なんやかんやでクリスマス・その1。コキとワカバとスオウの場合
数年前のこと。
「クリスマスって何」
「は?」
めっきり寒さが厳しくなってきたアーモロードの街中、日が傾き始める時間が早くなり寒さになれていない人々が帰路につく足が自然と早くなる、そんな季節。
街道にある街頭の足元に折りたたみ式テーブルを広げ、寒さに負けず占い屋を開いているゾディアックの女性スオウは、店を開いたと同時に声をかけてきたシノビの女にそれはそれは非常に呆れた顔を向けるのでした。
相手に呆れられているなど気にせずにシノビの女、コキは話を続けます。
「最近、街のみんながクリスマスクリスマスーって言い出してるでしょ? 何のことかちょっと分からなくて……」
「ああ、アンタクリスマス文化のない東国出身だったわね。そりゃ知らないか」
「そなの」
西洋の文化どころか魔物すら出没しない国出身のシノビは頷きました。
「現状、街の人の話を聞いた感じだと……木にガラス玉や星やフワッとした物体を飾り付けて足元に箱を置いて鳥の丸焼きを食べながら三田とか言う老人を呼ぶ儀式を行うって雰囲気のイベント……だと思っているけど合ってる?」
「定番の知識だけ吸収してまとめただけでそんなトンチキ儀式になる?」
「えっ違う!?」
コキ驚愕、何を思って今の情報を信じていたのか問いただしたくなりました。
面倒なので尋ねたりはしません。スオウは腕を組んで、
「所々合ってはいるけど混ぜ合わせが違うわ。そもそも前提も違うし」
「前提……」
「まず、クリスマスっていうのは西洋の神様の生誕祭」
「神様!?」
想像もしてなかった単語が飛び出したことでコキの口からつい驚愕の声が溢れ出します。それなりの声量でした。
「か、神様……かあ、だから始まる前からしっかり準備して盛大にお祝いをするってことね」
「昨今だと神様の誕生日関係なく、とりあえず飾り付けをしてパーティしてプレゼント配って〜っていうイベントを重視する感じになってるから、本来の意味は忘れられがちになっているけどね」
「プレゼント?」
「そうよ。クリスマスにはサンタっていう老人を姿をした妖精が子供にプレゼントを配る伝説が信じられているわ」
「老人の姿をした妖精……」
ぽつりとぼやいたコキの脳裏には背中に蝶の羽が生えた全裸の老人が数匹浮遊している光景が映し出されており、とてつもなく不気味な光景と化していました。よって自然と顔が引きつります。
「うわ……」
「何を考えているか知らないけど所詮は伝説よ。昨今は親がこっそりプレゼントを用意して純粋な子供にサンタの存在を信じ込ませるイベントになっているから」
「あっ、要はイベントなのね? 子供のための」
「そーよ。後はクリスマスツリーを用意して普通の誕生日みたいにケーキやチキンでパーティをする感じかしら」
なんて言い切ったスオウですがコキは何度も首を傾げるばかりで、
「ええと、普通の、誕生日? ケーキ? 誕生日ってケーキを食べるの? 鳥も?」
目を白黒させながら尋ねるものですからスオウは額を抑えます。
「アンタはそっからか……文化の違いねえ」
「ご、ごめん……」
「アンタはそろそろこっちの文化にちゃんと馴染みなさいよ。ほら、暇だしクリスマスの参考書ぐらい奢ってあげるからそれで勉強しなさい。そしてアタシに商売をさせなさい」
「ホント!? 助かる! クリスマスってイベントをワカバにしてあげたくても詳細が分からないとどうしようもないから……!」
ぽつりと漏らした本来の目的。どうせワカバ絡みだろうと思っていたスオウはため息を吐いたのでした。
折りたたみ式のテーブルと椅子を片付け、足取り軽く向かった先はアーモロードの商店街に店を構える本屋です。アーモロード市民だけでなく冒険者や国外から訪れた観光客もよく訪れる人気店。文具屋さんも併用しているとか。
コキに店の外で待っているように言ったスオウは店の中に入って行き、数分経ってすぐに戻ってきました。
荷物を持っていない左手に紙袋を抱えて。
「はいこれ。ちゃんと読めばクリスマスのことが大体分かるわよ」
「ありがとう! 異文化の分からないことは人に聞いてみるものね〜」
喜んで紙袋を受け取り、早速中に収まっている本を取り出します。思ったより軽い本です。
袋の口から躍り出たタイトルは「あわてんぼうのサンタクロース」
幼児が親に読んでもらうタイプの可愛らしい絵本でした。
「………………」
絵本を渡された時は「この女どうしてやろうか」と静かな怒りを腹の中から発生させたコキでしたが、一旦落ち着いてから本に目を通して見れば彼女の言う通り、クリスマスのことが詳しく分かりやすく描かれていました。
