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    Sata

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    Sata

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    クラ(を模したロボット)+ノス
    捏造吸血鬼注意
    超捏造です 修正・加筆予定

    序章時は1900年代後半。一人の吸血鬼が、ノースディンの屋敷に訪れてこう言った。
    「あなた、ロボットにご興味はありませんか?」
    ノースディンは眉をひそめた。
    「ロボット?」
    「ああ。耳なじみのない言葉でしたでしょうか。最近人間が発明した、自律して人間の為に動く機械・道具のことです。」
    「そのくらいは知っている。」
    「失礼しました。」
    吸血鬼は頭を下げた。その肩は降り続く小雨で濡れている。ノースディンはドアの前で腕を組んでいた。
    「何故私にロボットの話をする。」
    「それは、私の能力と関係がありまして。」
    「能力?」
    「ええ。私はどうやら、他者の記憶を元に完璧なロボットを製造できる能力が芽生えたようでして。——ええ、今の人間が作っているものより優れたものです。ロボットとは先ほども言った通り自律して働く機械の事を指しますが、私のロボットは人間以上に考え、行動することができます。またロボットは生物に形を似せて作る事もあるのですが、今の人間が作る不気味な偽物とは違い、私のロボットは本当に本物のような質感を再現することが出来るのです。」
    「何が言いたい。」
    「あなた、誰か大切な方を亡くされたことは?」
    ごうっ、と吹雪が吸血鬼を襲った。
    「その様子ですと、どうやらあるようですね。」
    「それ以上騒ぐようならこちらにも考えがあるが。」
    「私の能力でその方のロボットを作らせていただきたいのです。」
    「断る。」
    ノースディンは唸るような声で言った。同時に吹雪も激しさを増す。
    「お願いいたします。」
    雪の冷たさに身体を震わせながら、しかし相手の吸血鬼も引かない。
    「私が作れるものは命のないロボットです。姿は完璧に似せても、グールとは違い、その方の魂や身体が必要などという事は全くありません。その方の尊厳は決して、決して傷つけないと約束いたしましょう。」
    「何が目的だ。」
    「私には金が必要なのです。私にとっては膨大な、しかしあなたにとってはわずかでしかない金が。」
    「そのロボットを作る代わりに、金を寄越せということか。」
    「ええ。身も蓋もない言い方をしてしまえばそうなります。」
    吸血鬼は頭をさらに深々と下げた。
    「お願いいたします。ただ一度、あなたのためにロボットを作らせていただけないでしょうか。もちろんこのようなお願いは二度といたしません。あなたとお会いすることもないようにいたしましょう。私はただ正当な取引の下で金を手に入れたい。それ以上の目的は一切ないのです。」
    そのまま土下座でもしかねない相手を凍らせてしまうことは出来た。しかしノースディンはそうしなかった。吹雪が徐々に止んでいく。
    「一体いくらだ。」
    「!!」
    「いくらだと聞いている。」
    「あ、ありがとうございます!!」
    「まだ取引をすると言ったわけではない。」
    そうは言ったが、ノースディンの心はほとんど固まっていた。実際、相手の吸血鬼が告げた値段をノースディンはあっさり受け入れた。
    「本当に、ありがとうございます…。」
    吸血鬼は今にも泣きだしそうな勢いだったが、ノースディンは黙って見ているだけだった。自分の屋敷に招き入れるつもりもない。取引を結んでもその姿勢は変わらず、ずっと扉の前で腕組をしていた。
    (だというのに、なぜこんなことを…)
    ノースディンは自分にため息をつきたくなった。人間に対して前より態度が軟化したことは自覚しているが、他の血族に対しても同じようになっているのか。…あるいは。
    「必ず最高のロボットを作って見せます。それではまず、ロボットのモデルにされる方の名前を教えていただけますか。」
    「……クラージィ。」
    あるいは本当に、この取引に魅力を感じてしまったのか。

