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    Sata

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    クラ(を模したロボット)+ノス②

    超捏造 修正・加筆予定

    「——着いたぞ。ここが私の屋敷……いや、別荘だ。」
    クラージィが顔を上げて二度瞬きをした。
    「この規模で別荘か。」
    「少々手狭だが、お前と私が身を置くのに困る事はないだろう。」
    「手狭なのか、これが。」
    クラージィはあたりを見回す。
    「まだ全貌を把握できていないが、一般的な家屋より広大な敷地だと思うが。」
    クラージィは首を傾げて、
    「これは私の認識を正した方がよいのだろうか?」
    「…いや、そのままでいい。」
    「承知した。」
    クラージィが頷くのを横目に、ノースディンがドアを開けた。クラージィを中へ促す。
    「よければ、昼に外を出歩いても構わないだろうか?別荘がどんな姿をしているか気になる。」
    「構わん。付近なら人間も寄ってこない。お前が見つかることもないだろう。」
    ノースディンはクラージィの目を見て、
    「お前は眠るのか?」
    「睡眠が必要かという意味なら、必要はない。だが眠っているように見せることは可能だ。居眠りもできる。」
    生真面目な聖職者が腕を組みながら居眠りしている所を想像して、ノースディンはふふっと笑った。
    「そうだ、お前の為にスコーンを焼こう。もう夜も遅いが、夜明け前にはきっと完成して…。」
    「私は食事ができない。」
    クラージィがノースディンの言葉を遮った。
    「ものを咀嚼し、飲み込む動作は可能だ。だがいずれ飲み込んだ食材を排出しなければならない。」
    「っ…。あぁ、そうだったな。ロボットに人間の食事など必要ないか。」
    ひきつったノースディンの表情を見て、クラージィが静かに言った。
    「あなたの心が酷く乱れている。私はあなたのことを傷つけたのだろうか。」
    「…気にするな。今のは私が悪い。」
    「そうか。」
    クラージィはノースディンの言葉をそのまま受け取ったように見えた。
    リビングに着くとノースディンは1つの椅子を指して、
    「そこに座っていろ。」
    クラージィは素直に椅子に腰掛けた。その動きにも不自然さは全く感じられない。机を挟んで反対側にノースディンも腰掛ける。
    「人間の食事は必要ない、とあなたは言っていたが。」
    クラージィが口を開いた。
    「それはある意味では正確な表現だ。私は食事をする必要がない。その代わり、動力源として人間の血液を必要とする。」
    「人間の血?」
    「ああ。月に一度、ティーカップ1杯程度で構わない。出来るだけ同じ血液型のものが好ましい。クラージィ本人と同じ血液型なら尚良い。あなたは、クラージィの血液型を知っているか。」
    「いや。」
    「そうか。残念だ。」
    少しも眉を動かさないでクラージィは言った。
    「なぜクラージィの血液型と同じ血が必要なのだ?」
    「動力としての血液にこだわりがあるわけではない。私を動かすためにはティーカップの半分以下の血液量で足りる。血液型を指定する理由はとある機能を十分に活用したいからだ。私には人間と同程度の修復機能が備わっていると言ったが、同じように出血機能も備わっている。正確には出血しているように見せかける機能だが。あなたに見せたように、実際の私には生きた血など流れていない。何らかの原因で出血を伴うケガを負った場合、私は出血をしていなければならない…これで血液の用途が伝わるだろうか。」
    「つまり、お前の血に見せかけるために、クラージィと同じ型の血が欲しいというのか?人間に血液型の違いなぞ分かりそうにもないが。」
    「出血は、擦過や裂傷だけで発生するものではない。吸血によっても起こりえるものだ。」
    ノースディンの動きがぴたりと止まった。
    「……お前が吸血される?他の血族どもに?」