挿絵でクリスマスパーティの雰囲気は伝わりますしサンタと呼ばれる妖精についても理解を深めることができます。絵本のタイトル通り慌てん坊なこの妖精はうっかりしすぎて大惨事を引き起こしていましたが、さておき。
「ケーキとかチキンがいるのかあ……あんまり貯蓄がないから用意できるか微妙ねえ……鳥はもうビックビルでも焼いて代用してもいいかもしれないわね。でもケーキ、ケーキはどうしたものかしら……」
探索終わり、素材を売り払い必要な薬品を買い揃えた後の宿へ帰路の途中、コキはぶつぶつと独り言を続けていました。
「ケーキ?」
美味しそうな単語を聞き、探索必需品の入った紙袋を抱えたワカバは足を止めて振り向きました。期待に満ちた瞳を宝石のように輝かせるのも忘れません。
少女に合わせて止まったコキはニッコリ笑って。
「ええ、クリスマスはどうしよっかなって思ってね?」
「クリスマスするの?」
「したいなーって思ってる。私の故郷にはクリスマスって風習がなかったから、一度どんなモノか経験してみたいのよ、もちろんワカバと」
「おお〜」
関心するような声を出したワカバは次に大きく頷いて、
「わたしも、クリスマスしたい」
「じゃあしっかり準備しなきゃね」
「さむいけど、がんばる」
そんな決意表明をしてくれますが、具体的に何を頑張るつもりなのかコキには検討が付きませんし何を頑張らせるべきなのかも分かりません。未経験者の辛いところです。
考えている間にもワカバの鼻から鼻水がたらりと。
「寒いわよねこの時期、ワカバは暖かい服って持ってないの?」
と言いつつハンカチで鼻水を拭いてあげます。通りすがりのアモロ住民が「母子だ……」とぼやいていました。
「ない、さむくてもへーき。コキは?」
「寒さぐらい耐えきれないと一人前のシノビにはなれないのよ」
「すごい」
純粋な瞳で感動しているワカバには言えません。実はとても我慢しているということに。そろそろ暖かい服装を見繕いたいなと思っていることを。
本音は隠して歩き出します。ワカバをさっさと追い越せば彼女はその後に続きます。
「ワカバって私と出会う前まではクリスマスをどう過ごしてたの?」
「いつもおわってる」
淡々と返えされ、一瞬だけ言葉が止まります。
「……樹海に潜っている間にクリスマスが終わっていたのね」
「うん」
大きく頷いて肯定され、コキの中で決意が生まれます。絶対にワカバと一緒にクリスマスを楽しむという決意が。
「じゃあ今年はちゃんとクリスマスしなきゃいけないわね。ビックビルを狩って鳥の丸焼きでも作りましょ」
「わかった、うもうはぐの、とくい」
「それは頼もしい」
会話を続けながらもコキはふと考えます。ワカバはクリスマスプレゼントをもらっていたのかと。
子供だけがもらえる特別なプレゼント、サンタではなく親がサンタの代理として子供に送る年に一度のサプライズ。
今はともかく幼少期はどうだったのか、もしも覚えているなら参考にしたいと少し気になったので、
「そういやワカバ、クリスマスプレゼントって」
ふと足を止めるとすぐ横にいるはずのワカバがいないではありませんか。
「あれっ!?」
驚愕して立ち止まります。すぐさま右を見て左を見て正面を見て、後ろ見て、
すぐ後ろにある玩具屋のショーウィンドウ前で立ち止まるワカバを見つけました。
「ワカバ? ワカバ? どうしたの?」
慌てて駆け寄りますがワカバの視線はショーウィンドウの向こうに釘付けです。一言も喋らずガラスの向こうを覗き込んでいました。
静かに動揺しつつもワカバの視線の先にあるものを確認します。
「ええ……っ? 食べ物じゃ、ない……?」
視線の先にある物、それは円球のガラスの中に収まっている小さな模型です。
雪が降り積もった家に登るサンタクロース、その家の横にはソリを引くトナカイがいてクリスマスの光景を可愛らしく表現していました。
「……」
ワカバはそれを凝視したまま瞬きもせず、凍りついたように動かなくなっていました。ただし瞳を輝かせたまま。
「それ、欲しいの?」
コキが問いかけ、ワカバは頷きました。
「食べ物じゃないわよ? 分かってる?」
ワカバは頷きました。
「口に入れてもダメな物だっていうのも、分かってる?」
ワカバは頷きました。
ただし一向に返答は無く模型を眺め続けているだけ。
食に関してもそれ以外に関しても欲しい物はすぐに「欲しい」とハッキリ言う彼女にしては珍しい行動だと、コキは思いつつ、
「うー……ん、と」
わざとらしく考え、玩具屋に入っていきました。
置いて行かれたことも気にせずワカバはずっと模型を見ています。通りすがりの子供に指をさされても知りません。
玩具屋の中から「ギャッ」と悲鳴が漏れ出したような気がしましたが、構うこともなく。
