらその口元には楽し気な色が浮かんでいる。
     その様子を見て、よかったと黒尾は思った。木兎の言った通り。野暮なことを聞いてふたりに気を使わせるより、クッソどうでもいいことを聞いて楽しそうにしているのを見ている方が何百倍もいい。
    「ハイ」
    「どうぞ」
    「エンピツ」
     宮の回答に佐久早はいったんちらりと下を向いて笑って、それから宮の方に己の拳を突き出した。
    「正解」
    「よっしゃ」
     こつんと控えめにふたりの拳が合わさる。
    「いやこれ食ったのめっちゃ前やない? 俺よく当てたわあ」
    「昔東京でね、そこの店の店長に俺たちのファンだから特別って言って出してもらった」
     カメラの向こうの視聴者を意識してか、佐久早が説明を挟んでくれる。
    「うん、臣くん珍しくめちゃくちゃ美味いって絶賛しとったもんな」
    「ちゃんと覚えてんじゃん」
    「せやろ。もっと褒めてくれてええで。いやこれ楽しいな、次俺問題出していい?」
    「ん」
    「じゃあおんなじ好きなもんシリーズから攻めてこ。ジャン! 侑くんクイズ! 俺の好きなおでんの具は何?」
    「答え決まってんの?」
    「おん、今決めた」
    「じゃあ餅巾」
     佐久早が即答すると、先ほどの佐久早と同じように宮が拳を出す。またこつんとふたりの拳が小さく触れ合う。
    「早すぎん?」
    「これはわかった。けどちょっとちくわぶとも迷った」
    「ちくわぶな~、あれって魔性なんよな」
    「なに?」
    「いや関西って基本ちくわぶ食わへんやん。俺もずっと知らんかったんやけど、昔酔った元也くんに「侑ちくわぶ食ったことないのは人生損してるわ」ってめっちゃ言われてん」
    「……へぇ」
     佐久早が笑い混じりに相槌を打つ。
    「そんで悔しなって東京行った時食ってみたんやけど。べつにまずくも美味くもないねん。あれ!?って思て、次食うたらきっともっと美味いんちゃうて思てしもてずっと理想のちくわぶ追い続けてんねん」
    「あいつもべつにちくわぶ食ってんの見たことないけど」
    「そう! その後元也くんには普通にそんなこと言ったっけ?って言われたわ」
    「お前が変にちくわぶに固執してた謎が解けたわ」
     ふたりの会話を聞いて黒尾はふと夜久の存在を思い出した。あいつもなぜか一時期ずっとちくわぶを食べていたが、もしかしたら宮と同じように古森に何かを言われたのかもしれない。
     とりあえず一問目はそれぞれ正解で、成績は1-1。

    「次また俺ね。……俺、スニーカー何個持ってる?」
    「うわ地味に知らん……。えーっと、1、2、3、4……5? あったよな、5」
     宮が上を見て指折り数えるのと一緒に、佐久早も記憶を辿りながら小さく口を動かす。
    「ぶ。まだ降ろしてないのあるから7」
    「いや知るかい! あー外してもうた。普通に悔しいな……あ、ちなみに臣くん俺のスニーカーの数わかる?」
    「全然知らない。……5くらい?」
    「ブー! 6でした!」
    「は? うざ」
    「暴言! これYouTube用やから!」
    「あ、そうだった」
     ちら、と若干気まずそうに黒尾を見やる佐久早に手を振って応える。
    「はは。ちなみに、おふたりともサイズ同じくらいですがシェアしたりはされますか?」
     せっかくなので話を膨らませてみると、ふたりして同じタイミングで首を左右に振る。
    「いやもう全く! 臣くん靴のシェアとか絶対無理やから」
    「けど前、偶々ふたりとも同じようなタイミングで同じ靴買ってきた時があって。なんで俺の履いてんだろ?ってお互い思いながら、靴2足あるって気付かないで1ヵ月くらい過ごしてたことありますね」
    「俺ずっと臣くん俺の履くなんて珍しいなあ思て黙っとったんやけど、ある日翔陽くんに今日靴おそろいなんすね!って言われて初めて気ぃ付いたんよな」
    「あれ、すっげえ恥ずかしかった」
    「臣くんガチ照れして黙ってもうたから俺がめちゃくちゃ偶々!偶々や!て言うて必死にカバーしとりました」
    「ふ、あんときの日向、すげー困ってた」
    「今思い出しても翔陽くんにほんまにごめんて思うわ」
     その時のチビちゃんの顔はめちゃくちゃ想像がつく。いたたまれなかったろうなと、黒尾は心の中で過去の日の日向の頭をそっと撫でた。

