なんで、なんであたしがこんなことしなきゃならないのだろうと思ったことがある。
式波タイプのクローンの一体として生まれてからずっとエヴァに乗ること以外のことを知らなかった。それ以外考えることを許されてこなかったから。
そんなものは余計だと教わってきたから。
エヴァの2号機パイロットになるために毎日体が千切れるような訓練をしてなんのためになるのだろう。同じ顔をしたあたしとどうして競わなきゃならないのだろう。
使徒なんて来るかもわからないもののためにあたしが何故こんなことをしなければならないのだろう。どうしてこんな苦しいことをしなくちゃならないのだろう。
思い返すのはいつも負の思い出ばかり。
痛い。痛い。苦しい。やめたい。楽になりたい。
泣きたくても泣けない。
弱音を吐きたくても吐けない。
外で無邪気に遊ぶ子供の姿を見ているとあたしにもあんな風に大人になっていくんだという人生もあったのかもしれない。
痛いこともなにもせずにただあんな風にどこかの家で暮らしていたのかもしれない。
でもそんな思いなんか知らずに現実はあたしに選択肢を与えてはくれない。
そしていつしかあたしは自分の存在意義を「エヴァに乗ること」だと思っていた。
そうしなければあたしがここにいる意味がないと思っていた。
認められないと思っていた。
でも
ーアスカ、大好きよ。
ーいつか日本に来たら私と一緒に暮らさない?
アスカならいつでも大歓迎だから!
待ってるわね!
それでも、あたしの中の思い出は負の思い出ばかりじゃなくてミサトの愛情もたしかにあってそれはあたしの心を満たしてくれたのは間違いない。
からっぽだったあたしの心にあたたかいものを注いでくれたミサト。
その愛情はきっとミサトの形をしている。
あたしが初めて好きだと思ったその人の手はあたたかくてあたしはその手に支えられてきた。
だからあたしは今まで生きてこられた。
辛かったら泣いていいんだよ。
笑いたいときは笑ったっていいんだよ。
もう無理なんかしなくていいんだよ。
貴女は貴女のままでいいんだよ。
自分の思うままに生きていいんだよ。
そんなのあたしの勝手な妄想だってわかるけど、それでもそれがミサトからあたしへの愛情だと信じたい。
大好きな人の胸の中で泣いたり笑ったり眠りたい。
そしていつか青い海が見える場所でミサトと笑いあっていたい。
それがあたしの今の夢だ。