数分経って灰色の空から小粒の雪が降り始めた頃、玩具屋のドアに着いた鈴の綺麗な音が響き、コキは店から出てきました。
「…………」
ちょっと浮かない顔でした。
「……ええと、ワカバ」
「……」
やはりワカバは答えません。
コキはそこを咎めず、ワカバとショーウィンドウの間にプレゼントの箱を割り込ませて彼女の視界に無理矢理引き入れました。
「う?」
「これ、クリスマスプレゼント」
「くりすますぷれぜんと!?」
相当驚いたのか珍しく大声を上げて首を振り、若干引き攣った顔をしているコキを見ました。
「そうよ、ちょっと早いけど……」
「いいの? いいの?」
「いいのよ。さあ、それを持って早く帰りましょ。開けるのは部屋に戻ってからね?」
「わかった!」
大きな声で返し頷いた少女の瞳はいつも以上に輝いているように見えたコキでした。
そして、現在。
「で、買ったのがあのスノードームってわけ」
「へぇ」
話を終えたコキに対し非常に興味なさそうに返したスオウは小さく欠伸をしたのでした。
夜も更け、クリスマスパーティが終わった宿の共有スペースは、数十分前では想像もできなかった静けさと落ち着きを取り戻していました。
テーブル席で対面するように座っているコキとスオウはチラリと、コキの横にいるワカバを見やります。
豆菓子に手を付けず、テーブルの上に両腕を組んで置いて顎を乗せ、スノードームを満足げに眺め続けているのです。食欲旺盛な彼女が食べ物を無視しているという極めて珍しい状況です。
「クリスマスの時期はいつもそうね、アンタが食べ物以外に興味を持つのって」
「うん」
嫌味にも聞こえる口調で言ったスオウの言葉に軽く返答しただけでワカバはスノードームから目を離しません。
コキが続けて、
「ちゃんと聞いたことなかったけど、どうしてあの時にスノードームを欲しがったの? 中の模型だって食べ物でもないのに」
「これを見てると、なつかしくて楽しくなる」
淡々と答えコキが首を傾げました。でも言及はしないでおきました。
代わりに質問を続けたのがスオウで、左腕で頬杖をつくと豆菓子を口の中に放り込みます。
「何それ、食料分けてもらった思い出でもあるの?」
「ちがうけど、楽しいよ」
目の前で食べ物が頬張られてもスノードームを眺め続けます。
とても幸せな光景が目の前で広がっているような、そんな表情で。
「りーだー、これなあに?」
「これか? こりゃあスノードームっつーオモチャだよ。あの半円の中に水と白い砂みたいなのが入っててな、振ると雪みてぇに舞うんだ」
「ゆきってなに?」
「そっから? 空から雨じゃなくって白くてふわふわしたモノが落ちてくるんだよ」
「みたいみたい!」
「もうちょいしたらアモロにも降るだろうし、そしたらスノードームと見比べてみな」
「わかった! でも、りーだー」
「どした?」
「すのーどーむとみくらべるってどうやって? だってすのーどーむ、おみせだよ?」
「ええっと……それは……」
「う?」
「…………すまんワカバ、見比べるのは来年にしてくれ。今月ピンチなんだわ」
「むだづかい!」
「うるせぇ!」
・その2、クレナイとカヤの場合
日々の寒さが厳しさの一途を辿る今日はそう、クリスマス当日の朝。
アーモロードの街は所々がクリスマスに彩ろられ、冒険者たちだけでなくアーモロードの住民の憩いの場にもなっている広場には大きなツリーまで飾られていました。
特別かつ記念すべき日にクレナイは自室で高らかに叫びます。
「今日は待ちに待ったクリスマス! クリスマスと言えばそう! 恋人たちの祭典ですわ!」
「イエーイ!」
「いえーい」
横から酒の席のような合いの手を入れるのはサクラと、彼女の頭を定位置とするお化けドリアンことどりぴです。サクラの手にはメモ用紙が握られていました。
「マギニアにいた頃は色々あってお祝いができませんでしたが、今年こそはカヤちゃんとのクリスマスデートと洒落込みますわ〜」
「イエーイ! かやぴとデート!」
全く関係がありませんが楽しそうなことは全力で乗っかる精神の持ち主であるサクラは両手を振ってノリノリです。今にも踊り出しそう。
「でーと、いえーい」
彼女の頭の上のどりぴも言葉の意味とサクラのテンションを汲み取り小さい手を一生懸命に振り、盛り上げていました。
ひとしきり騒いだ後、サクラは両手を下ろして一息つきまして。
「ふぃ〜、しっかし今日のくれっちはテンションたけーなー」
「当たり前ですわ。クリスマスにデートという経験に夢見てましたもの! 街に彩られた幻想的なイルミネーションをバックに恋人同士の甘い時間を過ごすだなんて……ああ、想像しただけでも胸が高鳴りますわ……」