    「じゃあ次また俺! 俺が初めておこづかいで買ったCDはなんでしょーか!」
    「……俺これ前聞いた。オレンジレンジの以心電信」
    「え俺言った? やばいめっちゃ臣くんにわかられとる……」
     そう言いながらふたりはまた拳を合わせる。
    「サムとの共同出資やけどな。ちなみに俺がほんとにひとりで買うたCDはわかる?」
    「……アルバム?」
    「そう」
    「アジカンの」
    「うん」
    「ソルファ」
    「……臣くん」
     佐久早の答えに、宮は今度は拳ではなくハイタッチを求めた。試合中のハイタッチを避けるしぐさが名物となっていた佐久早であったが、目の前の彼は戸惑うことなく宮の手に自分の手を音を立てて重ねた。ふたりとも正解が嬉しかったのだろう、離れかけた指同士が絡まり強く握った後で改めて拳が合わさった。
     正直、今のハイタッチ&グータッチだけでも撮れ高としてはおつりがくるくらいである。この動画が公開された後の阿鼻叫喚を思うと、今からすでにおもしろい。
    「臣くんすごすぎん?」
    「でもこれは簡単だった。お前運転してる間無限にどうでもいいことしゃべってるから。アジカンの方はバッキバキになってるやつ、いまだにお前のダッシュボードに入ってるじゃん」
    「懐かし~昔ゲオで中古で買うたん今でも覚えてんもん。んで高校ん時サムに踏まれてバッキバキんなって殴り合いの喧嘩したん」
    「俺も元也にCD貸したらランドセルから出された瞬間真っ二つになってて喧嘩したことある」
    「え~悔しいからなんのCDか当ててええ?」
    「いいけど俺この話したことないから普通にムズいと思う」
    「そこ当てんのが絆ってやつやん! ……うーん、柴咲コウ」
    「ぶ」
    「中島美嘉」
    「ぶ、鬼束ちひろ」
    「うわめっちゃ惜しい」
    「惜しいの?」
     世代が被っているから黒尾にとっても懐かしい記憶が蘇ってくる。ケースを割ったことはなかったが、FFのサントラは何作分も研磨に借りたなと思い出す。研磨は逆に黒尾が持っているJ-POPのCDに全然興味を示さなかった。

     二問目の勝負は佐久早の勝ち。これで1-2。
     どんどんとふたりのクイズは進んでいく。

    「三問目。俺が一番好きなじゃがりこの味は?」
    「知らん!って言いたなるけどこれは知っとる。アスパラベーコン」
    「……スリザリンに10点」
    「俺スリザリンなんや?」

    「次また俺。え~っと、俺が最近買った中で一番高かった買い物は?」
    「指輪以外?」
    「さすがにそう、よな?」
     ふたりして黒尾を仰ぐのに、首肯だけで答える。
    「これ絶対臣くんわからん。言うてへんもん」
    「は? 何買ったの」
     言いながら、ふたりとも殺しきれない笑みで肩が震えるのを耐えている。佐久早がまた笑い出す口もとをカードで隠した。
    「お前また余計な物買ったろ」
    「余計やない。臣くん好きそうやなって思ってん」
    「……家にある?」
    「……車に積んだまま」
    「やっぱ余計なんじゃん」
    「ちゃう、ちょーっとあれやん。値段聞かれたら困るな思て」
    「はあ?」
     宮をなじりながら、佐久早は楽しくてしかたないというようにずっと笑っている。
    「……プロジェクター」
    「あ、それも欲しな」
    「……デロンギのエスプレッソマシン」
    「それも今度買お」
    「は? ほんと何買った?」
    「…………フロアランプ。臣くん角っこんとこになんか置きたい言うてたやん」
    「……いくら?」
    「いやでもそんなせん。……ウン十万くらい」
    「お前……」
    「やー! 絶対臣くん気に入るから!」
     駄々をこねる宮の脛を佐久早はつま先で軽く小突く。ここまで3問ずつ出し合って正解数はそれぞれ2つずつ。なかなかのいい勝負に、黒尾ももう当初の心配はすっかり吹き飛んで、純粋にふたりのやり取りを楽しんでした。

