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    Sata

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    Sata

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    クラ(を模したロボット)+ノス④
    超捏造 修正・加筆予定

    ドク……ドク……。
    自身の鼓動とは異なる音に、ノースディンは薄く目を開けた。
    「目を覚ましたか、ノースディン」
    頭の上から声がする。緩やかに頭を動かすと、大きな手に遮られた。
    「あまり動かない方がいい」
    「クラージィ……?」
    ロボットがノースディンを見下ろしていた。頭がずきりと痛む。
    「動かない方がいい」
    同じ言葉を繰り返して、ノースディンの動きを押しとどめる。それを妨げるようにノースディンが手を払った。
    「何が起きた」
    硬い声音で問いかける。泥の中から掬いだすように記憶がだんだんとよみがえってくる。私は意識を失っていたのか。ノースディンは愕然とする気持ちを内に押し込めた。
    朝から体調が悪かったのは認めよう。ロボットの心無い言葉に少々……ほんの少々ダメージを負ったことも。しかしそれだけで気を失う程軟弱になった覚えはない。認めたくない。よりにもよってこの私が。
    答えは意外にも、ロボットからもたらされた。
    「すまない。ノースディン」
    クラージィが仏頂面で言った。
    「お前が倒れたのは私のせいだ」
    「……お前のせい?どういうことだ」
    「私の血液には微量の毒が含まれていた。お前が倒れたのはそのせいだ」
    「毒?」
    ノースディンは身体を起こした。クラージィが止めようとしたが、ノースディンは首を振って拒否した。
    「なぜお前の血液に毒がある。人間の身体にそんな機能はないぞ」
    「私にも理由は分からない。敵性吸血鬼から身を守るためのものか、あるいは他の理由か。ハカセからは何も聞かなかった。私に独自に備わったものかもしれない。お前が倒れた時の様子が毒を摂取した様子に酷似していた。私の指を噛んだのを覚えているだろうか。お前が倒れる直前に摂取したのは私の血液だった。確認のため私の血をスキャンすると、私の血液に毒が含まれていたことが判明した。おそらく昨日の吸血と合わせて私の血を飲んだことで、許容量を超えたのだろう」
    クラージィはそこで表情を僅かに歪めた。
    「気付かなかったのは私の過失だ。すまなかった」

    ノースディンは今朝の自分を思い出す。身体がだるいと感じていたのは単なる体調不良ではなく、クラージィの血のせいだったというのか。

    「私の血液に含まれる毒は死に至る強さではない。例え私の中の血をすべて吸いきっても、せいぜい丸一日気絶する程度だろう。お前の身体も直に良くなるはずだ」
    そう言うとクラージィは立ち上がった。
    「少し待っていてくれ。ボトルとグラスを取ってこよう。一刻も早く治すなら、やはり血液を摂取した方がいい」
    「それなら私が、」
    「お前はここで休んでいて欲しい。どうしてもと言われれば、私に否とは言えないが」
    ノースディンは眉を寄せた。
    「グラスもボトルもどこにあるか知らないだろう」
    「お前が倒れている間に既に見つけてある。お前が許可すれば、直ぐに持ってこよう」
    このロボットはノースディンが目覚めるまで待っていた、という事だろう。その行為は、誠実と言うより従者が主人の命令を待つ行いに近い。実際まさしくその通りなのだろう。

    本物のクラージィはこんな行動をするだろうか?今も彼が生きていたとして、和解した後に彼がそばに居たとして、ノースディンが目覚めるまでただ待ち、許可が得られるまでノースディンの持ち物に触れないようにする。これはクラージィらしい行動だろうか?

    頭の中でノースディンは『違う』と答えた。
    僅かしか出会わなくとも、あの男の性格は知っている。クラージィなら、治療法を見つければ直ぐに実行するだろう。血液のボトルを見つけたなら、直ぐに蓋を開けていただろう。目の前のクラージィがそうしなかったのは、彼がロボットである事の証左であるように思えた。

    だからこそノースディンは彼に命じた。
    「グラスとボトルをここへ」
    クラージィは頷くと踵を返した。
    「待て、クラージィ」
    クラージィはぴたりと動きを止めると振り返った。
    「なんだろうか」
    「一つ聞きたい。お前の血液に含まれていた毒は何だ」
    クラージィは首をわずかに傾げた。
    「どういう意味だ?」
    「毒にも種類がある。キノコ毒やフグ毒と言った具合に。お前が持っていた毒は、」
    ノースディンは唇を湿らせてから、言った。
    「お前が持っていた毒は、トリカブトではないか?」

    黒杭を濡らす毒の花。吸血鬼どころか人間をも簡単に殺せる武器。
    クラージィが持っていたかつての武器について、ハカセに話したことはない。だが、吸血鬼の能力でつくられ、本人の記憶も持っているだろうクラージィなら、もしや。

    「いや、違う。なぜそのような事を?」
    クラージィの言い方は、あっさりしたものだった。
    「……そうか」
    ものがつかえたように喉が動かない。それでも無理に動かしたせいで、ノースディンの喉の奥がぴりりと痺れた。
    ノースディンは手を振って退室を促す。クラージィは一つ頷くと部屋を出た。
    ロボットが目の前からいなくなると、ノースディンは深く息を吐いた。気を抜いたところで、ようやく自分がいる場所を確認する。ノースディンはリビングのソファに寝かされていた。倒れた場所と同じ部屋だった。寝室に連れていくことはしなかったらしい。血液のボトルと同じ理屈で、勝手に部屋に入る行為を良しとしなかったのだろう。ソファに寝かされていたにも関わらず身体がさほど痛くないところを見ると、気絶していた時間はそこまで長くなかったらしい。ノースディンは身体を動かして自分の状態を確認した。まだ本調子ではないが、クラージィの言った通り、長引くような不調ではなさそうだ。血液を摂取すれば瞬く間に回復するだろう。ノースディンはソファに身を落ち着けた。
    人や高等吸血鬼なら緊急時に柔軟な対応も出来るだろうが、機械には難しいらしい。クラージィにはどの部屋も好きに入って良いと伝えた方が良いだろうか。どうせ彼に見られても困る事は何一つないようにも思える。

    ノースディンは彼と本物との違いを一つ理解した。彼には思考があっても思想や信条はないのだ。

    考えている内にノースディンの瞼は重くなっていった。やはり疲れているのだろうか。きっと疲れているのは身体だけではない。
    ノースディンは再び目を閉じた。
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