両手を合わせて天井を見上げ、カヤと過ごすクリスマスの光景を頭の中で思い浮かべます。そして自然と顔が綻びうっとり。ヨダレも忘れてはいけません。
「ほえー」
サクラは関心したように声を出し、
「ウチってクリスマスはご馳走と掻き入れ時っちゅー印象しかなかったからくれっちみたいなタイプってなんか新鮮かも〜」
「かきいれ?」
頭上のどりぴが不思議そうに声を出すとサクラはすぐさま答えてくれます。
「ウチって商人の家だからな。イベントごとになるとみーんな浮かれて財布の紐が緩くなりがちなんだよ、そこを狙って商売すればいつもの二倍三倍は稼げるってもんっしょ」
「ぼくまものだけどはじめてきいた」
どりぴが納得すると同時にクレナイの夢語りは佳境へ入ります。
「そして! デートの最後にはカヤちゃんと二人きりで聖なる夜を性なる夜として過ごしますのよ! そして待っているのは……ふふ、ふふふふふふふ」
怪しげな笑みと涎を出してもサクラは笑顔です。
「くれっちは今日もぜっこーちょー!」
「せんしんてぃぶ」
どりぴがハッキリと断言すると部屋のドアが静かに開いて、
「いたいた。皆さん揃って何をしているんですか?」
顔を出したのはカヤでした。いつもの私服姿、今日は寒いので厚手のシャツに厚手のズボンと冬装備。
ドアの音と同時に振り返ったサクラは軽く手を上げて
「かやぴやっほー、ちょいとくれっちに用事があってお邪魔してたところなんだー。ウチに用事?」
「いえ、用があるのはクレナイさんですよ」
「えっワタクシ!?」
夢から戻ってきたクレナイがすぐさまカヤを見ます、ただし涎は出たまま。
「そうです。ちょっと付き合ってもらいたくって……というかどうしたんですかその涎」
「なんでもありませんわ!」
大きな声で返してからハンカチで涎を拭いてはしたない姿とはおさらばです。いつもはしたないだろうというツッコミは受け付けませんのであしからず。
「し、しかしっ、つ、つつ、付き合うとは!? まさかのカヤちゃんからのお誘いですの!? そんなっ……ワタクシ、興奮と感動のあまり何をするかわかりませんわよ!?」
「まだ日は高いぞくれっち!」
友であり仲間が早まる姿を見てサクラは心配そうに声を上げます。どりぴは黙ったままでした。
会話の意図が読めずに首を傾げるカヤは違和感には言及せず「よくわかりませんが……」と前置きをして、
「日が高いから今の内に済ませるんですよ。こういうものは早くに済ませることに越したことはありませんから」
「かやぴってば意外とダイタン……早くってことはそーぢゃん、ラストまで一直線ぢゃん」
「はい? いやあの、できればサクラさんもと思ったのですが……」
「ウチも!? いやウチは場違いっつーかダメぢゃん?! ちゅーかこれからお菓子作るから暇じゃねーし!?」
「それは残念」
「残念!?」
ギョッとするサクラの横を通り、カヤはクレナイの前で手を差し伸べます。
「クレナイさんは時間があるでしょう? だから少し……お願いします」
「もちろん!!」
クレナイは即決で手を取りました。欲に対して正直な女です。
「でも、サクラちゃんまで誘おうとしたのは驚きましたわ。カヤちゃんってばいつから複数を囲う野望が芽生えていましたの? 複雑かと問われたらそうですがカヤちゃんの一番はワタクシという絶対的な自信はありますので些細な問題に過ぎませんわね。これを期にワタクシももっと大胆に……」
「クレナイさんが今以上に大胆になられると私の生活の全てにおいて多大な被害が出るのでやめてください。とにかく、時間はあまりないんですから早く行きますよ」
「はえっ? そんなに慌てなくてもクリスマスは逃げませんわよ?」
「クリスマスは今日しかないんですから急ぐ理由になりますよ。急いでください」
「そ、そんなまだワタクシは心の準備が……どのような物事にも順序がありますからまずはそれを守って……」
「準備はこれから始まるんですよ! クリスマスの準備を!」
刹那、カヤを除く全員の頭に疑問符が浮かび上がりましたが誰一人として疑問を言葉にできないまま、カヤはクレナイの手を引きアーモロードの街に出かけて行きました。
そう、今夜アーマンの宿で開かれるクリスマスパーティの準備をするために。
「必要な物のリストはまとめていますから手早く買って手早く終わらせてしまいましょう。料理の材料は揃っていると伺ったので後は軽くつまめる軽食やお菓子ですね。追加のお酒もあります」
「え、あ、はい」
「ツリーの飾りも買い足して欲しいとのことだったので玩具屋で見繕いましょうか」
「あっはい、あの、ええと」