    ==

    翌々日。某国某所。
    ノースディンは待ち合わせの場所へ向かっていた。洋服は指定の通り今風の服——つまり吸血鬼らしくない服装で、出来るだけ地味な装いにした。大通りに面した喫茶店の前が待ち合わせ場所だった。そこにロボットを待たせているのだという。
    『他の人間にロボットと見抜かれることはないでしょう。少なくとも、一目ではそうと分からないはずです。』
    例の吸血鬼の言葉を思い出す。完璧なロボットとは言っていたが、一体どんな姿をしているのか。ノースディンの足が知らず速くなる。あともう少し。角を右に曲がれば、大通りに入る。
    靴底が擦れる音とノースディンの目が見開かれたのは同時だった。
    電灯の前に、一人の男が立っている。
    誰かを待っているらしい男は、片手に袋を提げて辺りを見回している。服装は他の人間と大して変わらない、古めかしい感じは一切しない。当然あの時の服ではない。だがその顔は彼だった。あまりにも彼だった。
    「クラージィ…。」
    男の目がノースディンを捉えた。すっと男の背筋が伸びると、
    「初めまして。…いや、あなたにとっては“久しぶり”だろうか。」
    その声はまさしくクラージィそのものだったが、ノースディンは口をはくはくと動かすことしか出来なかった。
    『初めまして』
    その言葉が思いのほか強くノースディンに衝撃を与えていた。もしノースディンの喉がまともに動いていたなら、私たちは一度会っているではないかと叫んでいたかもしれない。それほどまでに、クラージィはクラージィであった。
    「よければ場所を移さないか。」
    クラージィが口を開いた。
    「できれば人のいない、室内の方がより好ましいのだが。私について話したいことがある。」
    「…近くに私の別荘が、ある。」
    ノースディンはそれ以上何も言えなかった。

