ウタ平土砂降りから逃れるように入ったバーは、お世辞にも俺を歓迎しているようには思えなかった。それでも、ドアベルを鳴らしてしまったのは事実。一杯だけ飲んで退散しよう。
カウンターに座ると、怪しい雰囲気のバーテンが俺に微笑む。片方だけの剃り込みに赤い目はどう見ても堅気の人間には思えなかったのだ。
「大雨だったんだ」
タメ口で馴れ馴れしく話しかけてくる。その態度が少しだけ癪に障った。普段は絶対一人ではいかないから勝手が分からない。
「雨、上がったらとっとと退散するので」
不愛想に返す。彼はどこか満足げな顔をしていた。そして、まだ頼んでもいないのにシェイカーにリキュールが注がれる。
「おい、まだ頼んでない」
「奢りだからいいよいいよ。この店はぼくだけしかいないから、久しぶりのお客さんが嬉しいんだよね」
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