「おっと、ちょっとした装飾品も足りてないんだった……メモに追加しておきますけどクレナイさんも覚えていてくださいね」
「は、はい、その」
「じゃあ行きましょうか」
「……はい、行きます行きますわ」
こうして買い出しは始まりました。
まずは雑貨屋に入って。
「このロウソクだと予算がオーバーしそうですね……代用品を使うしかなさそうです」
「……」
次に酒屋に入って。
「シャンパンはこれとこれとこれをお願いします。はい、パーティ用でして……あれ、これは頼んでませんよ? おまけなんですか!? ありがとうございます!」
「……」
さらに玩具屋に入って。
「星の飾りだけ売り切れている……」
「……」
最後にお菓子屋さんを訪れ。
「マシュマロかシナモン風味のクッキーか……うーむどちらがいいのか……クレナイさんはどうですか?」
「……どっちでも」
「え?」
いつもよりも低い声色で返したクレナイに疑問を抱きつつもお買い物タイムは終了。
リストを全て消化しアーマンの宿に戻ってきたのは午前と午後の境目のような時間帯。つまりはお昼。
宿に帰り購入した物を宿屋の少年に渡すカヤには目もくれず、クレナイは重い足取りで宿の奥へと入っていき、
「…………デート……」
一階の廊下の隅に座り込んでしまいました。朝に見た生き生きとした彼女の姿は既にありません。
こうなってしまった時、キャンバス内で真っ先に行動に移る人物は決まっていまして。
「かやぴは最低だああああああああああああああ!!」
サクラの怒声が宿の玄関前に響き渡ります。クレナイが落ち込んでからまだ五分も経っていません。
「さいてー」
ついでにどりぴもサクラの頭上から抗議の言葉をぶつけるのでした。
「はいっ?」
宿の少年との会話を強制終了させられたカヤはサクラに腕を引っ張られ、クレナイの元に連れてこられたのでした。
「……え、えええ……?」
廊下の隅の少し薄暗い場所で落ち込むクレナイに困惑していると、すぐさまサクラから追加攻撃。
「くれっちはな! かやぴとクリスマスデートするのをとってもとっても楽しみにしてたんだぞぉ! 年に一度の特別な日にしたがってたんだ! なのにかやぴはデートじゃなくってただの買い出しにくれっちを連れ出して燃えたぎる乙女心に泥水をぶっかけたんだ! 慈悲の擬人化の異名を持つウチでも堪忍袋の尾が切れるっちゅーもんだし!」
「ぼくまものだけどそうおもう」
「え、え、ええっ!? サクラさ」
「言い訳なんて聞かないもんねー! くれっち可哀想! マジガチで可哀想! かやぴがここまでひどーな女だったなんてウチは思ってなかった! なかったんだい!」
「ぼくまものだけどそうおもう」
腕を組んで頬を膨らませ、クレナイの代わりに怒るサクラは勢いよくそっぽを向いてしまい目も合わせなくなってしまいました。黒い生地にドラゴンのイラストが載ってあるエプロンが動きに合わせて揺れていました。
そんなサクラとどりぴ、そしてクレナイを交互に見たカヤは困ったように頬をかき、
「その、クリスマスにクレナイさんと過ごしたいから急いでいたんですけど……」
と、言えばサクラから怒りの表情は綺麗さっぱり吹き飛びまして。
「……おん?」
カヤを二度見、どりぴもキョトンとしています。
「今朝、宿の子に買い出しを頼まれたんです。いつもお世話になっている方の頼みを断るワケにもいきませんから引き受けました。でも、クレナイさんはクリスマスにデートすることを楽しみにしていましたから、手早く終わらせられるように立ち回ろうと思いまして」
「……だから、くれっちと一緒に、お買い物……」
「ぼくまものだけどなっとく」
「言っておきますけど、クレナイさんを買い出しに連れ回したことを“デート”として扱うほど鈍い人間ではありませんよ。クレナイさん以外の方と交際経験がない私でもそれぐらい分かります」
「ご、ごめんかやぴ」
「ごめんね」
「いえいえ」
サクラとどりぴの謝罪に首を振って答えます。
「説明が足りてなかった私の落ち度は当然ありますから」
カヤは一人と一匹から視線を外すと、廊下の隅で拗ねたままのクレナイの前まで歩み寄ります。
彼女の前で足を止めて腰を下ろし。
「ということですクレナイさん。言葉が足りなくて、すみません」
もう一度手を差し伸べました。
「……デート、してくれますの?」
俯いたままのクレナイが久しぶりに声を出します。
「はい。元からそのつもりですよ。一ヶ月も前からクリスマスデートがどうこう言ってたのはクレナイさんでしょう? 忘れるわけがありません」
「……これから?」
「はい」
するとクレナイは顔を上げ、カヤの手を取らずに抱きつきました。
少しだけ勢いを付けたためカヤは軽くよろめきつつも彼女を抱き止めます。