    大通りを外れて、二人は別荘に向かって歩いていた。ノースディンはちらり、ちらりとロボットの顔を伺う。もじゃもじゃの髪、険しい顔、ぴんと伸びた背筋、どこをどう見てもノースディンの知るクラージィそのものだ。考えればそれは当然の事である。例の吸血鬼は、ノースディンの知る限りの情報でロボットを作ると言ったのだから。だが、だとしても、ここまでだとはノースディンも予測していなかった。こんなに…ロボットらしさが一切ないとは。声の出し方や歩く時の自然な重心移動、さらには動いたことによるごくわずかな息の乱れまで。それは完璧に人間の様子を模倣していた。完璧なロボットだった。むしろロボットであることを疑いたくなるほどだった。
    どこかでフクロウの鳴き声が聞こえる。ここから先は森の中へ入らなければならない。森の奥深くにノースディンの別荘はあった。
    「私はあまり夜目が利かない。」
    クラージィが口を開いた。
    「誘導してくれるとありがたい。」
    「…ああ。」
    その声に心を揺さぶられながら、ノースディンは答えた。
    森の中を二人は歩いていく。後ろではクラージィの息遣いが聞こえてくる。ロボットに息は要らないはずなのに、それはやはり妙にリアルだった。
    「——もういいだろう。」
    たまらずノースディンは言った。
    「そろそろ話とやらを聞かせろ。」
    「別荘に着いてからの方がいいのではないか。」
    「こんな所で、誰が話を聞いていると?」
    クラージィは2,3秒ほど黙る。
    「確かに、付近に人間や吸血鬼、その使い魔の気配はないようだ。」
    「分かるのか?」
    「私には探知機能がある。」
    機能——その言葉にノースディンはひやりとするものを感じた。
    「それでは私について話したいと思うが、その前に、これから私が話すことであなたをいくらか傷つけるだろうことをお詫びする。」
    「なに、」
    「最初に言っておくが、私はあなたが知るクラージィではない。」
    何を当たり前のことを。そう言おうとしたノースディンだったが、何故かその言葉が耳にわんわんと鳴り響いた。聞きたくなかった…そんな感情を孕みながら。
    「私は個体名:クラージィ。あなたの知るクラージィを模して造られたロボットだ。グールとは違い、本物のクラージィの魂や肉体などは一切入っていない。偽りの器、それが私だ。」
    そう言ってクラージィは袖をまくって腕を露出させた。不思議な動きで腕をなぞると、腕の皮膚がめくれあがる。グロテスクな光景に慣れているはずのノースディンが小さく悲鳴を上げた。皮膚の下には、コードや金属のようなものが一杯に詰まっている。
    「私は人間ではない…これが、まず最初に伝えたかったことだ。」
    皮膚を元に戻し、袖を戻しながらクラージィは淡々と言った。
    「私を造ったのはあなたが一度だけ会った吸血鬼だ。便宜上ハカセと呼ぶが、ハカセからあなたに伝えたいことがいくつかある。まず、取引は成立した——ハカセがあなたから金を受け取り、私があなたのもとに来た——よって、ハカセがあなたに連絡を取る事は今後一切しないとのことだ。何度も感謝の言葉を言っていた。あなたに伝えておく。」
    「…そうか。」
    「ハカセは二度とあなたに会わない。その代わりあなたもハカセに連絡を取らない。これは取引の内容に含まれていると、私は聞いている。」
    「その通りだ。」
    これ以上関わりを持っても互いに不利益になるだけだろう。ノースディンもハカセとやらと同じ考えだった。
    「よって、一度私が破損した場合戻る事はない。」
    「は?」
    「そもそも、ハカセ自身も一度製造したロボットを修復する能力は持っていないとの事だ。製造時に多少の修復機能は搭載されているが、人間の自動修復機能とさして変わらない程度と思って欲しい。よって、重大な破損が生じた場合は機能が停止…つまり、個体名:クラージィは死を迎える。」
    「なん、」
    「ただ、重大な破損とは脳の損傷や心臓の破壊などが主になる。自動修復機能に加えて、一定量の血液を摂取することで私の修復機能は大幅に向上する。一般の人間よりは機能が停止しづらいだろう。」
    つまり人間よりは多少頑丈という事だ、とクラージィは言った。
    「そしてもう一つ、ハカセがあなたに伝えるべきだと言ったことがある。あなたの知るクラージィと私で決定的に異なる点についてだ。私は前述のとおりロボットだが、それゆえに人間や吸血鬼を傷つけることを禁止されている。ある程度の自衛行動はとるが、自衛の結果人間に傷を負わせるような行動は出来ないように造られている。例えば、私の致命的な損傷と人間の打撲・掠り傷なら、私は人間が傷を負わないように選択をする。そしてあなたの命令に逆らわないようにも出来ている。あなたの自殺を幇助するような命令は聞けないが。」
    人を傷つけない所は少しクラージィらしいな、ともノースディンは思った。
    「…しかしなぜ最初にそんな事を?」
    せっかく完璧な、本物と見紛うようなロボットだというのに、なぜ敢えてロボットだと明言するのだ。ノースディンがそう言うと、クラージィは「だからこそだ。」と言った。
    「ここで何も言わずに、あなたの知るクラージィとしてふるまう事は可能だ。今の私には見た目だけでなくあなたから手に入れたクラージィとしての記憶もある。ハカセの能力、つまり吸血鬼の能力で造られているから、あるいはあなたの知る以上の記憶もこの中にあるかもしれない。だが、だからこそ、未来であなたの知るクラージィと私の境目が無くなった時、私と彼のごくわずかな差があなたには許せなくなるだろう。あなたが私を破壊する、それ自体は何の問題もない。私はすでにあなたの所有するロボットだから、あなたが器物破損の罪に問われることはないだろう。しかしあなたが私を破壊したことや私と彼を混同させたことに絶望する可能性は排除しなくてはならない。あなたを深く傷つけることは、ハカセにとっても本意ではないからだ。出会ったばかりの今であれば、その傷は最小限で済む。」
    私はロボットだ。重ねてクラージィは言った。
    「だから私を破壊しても、あなたの知るクラージィが傷つくことは一切ない。それが私とハカセの伝えたいことだ。」
    ノースディンを見つめるその目に、ノースディンはクラージィらしさを見出す。かつて悪魔祓いとして屋敷に来た時と同じ目だ。同時に、確かにこのロボットはクラージィと違うと、そう感じた。姿かたちはどう見てもクラージィだが、記憶のクラージィに比べて硬すぎる表情が、口調が、ささやかに違和感を告げる。ロボットだと思って改めて見てみると確かにどことなく人間味が薄く、生命力に欠けている。
    これはクラージィとよく似た偽物だ。そう思った時に、ノースディンの心臓から何かの欠片が落ちたような気がした。それはハカセとやらが懸念していた心配の種だったのかもしれない。
    「どうやら、ハカセの懸念要素は排除できたようだな。」
    「なぜそう思う。」
    「私には人間や吸血鬼の感情を読み解く機能も備わっている。人間が平均的に持つそれより多少高性能なものだ。」
    クラージィが眉を寄せた。申し訳ない、という感情がごく自然に伝わるものだった。
    「私の話は、やはりあなたを傷つけた。すまない。」
    「別に構わん。…そろそろ屋敷に着く。」
    ノースディンはクラージィに見えないところで服をきつく握りしめた。
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