    「私にはそうなった時の機能が備わっているというだけだ。私はロボットだが、預言者ではない。私が壊れるまでに吸血されない可能性も当然あり得る。」
    ノースディンは二度、机を指で叩いた。
    「今のお前にも血が流れているのか?それは何の血だ?」
    「私は製造されてすぐこちらに来た。血液の補給も行っていない。現在の私に流れている血は、ハカセの能力で造られた血…つまり、クラージィ本人と同じ血液型である可能性が高い。」
    ここで成程、とクラージィは頷いた。
    「今の私を吸血すれば、クラージィ本人の血液型が分かるかもしれない。」
    「そうだな。」
    「不必要な確認かもしれないが、あなたは味覚だけで血液型を判別できるのか?」
    「確かに要らない確認だな。」
    ノースディンは小馬鹿にしたように笑った。
    「私ほどの吸血鬼になれば、一口で分かる。——さぁ、立て。お前の血を確かめてやろう。」
    クラージィはすっと立ち上がった。その目に——当然だが——吸血に対する恐怖の感情はない。
    「首筋を出せ。」
    クラージィは襟をぐいと引っ張り、首筋を露出させた。隙間から鎖骨が顔をのぞかせている。ノースディンは喉を鳴らした。あの時のクラージィは死にかけていて、ノースディンは助けることに必死だった。他を考える余裕などなかった。彼の血の味も全く覚えていない。だが今は違う。ここは安全な場所で、クラージィを眺める余裕がある。血の味だってゆっくり味わえるだろう。今のクラージィは健康そのもので、抵抗せずにこちらに首筋を差し出してさえいる。
    だが目の前のクラージィは、ロボットなのだ…。
    「他に必要な事は?」
    固まったままのノースディンにクラージィは首を傾げた。
    「…いや、ない。」
    ノースディンはクラージィの肩に手を掛けた。襟を伸ばすクラージィの手に自分の手を重ねると、口から牙をのぞかせる。
    静かに噛みついたノースディンの喉に流れ込んできたのは温かい血の味だった。
    (…これが、クラージィの。クラージィの、味なのか…。)
    「どうだろうか。血液型は分かるだろうか?」
    噛まれながらも顔色一つ変えないクラージィに、ノースディンは小さく頷いた。宣言通り、一口ほどの吸血に留めてノースディンは首筋から顔を離した。
    「お前の血液型は分かった。これと同じ血液型のものを今度から用意しておこう。お前の血に見せかけるためなら、シングルブラッドの方がいいだろう。お前だけが飲むものを用意しておく。」
    「感謝する。」
    クラージィは礼を言ってから、続けて言った。
    「もう一つ、あなたに聞きたいことがある。」
    「なんだ。」
    「私はあなたのことをなんと呼べばいいだろうか。」
    「そんなこと、お前の頭の中に既に入っているだろう。」
    「ああ。あなたがハカセに話した内容は全て記憶されている。だが、これは改めて聞かなくてはならないのだ。」
    ノースディンは無言で話を促した。
    「私の記憶は全てあなたがハカセに語った内容が元になっている。裏を返せば、それ以外のことは入っていない。吸血鬼の能力によって補完されている部分もあるが、あなたがあの日に思い出せなかった事、意図的に言わなかったことなどは全て私が知らない事なのだ。その意味では、私はまだ不完全なロボットだと言える。ハカセと私に使い魔のようなつながりは一切ない。だからあなたが知っていること、思い出したことがあれば私に教えてほしい。私があなた以外の誰かに吹聴することはない。またあなたの知るクラージィと私とで相違があれば伝えてほしい。学習して修正しよう。」
    だから改めて、あなたをなんと呼んでいたか教えてくれないか。クラージィはそう言って次の言葉を待った。
    「クラージィは、私の事を……。」
    逡巡して、ノースディンは答えた。
    「私の事を、ノースディンと。…だが私とクラージィは互いに敵だった。だから『あなた』ではなく、『お前』としか呼ばれたことはない。」
    「そうか。」
    クラージィは0.5秒ほど黙った後で、
    「ではお前のことは、ノースディンと。」
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