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    侑佐久

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    侑佐久
    侑のリアコオタが侑佐久の結婚発表に失恋する話

    #侑佐久
    assistingAtDinner
    #侑サク
    assistingAtDinner

    あなたを好きなことは私の自慢だった 昼休みに開いたSNSで推しの結婚を知った。
     
     宮侑、男子バレー全日本代表にも選出された超優秀なセッター。私の生きがいであり、支えであり、好きな人である自慢の推し。その人が今日、入籍をしたらしい。お相手はかねてよりお付き合いしていたという同じ実業団に所属する佐久早聖臣選手。
     「パートナーとしてこれから先もずっと支え合い、共に生きていきたいと思います。」
     ファンや関係者への感謝と共に綴られた短い文章を、信じられない思いで何回も読み返した。何かのドッキリであってほしいと願う気持ちを、ふたりの手書きの署名が粉々に打ち砕いていく。心臓がバクバクと鳴って、スマホを握る手に尋常じゃないほど汗が浮かぶ。

     目をつぶって深呼吸をしもう一度SNSを開けば、ふたりの結婚を驚き寿ぐネットニュースの見出しがいくつも並んでいた。おそるおそる、検索から侑のアカウントに飛ぶ。先ほど見た報告文の白い画像、そうして今、ちょうどもうひとつ新しい投稿が追加されたところであった。指が勝手に投稿された写真を押してしまう。侑が写真を投稿したら音速で拡大して見てしまうのは、もう癖なのだ。何年も何年もそうしてきたから。そして、スマホの画面に大きく映し出された推しの笑顔に今度こそ涙が出た。
     
     佐久早くんと並ぶ侑の笑顔に、幸福があふれていた。
     ジャージでもユニフォームでもないシンプルな普段着に身を包み、カメラに向かって笑う侑。その隣の佐久早くんは彼には珍しいノーマスク姿で。だからこそ彼の頬が幸せそうにほんのりほころんでいるのが嫌でもわかった。

    「臣くんと結婚した! やったーーー!!」
     写真と一緒に投稿された文章はいたってシンプルだった。すさまじい勢いで投稿に「おめでとう」「お幸せに」のコメントが増えていく。知っているアイコンも混じっている、侑と仲の良い選手たち、あまり交流がなかったはずの海外チーム在籍の選手、めちゃくちゃ現場に通ってることで有名だったファン、古参ぶって侑に暴言を投げかけたりするおっさん……。たくさんの人たちに侑と佐久早くんは祝われていて、画面の向こう側は幸せ一色だった。真っ暗な絶望一色の私とは全然違う世界が広がっていた。

     その後、午後の仕事をどうこなしたかは全然覚えていない。きっと使い物にならなかっただろう、パートの中田さんが「顔色悪いよ、大丈夫?」って何度も聞いてくれたけど、それになんて返事をしたかもまるで覚えていないのだから。
     大丈夫なわけがなかった。心も頭も目の奥も全部がめちゃくちゃ痛くてどうにかなりそうだった。だって、侑が結婚してしまった。
     
     仕事中はなんとか耐えたけれど、限界はとっくに来ていて帰り道の雑踏の中で急に涙があふれてきた。さすがに不審者すぎるので慌てて近くの店に飛び込む。個室があればなんでもいいと思って入ってしまったから、おしながきの値段を見てぎょっとしてしまった。食欲だって全然ないのに、もう何をしても自分は駄目だと思った。

     入った手前出るわけにもいかないので梅サワーとトロたくを頼む。頼んでから、いつもみたいに侑の好物を選んでしまったことに気付く。そして前に「梅サワーとトロの組み合わせめっちゃ美味い!」と侑がインスタに上げていた投稿まで思い出し、その時侑が一緒にいた人の存在にまで思いいたってまた涙が込み上げてきた。

     侑がいつから佐久早くんと付き合っていたかはわからない。けれどきっと、私が好きになった侑はずっと佐久早くんのことが好きな侑だったのだろうなと直感でわかってしまった。

     私はただの一オタクで、それ以上でも以下でもないのは私が一番よくわかっている。外野の人間に「なんでそんなに追っかけまでして」と何度言われたかわからない。好きな人がいるから、と打ち明けてそれが宮侑選手だとわかった時の、友達から言われた「いい加減現実見なよ」も絶対に忘れない。私が侑を好きでいることを私以外の皆が軽んじていた。私だって、侑と自分が結婚できるなんて思っていたわけじゃない。
     ただ誰のものにもならないで欲しかった。ずっとずっと恋をさせていてほしかった。
     