「うわっと!? ちょっと、クレナイさん」
人前で密着するのははしたないと嗜める前に、
「嬉しい……」
彼女の口からこぼれた短い言葉は、カヤの耳に届きます。
心の底から溢れ出てくる喜びを噛み締めているような、幸せに満ちた声でした。
「……すみません、誤解をさせてしまって」
抱きついたままのクレナイの頭を撫で、謝罪します。
「カヤちゃんが不器用なのは誰よりも知っていますわ。そこが可愛らしくもありますから」
「そうですね……さあ、行きましょうか」
「はい! 後は聖なる夜を性なる夜にするだけですわね!」
「しません。夜のパーティまでには宿に戻るんですからそんなことする暇もありませんよ」
「頑張れば時間ぐらい作れると思いますの」
「諦めるという単語がないのは美徳に聞こえますけど絶対に実行しないでください迷惑ですから」
「えー」
不満で子供みたいに頬を膨らますクレナイに安心感を抱きつつ、カヤはクレナイから手を離すと立ち上がります。クレナイも一緒に。
そして、サクラの横を通り過ぎようとして、
「……かやぴ!」
呼び止められ振り向きます。
「どうしましたか?」
真剣な眼差しのサクラに首を傾げた次の瞬間、
「クリスマスに浮かれて街で盛るような真似だけはするなよ!!」
「しませんよクレナイさんじゃないんですから!!」
有難迷惑な忠告を今年一番の怒声で返したのでした。
「ワタクシって晩年発情期だと思われてますの!? どりぴちゃんはどう思います!?」
「ぼくまものだけど“うん”っていう」
「うん……」
・その3、サクラとどりぴの場合
カヤとクレナイがデートに出かけたその直後。
アーマンの宿、キッチンの片隅にサクラとどりぴはいました。
「おーしっ! かやぴとくれっちのデートも見届けたことだし、今夜のクリスマスパーティが始まるまでにクッキーを作るぞどりぴ!」
「ぼくまものだけどくっきーつくる」
高らかに雄叫びをあげて気合十分。どりぴもクッキーの型を持ち上げやる気を露わにしています。
「作り方はくれっちに教えてもらった! 材料も十分すぎるぐらいにある! クッキーの形も決めてる! 失敗する要素はゼロ! やれる! やれるぞ!」
サクラの手にはメモ用紙。今朝、クレナイに教わった美味しいクッキーの作り方に材料や必要グラム数、オーブンの温度まで事細かく記されています。
「どりぴ型のクッキーを作るから楽しみに待っててくれよな!」
「ぼくまものだけどわくわく」
同じキッチンで宿の少年を含めた従業員たちクリスマスの準備が慌ただしく進められている中、一人と一匹による初めての挑戦が今、始まります。
そして数時間後。
オーブンから取り出しテーブルにお盆ごと乗せられたクッキーは全て、墨汁に浸したように真っ黒に染まっていました。
「…………どうして」
サクラ、悲惨な状況に顔を覆うことしかできません。現実を直視したくないレベルで落ち込んでいました。
どりぴは何も言わず、焼きたてほやほやのクッキーの一つを持ち上げます。ドリアン故に堅い甲皮を持っているお陰か熱には強い様子。
「どりぴ型」として作られたトゲトゲ形のクッキーを見て、
「うに」
とだけ言いました。慰めなのか率直な感想かはよくわかりません。
「ウニ……」
淡々とした感想に釣られてサクラは指と指の間から現実を、うにと称されたクッキーを直視しました。見事なウニでした。
「ウニだ……」
「なんか焦げ臭くね〜? 誰かミスった?」
直後、キッチンに入ってくる緊張感のない呑気な声。
酒瓶を片手に堂々と現れたキャンバスイチの問題児、元海賊のベニトウです。頬はやや赤いのでほぼ出来上がっています。
キッチンにいた人たちの顔が引きつりますがサクラだけは異なり、
「べにちゃそぉ〜」
半泣きになって何かを訴えるように彼女を見るのでした。
「どうしたどうした? 暇だから話ぐらい聞くぞ? 酒くれたらだけどよ」
「聞いてぇ……クッキー作ってミスったぁ……」
「はぁん?」
そしてテーブルの上にあるできたてのクッキーを見て状況を全て悟ります。
「お前が焦がしたのか! いやー派手にやってんじゃねーか、わはは!」
「うに」
「ホントだウニだなこれ」
と言いつつどりぴが持っていたクッキーを許可も得ないまま口に入れました。出来立て熱々でもお構いなしです。
「あはは! 中までしっかし焦がしてやらあウケる〜てことで酒くれ。大事にとってた一本がとうとうなくなっちまってさあ」
片手に持った酒瓶を振りますが、
「どりぴ型のクッキーを作ってたのにウニになっちまったんだ……せっかく徹夜で可愛い感じのイラスト作ったのに……」