    「次俺。……すごいこれだけちょっと記者会見ぽい」
    「え~どんな?」
    「……侑が作る料理の中で、俺が一番好きなのは何か」
    「おお、これはちょっと恥ずいな」
    「さっさと答えて」
    「……待って、2択ある。臣くん中で決まっとるん?」
    「……同率だからどっちかだけでも可」
    「や、ふたつわかるわ。唐揚げと鍋焼きうどん」
     一瞬の無言ののちにまたグータッチが行われる。
    「宮選手、お料理得意なんですか?」
    「言うて俺の片割れプロの料理人なんで。ポテンシャルは全然ありますぅ」
    「……唐揚げは普通に店で食うくらい美味い。ザクザクで」
    「な。めっちゃ片栗粉付けて揚げとるから」
    「あと、こいつの鍋焼きうどんは鮭入ってんの。それが美味い」
    「肉とダブルで入れるんが大人の贅沢って感じやろ」
    「てかトロもだけど脂乗ってる魚が好きだよね」
    「おん大好き。ついでに俺が好きな臣くんの料理、臣くんわかる?」
    「ロールキャベツ」
    「やっぱ好きな料理は楽勝すぎておもんないな。でもこれで記者会見達成したやろ」
    「そんなミッションあったんだ」

    「次~! 俺の好きなチロルチョコの味は何でしょーか!」
    「さっきの俺の質問との落差すごくない? しかも知らないし」
    「チロルチョコ、自分で買った記憶がもう十年くらいないかもしれん」
    「そもそも俺チロルチョコの味の種類わかんないかも」
    「嘘やろそれはチョコレートラバーズ失格やん。資格剥奪されんで。俺ゆみえちゃんに会うたびもろてるから新しい味もちゃんとわかる」
    「ゆみえちゃんって誰」
    「北さんのばあちゃん」
    「他人様のばあちゃんを名前で呼ぶな。……きなこもち?」
    「あーそれも好き。でももっと好きなんある。臣くんがんばりや~」
    「まじであと知らない……ビスケットとかはわかるけどこれではないのはわかる」
    「……ギブ?」
    「……答えは?」
    「コーヒーヌガー。絶対見たことあるで。後でコンビニで買ぉたるな」
     余談だが今の質問は黒尾が書いたものである。ちなみに黒尾はあの黒と白のミルク味みたいなのが好きだ。

    「次、俺の最後の問題。……ふたりで行った中で俺が一番楽しかった場所は?」
    「黒尾さん、これってふたりだけっちゅうこと? オリンピックとかはなし?」
    「せっかくなんでお仕事関係なしにふたりで行ったとこでお願いします~」
    「らしいです」
    「え~範囲広……、うーん……それは東日本? 西日本?」
     宮が頭に何かを巻く動作をして腕を組んだ。アキネイターじゃん。黒尾はそう心の中で突っ込むも、佐久早は特にそれに反応することなくスルーである。
    「西」
    「それは九州?」
    「いいえ」
    「……関西?」
    「はい」
    「京都?」
    「いいえ」
    「兵庫?」
    「いいえ」
    「……何度もそこに行ったことがある?」
    「はい」
    「ハイッ! 南紀白浜温泉」
    「……ファイナルアンサー?」
    「……ファイナルアンサー」
    「…………」
    「…………」
    「……残念」
    「えーーちゃうの? つーか今の懐かしっ」
    「答え、全然かすってない」
    「まじで? あとどこ関西で何回も旅行行ったっけ」
    「そもそも旅行先じゃない」
    「いやそれは難しすぎやろ。え、どこ?」
    「当てねえの」
    「……あ、展望台」
    「違う」
    「ええ、これ違うん。じゃあ司馬遼太郎記念館」
    「好きだけど違う」
    「……臣くんが楽しかったとこで、仕事関係なくて旅行でもない……え~」
    「……ぶ、時間切れ」
    「えー答えは?」
    「アクタス」
    「…………ハア~~、わからん! けどわかる……え、待って。それは臣くんめっちゃかわいくない?」
    「お前全然見当違いなとこばっか。愛が足りてねえんじゃねえの」
    「ハア~~!?!? 有り余っとるわ。わからんのかい!」
     宮をからかってそんなことを言う佐久早に、宮が椅子から立って抗議する。その必死さがツボに入ったようで、佐久早が腹を抱えケラケラと声を上げて笑い出した。そんな佐久早の姿を黒尾は見たことがなかったので、素直にとても驚いていた。と同時に、さすがに今の下りはカットだなと考える。
     アクタス、つまり家具屋。おおかた、同棲するための家具を買いに行ったのが一番楽しかったとかそういうとこだろう。そんなことを好きな人に言われたら、黒尾だってぐわっとトキメキまくってしまう。現に、言われた宮の顔は今日イチ真っ赤になっている。
     全世界に放映どころか、黒尾が見てしまっているのすら申し訳なくなる、幸せなカップルの日常のふざけ合いだった。