     あたたかいおしぼりで涙を拭うと、涙袋に乗せていたラメが取れておしぼりの上でむなしくキラキラ光った。ずっ、と鼻をすする。すごくすごく好きだったなあとやっぱり思う。
     
     テレビでたまたま侑を見て、なんてかっこいいんだろうとひとめぼれしたのは五年前。いや、四年と九ヵ月前。心奪われるハラハラしっぱなしの試合展開に夢中になって、チャラそうなのに真剣にプレーに打ち込んでは得点に子供みたいに喜ぶ姿に雷に打たれたような衝撃を受けた。こんなに魅力的な人は見たことがないと思った。これは恋だって、確信した。
     
     そこからは本当に楽しかった。就職先の東京と地元の神奈川の田舎しかろくに行き来しなかった私が初めて本州を飛び出して試合を見に行った。試合後の交流タイムの存在を知って人生の中で一番おしゃれの研究をした。ネイルをして、初めてのへアメもして、侑のユニフォームを着て、彼に会いに行った。がんばっておしゃれした私を見て、侑が「髪、おしゃれやね」と言ってくれたその表情と声色まで全部覚えている。あれからどれだけめんどくさくてもお金がかかってもヘアケアは絶対に欠かしていない。

     ファンサ目当てに試合に来んな、アイドルでも追っかけていろとSNSで知らない奴に悪口を書かれたこともある。お前のことなんか誰も見てないって小声で当て擦りされたことだってある。うるせーよ、侑の視界にちょっとでも映るなら自分史上一番かわいい私でいたいって思うことの何が悪いの。私が侑の顔だけを目当てに通って試合を見てないって、何も知らない奴が決めつけないで。
     
     侑の故郷だという兵庫にも遊びに行った。神戸のおしゃれなカフェにアクスタを連れて行って、いつか侑も来たことがあるのかもとかそんな空想をした。稲荷崎高校にも行ってみたかったけれど、さすがに気が引けて行けなかった。遠征して大阪の街に行くたびに、侑とすれ違ったりしないかなとドキドキしながら背筋を伸ばして歩いた。
     
     当時付き合っていた彼氏とはお別れすることになったけど、すり合わせしながら我慢して恋愛するよりただただ大好きでいるだけの侑への恋の方が何倍も充実していた。侑のためにいくらでも努力できる自分のことも好きだった。

     この数年の恋を振り返って、本当に好きだったなあと実感する。私の人生には侑が絶対に必要だったけれど、当たり前に侑にとってはそうじゃない。侑の人生には佐久早くんがいて、佐久早くんの人生にも侑がいる。私の恋する相手は、佐久早くんのものになっちゃったわけだ。私は他人の結婚相手に恋し続けられる人間じゃなかったから、この恋は今日ここでひとり、何にもならず終わるのだ。
     
     梅サワーの少し酸っぱい冷たさがシクシク泣いていた身体に染み渡っていく。侑の好物だからと私も好きになったトロは、今日も美味しかった。お高い店だからなおさら。

     少し冷静になった気持ちでしばらく触っていなかったスマホを開く。もう一度昼間の写真を見ると、画面の向こうの侑はやっぱりとても幸せそうで。「よかったねえ」と思う気持ちと「なんで」って思う気持ちが胸の中でぐちゃぐちゃに混ざり合っていく。「おめでとう」のリプ数は昼間よりもさらに数が増えてえらいことになっている。きっと闇落ちしたオタクの呪詛の言葉もたくさん含まれているだろう。鍵垢の引リツなんか、さらに悲惨なことになっているはず。
     
    「……好きだったなあ、本当に」
     佐久早くんの隣で笑う侑に向かってそう声に出してみた。当たり前に誰にも届かない告白は、それでも私の中の恋を確かに認めてくれた。もう一度小さな声で、「好きだったよ、侑」と画面に向かって告白をする。ぼたぼたと落ちてくる水滴をそのままに、しばらくそうして数年連れ添った恋に別れを告げた。
     
     声に出して、涙を流したら、あんなに絶望していたのに心が少し軽くなった。不思議と食欲が湧いてきて、私には高価で諦めたおしながきをもう一度手に取った。
     高いと言っても、新幹線代より全然安い。これまでに払った飛行機代よりも、ホテル代よりも、プレゼントに送ったいい布代よりも全然。
     