サクラは聞いちゃくれません。どりぴは黙ってテーブルに置きっぱなしになっていたスケッチブックを指します。現実ではおいしいクッキーになる予定だったカラフルで可愛いイラストを。
ベニトウはテーブルに酒瓶を置いてからスケッチブックを持ち上げて、
「ドリアンの分際で可愛くなってるじゃねーか。園児以下レベルのかやぴの落書きとは大違いだなあ」
すぐに元の場所に戻しました。
「なんでこんなに焦げちまったんだろ……隠し味がよくなかったのかなあ」
「クッキーの隠し味って何だよ?」
「どりぴの体液」
「せめてドリアンの果汁って言おうぜ?」
通りすがりの少年が驚愕して二度見しましたが誰も気付いてなかったとか。
「ぼくまものだけどかじゅう?」
「そこ疑問なんだな、フルーツの魔物じゃねーかお前」
「そうだった」
どりぴ納得。そして、焦げたクッキーたちをじっと見ます。
「……」
「つーかこの大量のこげこげクッキーどうすんだよ?」
「生地は全部使っちまったしもう捨てるしかないんだよぉ、今から新しく作る時間もないしさあ」
「勿体無いけどしょーがねーか。まっ! 焦げちまったもんは仕方ねーよ、切り替えてオレに酒を奢れ」
「リーダーに“ベニトウには絶対に金を貸すな酒を与えるな”って言いつけられてるからダメ」
「どーりで酒くれ発言が全部スルーされてると思った! もう手が回ってやがったか畜生!」
悔しそうにテーブルを殴ったベニトウが次に目についたのはどりぴ、しかもデコレーション用に黄色く着色されたチョコレートが入ったペンを使い、焦げたクッキーに塗っているではありませんか。
「何やってんだお前、勿体ねえことしやがって」
「どりぴそれ食えないからヤメだヤメ」
軽く嗜めたサクラがどりぴを持ち上げ作業を強制終了させますが、どりぴはチョコレートペンを持ったまま足をじたばたさせて抗議。
「やー」
「おっとどしたん? どりぴが珍しく聞き分けが悪ぃ」
「おほしさまつくってかざる」
「ほえ?」
首を傾げた隙を付いてどりぴはサクラの手から抜け出し、テーブルの上に着地。
「おほしさまないからつくってかざる」
「お星様ぁ?」
怪訝な顔をするベニトウですがサクラはぽんと手を叩いて、
「そっかそっか! ツリーに飾る用の星のオブジェが無かったってかやぴたちが言ってたもんな! だからこの捨てるしかないクッキーで代用するってことか!」
「へぇ〜、確かにこのトゲトゲっぽいのは星に見えなくもねーか」
「うん」
どりぴが頷き、サクラはニッコリ笑います。クッキーを焦がした時の悲しげな表情はもうすっかりなくなっていました。
「んじゃ頑張ってデコって宿の入り口にあるツリーに飾ってやろう! ただ捨てるよりも何倍もいいもんな!」
「ぼくまものだけどそうおもう」
「でもデコる時はクッキーが冷めてからだぞどりぴ、熱いうちにやっちゃうとせっかくデコったチョコが溶けちまうんだ」
そう言ったサクラが指したのはさっきどりぴがデコレーションしていたクッキーです。上に載せられた黄色のチョコレートが溶けてドロドロになってしまっていました。
「ぼくまものだけどしらなかった」
「知らなかったならしょーがないなっ、じゃあこれ移し替えてからどんなデコにするか考えよーな!」
「ぼくまものだけどかんがえる」
談笑しながらもサクラは出来立てのクッキーを普通の皿に移し替えてから、テーブルの上に置きっぱなしだったスケッチブックを手に取ります。
「じゃあ部屋で作戦会議だー!」
「おー」
そしてキッチンを飛び出す二人。
ベニトウを完全に放置して。
「…………」
十分後、サクラはどりぴを頭に乗せてキッチンに戻ってきました。
「べにちゃそ見て見て〜! すっげーパネェばりキャワワなやつ考えてきた!」
「きゃわわわ」
スケッチブックに描いたデザインを見せびらかした刹那、
「あっ」
「う?」
食べかけの焦げたクッキーを持ち、頬に食べカスを貼り付けたベニトウとワカバを視界に収めてしまったのでした。
「………………」
「なるほど……だからベニトウさんとワカバさんが玄関前で野晒しになっていたんですね」
「クリスマスの習慣的なモノにしては物騒だと思いましたわ」
日が落ちて、夜。
ここは玄関をくぐったすぐ先にある宿の共有スペース。椅子とテーブルと受付カウンターがあり、この宿を利用する冒険者たちの憩いのスペースになっており、今日は宿を上げて行うクリスマスパーティの会場でもあります。
デートから帰ってきたカヤとクレナイの二人、共有スペースにあるストーブを囲んで震えるベニトウとワカバを横目で見てから、
「そうよ。考えなしの馬鹿共を制裁するには環境を活かしたこの方法が一番効果的だもの」
一足早く席に座り頬杖をつきながらクッキーを頬張るスオウの愚痴を最後まで聞き終えたのでした。
