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    Sata

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    クラ(を模したロボット)+ノス③
    超捏造 修正・加筆予定

    喉の渇きを覚えてノースディンは目を覚ました。頭の重さにゆっくりと身を起こす。身体が重い。こめかみの辺りがズキズキと痛む。身体が不調を訴えるのは何時ぶりだろうか。頭を押さえながら身支度を整える。
    こんな時は紅茶でも淹れて気を紛らわせた方がいい。リビングへ向かう。そこにいたものを見てノースディンは足を止めた。
    「おはよう、ノースディン。時間帯としては夜だが。」
    クラージィがいた。何故、と言いかけてノースディンは昨日の出来事を思い出す。
    そうだ。私は街でクラージィに似せたロボットを引き取った。そのままこの別荘に……。
    だが、とノースディンはもう一度クラージィを見た。昨日と服装が違う。昨日は街の人間と同じような服を着ていたはず。今のクラージィはカソックを着ていた。悪魔祓いとして出会った時と全く同じ格好だ。動揺したのはそのせいだ。まるで……あの時のクラージィが蘇ったかのように見えた。
    「クラージィ、その服は……。」
    「私が作り出された時に着ていた服だ。街をこの格好で歩き回るのはいささか目立つからと、昨日は違う服を着ていたが。私が持っていた紙袋を覚えているだろうか?あの中に入っていたのだ。」
    ノースディンはじっとクラージィを見つめた。クラージィが口を開く。
    「この服はお前にとって大切な意味合いを持つものなのか?私は“悪魔祓いの服”としか知らされていないが。私の持つ記憶の中でも、それ以上の意味はない。」
    悪魔祓いを示す服。確かにそれ以上の意味はない。ノースディンの脳裏に一つの景色がちらついた。血に塗れた土。樫の杖。カソックではなく、只のぼろを着ていた男の姿。
    「……お前は悪魔祓いだったから、その印象が強く出ただけだろう。」
    ノースディンは呟くように言った。
    「そうか。」
    クラージィは頷いた。ノースディンの言葉に疑いを持たないのは、ロボットだからだろうか。追及されずに済むのはノースディンにとってありがたかった。
    「朝食は取るのか?」
    「ああ。」
    「手伝っても構わないだろうか。」
    「…ああ。」
    「そうか、よかった。」
    無表情でクラージィは頷いて、
    「何もするなと言われたらどうしようかと思っていた。私は何をすればいい?」
    「テーブルを整えてくれればいい。もし私が何もするなと命じたら、お前は不快に思うのか?」
    「いや、思わない。お前の言う通り何もしないで立っているだけだ。私にとって、何もしないでいろという命令は、最も楽に遂行できる命令だ。だがお前が色々と動き回る中で私一人何もせず立っているだけでいるというのは、お前にとって少々ストレスが溜まるものではないかと思っただけだ。」
    「私がわざわざ自分のストレスが溜まるような命令をお前にするとでも?」
    「可能性はある。そしてそうならなかったことに私は安堵した。テーブルクロスはどこにある?」
    「必要ない。血を一杯飲むだけで終わりだ。」
    「そうか。」
    クラージィは姿勢を正して、
    「他にすることはあるか?」
    「もう無い。」
    ノースディンはボトルを開け、ワイングラスに血を注いだ。クラージィが整えたテーブルにグラスを置き、椅子に座る。優雅な動きでグラスの中身を飲み干すと、再び立ち上がった。
    「私が洗おうか。」
    「いい。この程度自分で出来る。」
    「そうか。」
    クラージィは伸ばした手をすぐに下ろした。
    「お前が寝ている間に、屋敷の外観を見てきた。」
    「ほう、どうだった?」
    「私が実際に目にした屋敷はこれが初めてだが、私の想定より大きな屋敷だと分かった。手狭というのは嘘か?」
    「嘘ではない。私にとっては小さな屋敷ということだ。もしくは謙遜だな。」
    『謙遜を嘘だと断ずるのはマナー違反だぞ』と教えたくなったが、ノースディンは言葉を呑み込んだ。もしその言葉でクラージィが素直に己を変えてしまえば、クラージィが持つ正直さを失うかもしれない。性格に関しては出来る限り口を出さないようにしようと、ノースディンは胸の内でそう決めていた。クラージィを誰かに見せる気は毛頭ないのだから、マナーなど知らずとも気にする者は誰も居ない。
    しかしクラージィ自身は、そうは思っていないようだった。
    「すまない。少々言葉が強かったようだ。お前を非難したつもりはない。」
    「気にするな。」
    ノースディンは本心を口にした。
    「きっとクラージィ本人も、同じような事を言うだろう。」
    クラージィ本人。
    目の前の彼を偽物と断ずる言葉にノースディンは躊躇う。頭では分かっていても、実際に“彼は偽物だ”と言葉にしてみると、その事実が眼前に突きつけられたような錯覚を覚えた。
    (この期に及んでまだ私は彼が偽物だと納得していないのか)
    唇を噛むノースディンに、クラージィは首を傾げた。
    「何故己の言葉に傷つく。」
    クラージィはノースディンの頬に手を当てた。クラージィの行為にノースディンは困惑したが、少しして、牙で唇を切らないようにするための配慮であることに気付いた。クラージィは、人や吸血鬼を傷つけないように出来ている。
    「お前は至極当たり前の事を言っただけだ。」
    「……何故私が傷ついているなどと思う。」
    「言ったはずだ。私には感情を読み解く機能も備わっていると。」
    だが、とクラージィは続けた。
    「お前が心を痛める理由が分からない。今の話に、お前が傷つく理由は一つもないように思っていたが。」
    「そうだろうな。」
    ノースディンはふっと笑った。
    「ロボットには、私の感情なぞ分かるまい。」
    視界がぐらつく。頭が重い。
    クラージィは表情一つ変えずに言った。
    「今の言葉にも、お前自身が傷ついている。一体何故、そんなことをする。私はロボットだ。お前の言う通り、私は偽物で、機能にも限度がある。お前の感情を完全に把握できるわけでも、感情の因果関係を完璧に把握できるわけでもない。お前の言っていることは正しい。だというのに、何故。」
    「……さあ、な。」
    そう、こいつはロボットだ。きっとクラージィなら、こんな残酷な言葉を次々と投げ込んだりはしないだろう。
    (彼をろくに知りもしないくせに、よくそんな事を思えるものだ)
    ぼんやりとノースディンは己の言葉を反芻する。彼、とは誰だ。既に亡いかの聖職者のことか、それとも目の前のロボットに対してか。
    足に力が入らない。逆らうようにぐっと足に力を込める。ぷつり、と牙に確かな感触を覚えた。
    「ノースディン。」
    吸血鬼の牙が、ロボットの指を穿っていた。ノースディンの心臓が跳ねる。
    クラージィが無表情のまま言った。
    「力を抜いてくれ。このままでは、お前の唇が切れてしまう。」
    己の指が牙に突き刺さっているのに、気にした様子は全くない。貫いた指の傷口から、血液がノースディンの喉に流れ込んだ。
    ノースディンは動けずにいた。動かないのでは無い。動けなかったのだ。脚一本どころか、指一つ動かせない。視界は白み、ドクドクと脈打つ音が頭に響く。自分が口を開いているかどうかさえ、ノースディンには分からなくなっていた。
    「ノースディン?」
    戸惑うようなロボットの声を最後に、ノースディンの意識は消し飛んだ。
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