     これから先、私はまた試合に行ったりすることはあるのかな。たぶん、もう少し経ったらコートに立つ侑が見たくてたまらなくなるんだろうな。私は侑の顔も、プレーも、バレーが大好きなところも全部好きだったから。

     でも、実際に試合に行って隣に並んでいるふたりを見たら佐久早くんとどんな話をしているのか、絶対にものすごく気になってしまうだろう。めちゃくちゃモヤモヤして途中で席を立ってしまわないだろうか、そこは少し心配。

     そして試合に行ってもたぶん、今までみたいに髪や服にめちゃくちゃなお金と時間をかけないかもしれない。クソまずい安物のプロテインバーで空腹をごまかしての万年ダイエットはもうしないだろう。普通に人並みのリアコじゃないオタクをする。

     私は呼び出しボタンを押して、思い切って特上のうな重とジョッキのビールを頼んだ。体重もニキビもむくみも気にしないで、今日は思いっきり贅沢に美味しいものを食べてしまおう。どうせ明日朝起きたらとても不細工になっているのだし、私が不細工になっていても侑には1ミリだって関係ないのだから。

     そうして好きなだけ食べて飲んで満足したら、もう一度SNSを開こう。明日でも明後日でも、その先でもいい。言えるようになったらでいい。
     そしたら、侑の「臣くんと結婚した! やったーーー!!」の浮かれポストに「よかったね、おめでとう! お幸せに」ってありったけの恋と感謝と祝福を込めてコメントを送ってやるのだ。

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    DONE侑佐久
    侑のリアコオタが侑佐久の結婚発表に失恋する話
    あなたを好きなことは私の自慢だった 昼休みに開いたSNSで推しの結婚を知った。
     
     宮侑、男子バレー全日本代表にも選出された超優秀なセッター。私の生きがいであり、支えであり、好きな人である自慢の推し。その人が今日、入籍をしたらしい。お相手はかねてよりお付き合いしていたという同じ実業団に所属する佐久早聖臣選手。
     「パートナーとしてこれから先もずっと支え合い、共に生きていきたいと思います。」
     ファンや関係者への感謝と共に綴られた短い文章を、信じられない思いで何回も読み返した。何かのドッキリであってほしいと願う気持ちを、ふたりの手書きの署名が粉々に打ち砕いていく。心臓がバクバクと鳴って、スマホを握る手に尋常じゃないほど汗が浮かぶ。

     目をつぶって深呼吸をしもう一度SNSを開けば、ふたりの結婚を驚き寿ぐネットニュースの見出しがいくつも並んでいた。おそるおそる、検索から侑のアカウントに飛ぶ。先ほど見た報告文の白い画像、そうして今、ちょうどもうひとつ新しい投稿が追加されたところであった。指が勝手に投稿された写真を押してしまう。侑が写真を投稿したら音速で拡大して見てしまうのは、もう癖なのだ。何年も何年もそうしてきたから。そして、スマホの画面に大きく映し出された推しの笑顔に今度こそ涙が出た。
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    あなたを好きなことは私の自慢だった 昼休みに開いたSNSで推しの結婚を知った。
     
     宮侑、男子バレー全日本代表にも選出された超優秀なセッター。私の生きがいであり、支えであり、好きな人である自慢の推し。その人が今日、入籍をしたらしい。お相手はかねてよりお付き合いしていたという同じ実業団に所属する佐久早聖臣選手。
     「パートナーとしてこれから先もずっと支え合い、共に生きていきたいと思います。」
     ファンや関係者への感謝と共に綴られた短い文章を、信じられない思いで何回も読み返した。何かのドッキリであってほしいと願う気持ちを、ふたりの手書きの署名が粉々に打ち砕いていく。心臓がバクバクと鳴って、スマホを握る手に尋常じゃないほど汗が浮かぶ。

     目をつぶって深呼吸をしもう一度SNSを開けば、ふたりの結婚を驚き寿ぐネットニュースの見出しがいくつも並んでいた。おそるおそる、検索から侑のアカウントに飛ぶ。先ほど見た報告文の白い画像、そうして今、ちょうどもうひとつ新しい投稿が追加されたところであった。指が勝手に投稿された写真を押してしまう。侑が写真を投稿したら音速で拡大して見てしまうのは、もう癖なのだ。何年も何年もそうしてきたから。そして、スマホの画面に大きく映し出された推しの笑顔に今度こそ涙が出た。
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