なお、この後も小声で文句を溢しつつクッキーを食べ続けます。市販のクリスマスツリー型、シナモン風味です。
「食われちまった時は悲しかったけどウチの代わりにすーちんが暴れてくれたからもういいんだ! ちゅーわけでこうした!」
すっかり機嫌を直したサクラが手を上げて見るように促したのは、宿の玄関前に飾られているクリスマスツリーで。
「ぼくまものだけどおほしさま」
全長二メートル近くのクリスマスツリーの頂点には、星型にカットされた黄色い折り紙を頭に貼り付けたどりぴが鎮座していました。
「な、なるほど……そう来ましたか……」
「似合ってますわよどりぴちゃん」
「ぼくまものだけどにあう」
頂点のまま得意げに言うどりぴですが、スオウだけは目もくれず。
「まっ、いいんじゃないの? そこでそうしてる限りご馳走は食べられなくなるだろうけど」
「ぼくまものだけどたべる」
次の瞬間にはどりぴはテーブルの上に立っていました。スオウは手早くクッキーを持つとどりぴの前まで持っていってやり、
「もぐもぐ」
両手でしっかりクッキーを持ってから食べ始めました。早いですね。
あまりの速さに硬直してしまったサクラでしたが、その内に首を横に振り、
「どりぴがご馳走が食えなくなるぐらいならクリスマスツリーの星なんてなくてもいっか〜」
あっさり自己解決。そのままテーブルに向かうのでした。
「そーそー! せっかくのクリスマスなんだから仲間外れだなんて可哀想な真似できねーもんなー!」
ここでベニトウ復活、一度酷い目に遭っても懲りないのが彼女の長所であり短所です。
「……さむい」
なおワカバはまだ震えていました。
「アナタはもう少し反省してくださいよ」
呆れるようにと言うよりも呆れ果てた様子のカヤが言ってもベニトウは知らん顔。
「やなこった! こんな日に落ち込む暇なんかねーもん! 一秒一秒を楽しまないと負けた気になるしよ!」
「コイツに反省を促すなんて大型犬に逆立ちを要求するようなモノだから諦めるべきよ」
呆れるスオウは皿からクッキーを一枚持つと席から離れ、震えたままのワカバの口に突っ込みます。
「さっさと食いなさい。コキがバイトから帰ってきたらフツーに心配されるわよ」
「……うい」
ワカバも食べ始めました、そして食べ終わりました。
「パーティが始まるまで時間あるしクリスマスにちなんだ話でもして時間潰すか」
「クリスマスにちなんだ話とはなんでしょう? 男を血に染める話ですか?」
期待しつつ己の野望を言い放ったクレナイが絶句するセリフが、ベニトウの口から出ます。
「これはオレがまだ海賊やってた時、クリスマスっつーかイベントに興じて大乱交パーティをしていた時の話なんだけどよ」
「やめれぇー! この状況でする話じゃねぇー!!」
「ぼくまものだけどそうおもう」
サクラとどりぴの抑制も虚しくベニトウの話は続いてしまいます。
「イヤー!! 男のシモの話なんて聞きたくありませんわー!!」
「大丈夫だ安心しろクレナイ! ちゃんと女もいたから! ちょっとだけ!」
「その女ってどっかの集落から拉致ったか商人から安く買い叩いた奴隷かなんかでしょどーせ! 海賊船だとよくあるって聞いたことあるわよアタシ!」
「うっわ……」
「かやぴの軽蔑した顔が胸に刺さるぜ! わはは!」
「ウチかやぴのあんな顔みたことないし見たくもなかった、よりにもよってクリスマスに」
「ぼくまものだけどそうおもう」
「まあそう気にすんなって! クリスマスはまだ終わってねーんだ! 面白おかしく過ごそうぜ!」
「楽しんでいるのはベニトウさんだけですよね!?」
「いいじゃねーか付き合えよ〜シラアイたちもまだ帰ってきてねーしさあ〜オレの渾身の実話聴きてえだろ?」
「聴きたくないです本当に聞きたくないですって!」
「そう言うなって〜えーとアレって誰から言い始めたんだったかな、たしか船内で一番デカかった……」
「うわー! 始まる! クリスマスにする話じゃねえ話が始まっちまう! わか含めた子供隠せ隠せ!」
「ぼくまものだけどかくす」
「う……?」
「頭に乗るだけじゃ隠せないでしょうがバカ!」
「奴隷同士の女の子たちの濃厚な絡みか男を蹂躙し尽くす話であれば興味はありますわ!!」
「クレナイさんちょっと黙っててください!!」
「なんだよ〜釣れねえな〜なんやかんや言いつつ興味あるクセによぉ〜?」
「ねえねえ、その話面白そうよね? もっと詳しくしてくれる?」
「おっと! ほら、やっぱり楽しんでくれる奴が」
嬉しそうに振り向いたベニトウが見たのは、鬼の形相で立つコキでして。
「…………あっ」
次にベニトウが意識を覚醒させたのは、クリスマスから三日経った朝のことでした。