七夕「ほら、今日は雨で星が見えないだろ?残念がってると思って理事長に借りてきたんだ」
そう騙るトレーナーに呼び出された一室には暗幕が張られ、私たちを包み込むように満天の星空が投影されている。デネブ、アンタレス、アルタイル……それに、ベガ。今も雲上遥か彼方に存在している星たちだ。呆気にとられた私はトレーナーに促されるまま、備えられた大きなyogiboへ体を預ける。辺りを見渡すと普段置かれていた机や賞状などは全て取り外され、暗幕の裏や別室に置かれているようだ。
素晴らしい環境に感動していたのも束の間、ドアの方から声を掛けられた。
「じゃ、あとはゆっくり楽しんでくれ。外泊許可はもう取ってあるからね。」
そう言い部屋を去るトレーナー。
私は反射的に彼を追いかけ、呼び止める。
怪訝な顔をするトレーナーの腕を掴み、先の部屋に引きずり込む。
何が私を突き動かしたのかは分からない。今日のためだけに高い投影機を買った事を詰めたかったのか?励まそうとしてくれたことに感謝したかったのか?それとも……
言葉に詰まる私を見兼ねたトレーナーは、静かにyogiboに腰を下ろした。
「ほら、アヤベも一緒に観よう。」
トレーナーは私の隣に、私はトレーナーの隣に。肩と肩が触れ合うことの無い、その距離約15cm。触れることは許されない、叶わない。
今日は七夕。織姫と彦星が出逢える唯一の日。逢うことを禁じられた2人の距離は約15光年。今日だけなら、私たちも……
「!?」
彼の肩に頭を預ける。私の耳から伝わる彼の体温は熱く、視界の端に映る彼の横顔は紅く。その熱は、色は、まるで恒星のように。
今日は七夕。ベガと✕✕✕が出逢える唯一の日。
「お邪魔しちゃ悪いし、逢うのはまた来年にしよっかな。それまで元気にしててよね、お姉ちゃん!」