    「も~、最後俺。……俺がこの先ふたりで行きたいと思っとるとこは?」
    「旅行ってこと?」
    「俺が普通に用意してた答えはそう」
    「青森」
    「はいそう知ってました! 俺普通に言うてたもんな!」
    「やった。お前何個正解あった?」
    「えーっと、3」
    「……俺も3だ」
     勝負の結果にふたりはしばし黙った後、健闘を称えるようにまたグータッチをした。
     なんだかんだふたりがずっと楽しそうで、いい動画になったなと黒尾は思う。どんなとこを好きになったかなんて、今のほんの数十分の動画を見れば下手な言葉でしゃべるよりわかってしまう。ふたりでいるのが楽しいんだな、とこんなに伝わるふたりってなんだかすごくいい。
     
    「はい、というわけでおふたりとも、ありがとうございました~! 宮選手も佐久早選手も3問ずつ正解ということで、今回の勝負は引き分けということになります! なのでプレゼントはおふたりに! こちら焼肉〇〇さんのお食事券!」
    「わ~いありがとうございますぅ。ってこれ絶対昨日木っくんと買うてきたやつやん」
     封筒を受け取った宮に顔を寄せ、佐久早が小さく「どこにある店?」と聞く。
    「心斎橋やない? 犬さんから聞いたことある、店綺麗やしどれ食っても美味いんて」
    「へえ、いいじゃん」
     その自然な距離感ややり取りに、黒尾は今日何度思ったかわからない「いいふたりだな」という感想をまた抱いた。

     笑顔(佐久早はいつもの無表情)でエンディングのお手振りまで撮影し終え、黒尾は改めてふたりに頭を下げる。
    「本日は本当に、撮影のご協力ありがとうございます。そして改めて、結婚おめでとう」
    「こちらこそ、俺らのこんな話聞いてくれてほんまにありがとうございました。あんま誰にも聞かしたことなかったから、ちょっと楽しなってしゃべりすぎてもうたわあ」
     にこにこと、本当に幸せそうに宮が頬を緩ませてそう言った。
    「べつに隠してたわけじゃないんですけど、しゃべりまわるのも違うから。今日は楽しかったです」
     佐久早もそう言って丁寧な所作で頭を下げる。黒尾はそんなふたりがなんだかたまらなくかわいくなってしまって、大の大人に失礼とは思いながらも両手をそれぞれの頭に置きおもいっきり撫でまわした。
     突然の黒尾の行動に驚いて目を白黒させるふたりに、黒尾は今日一番の笑顔を作って心からの祝福の言葉を贈った。なんだかそっくりな表情でこちらを見たふたりが、目を合わせどちらからともなく笑い出す。
     ――大丈夫だったし、今日来れて本当によかった。
     ずっと近くでこのふたりを見守ってきただろう旧友の姿が思い浮かぶ。黒尾はこの後、彼に電話してこの感動を分かち合いたいと思った。
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💒💖💖😭💒😍💙💙💙
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    あなたを好きなことは私の自慢だった 昼休みに開いたSNSで推しの結婚を知った。
     
     宮侑、男子バレー全日本代表にも選出された超優秀なセッター。私の生きがいであり、支えであり、好きな人である自慢の推し。その人が今日、入籍をしたらしい。お相手はかねてよりお付き合いしていたという同じ実業団に所属する佐久早聖臣選手。
     「パートナーとしてこれから先もずっと支え合い、共に生きていきたいと思います。」
     ファンや関係者への感謝と共に綴られた短い文章を、信じられない思いで何回も読み返した。何かのドッキリであってほしいと願う気持ちを、ふたりの手書きの署名が粉々に打ち砕いていく。心臓がバクバクと鳴って、スマホを握る手に尋常じゃないほど汗が浮かぶ。

     目をつぶって深呼吸をしもう一度SNSを開けば、ふたりの結婚を驚き寿ぐネットニュースの見出しがいくつも並んでいた。おそるおそる、検索から侑のアカウントに飛ぶ。先ほど見た報告文の白い画像、そうして今、ちょうどもうひとつ新しい投稿が追加されたところであった。指が勝手に投稿された写真を押してしまう。侑が写真を投稿したら音速で拡大して見てしまうのは、もう癖なのだ。何年も何年もそうしてきたから。そして、スマホの画面に大きく映し出された推しの笑顔に今度こそ涙が出た。
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