徹底管理主義 樫本理子「来週のレース、絶対に勝ちましょう
私も精一杯サポートしますから」
レース当日 私は今日も最前列を確保する。彼女の初勝利を見届けるために。全ては彼女の勝利のために。
レースは順調に進み、彼女は先頭集団の1後ろの好位置をキープしている。若干斜行している気もするが、後続と距離があるため問題は無いだろう。ラップタイムを確認するため、手元のストップウォッチへ目を落とす。
「さぁここから各ウマ娘が第4コーナー…✕✕✕✕✕転倒 ✕✕✕✕✕が転倒です」
世界から一瞬音が消えた。転倒 なぜ 彼女はどうなった観衆から発せられるざわめきの中、ただただ思考だけが高速で巡り続ける。
レースは佳境を迎えるが、熱戦を演じている馬群の中を見渡しても彼女の姿は無い。その遥か後方、そこに彼女の姿を見つけた。
観客席から飛び出す。警備員に目もくれず、無我夢中で芝の上を駆ける。息は上がり、足はもつれるが、それでも私は走り続ける。彼女のためにできることがあると信じて。
私の真横を担架を持った救急隊員が颯爽と追い抜いていく。職員が、医者が、続々と彼女の手当てのために一目散に駆けつける。私が着く頃には、彼女は既に救急車両に乗せられてこの場を去っていた。
最後に見た彼女の横顔は笑っていた。青い芝に体を預け、満点の青空を見上げ、大粒の涙を零しながら笑っていた。
「度重なるオーバーワークで疲弊していたのでしょうね…転倒はそこからくる目眩が原因かと。目立った外傷はありませんが…」
「そんなに泣かないでよ理子ちゃん私がちゃんと自己管理出来てなかった事がそもそもの原因なんだからさ、理子ちゃんが気負う必要なんて無いよ だから… ね 心配しなくていいんだ 今までありがとうね」
年甲斐もなく咽び泣く私を想い、彼女は慰めの言葉を投げかけてくれた。
自身の肩を震わせ、目に涙を浮かべながら。
私には何が出来る 担当の負担に気付けず、有事の際に駆けつけることも出来ず、挙句の果てには私のせいで夢を失った小さな少女に気を遣わせてしまった。私の目指すトレーナー像はもっと… もっと…
そうだ 私が追い求めるべき物は