ウタ平 俺は今、会社の飲み会でキャバクラにいた。
性に合わないので、こういう場所は得意ではない。
派手な格好の女達を持て囃すだけの場に価値を見出せずにいた。
なのにどうしてこんなところに俺はいる?
答えは簡単、上司の言うことは絶対だからだ。
「全然飲んでないじゃん、ほらもっと飲みなさい。今日は私の奢りなんだから」
「はあ……」
酒に弱い事を知ってか知らずか、飲めや歌えやと俺のペースを乱した。
明日は休日なのだから、早く家に帰って寝たい。それだけが今の願いだ。
「平子くんどうしたの」
帰りたい気持ちが態度に表れていたのか、不意に席を立つ。
「あー……ちょっとトイレ、行ってきます」
煮え切らない返事をして、手洗いに向かった。
特に出すものもなく、適当に個室で時間を過ごし鍵を開けて出ようとする。
「っわ」
「びっくりした?」
そこには、何故かウタがいたのだ。
「何でこんなところにいるんだ……さてはストーカー……?」
「違う違う。取引先の付き合いでね」
案外同じような理由だった事にまた驚く。
「平子さんたちは団体さんだね……知り合い?」
「まあ、今の職場の上司だな」
「楽しくなさそうだね」
その声は、少し弾んでいた。
「そんな事はない。庶民が滅多に行けない所に連れて行ってくれるんだ、感謝しないと」
事実を述べたまでだった。
俺は手を洗い、その場を後にする。
「あっそ」
やや冷たい彼の声が、やけに耳にこびりついていた。
「平子くん大丈夫? 遅かったみたいだけど」
「全然、平気です」
なら良いんだけど。と、上部だけの心配をして、上司はまた女と戯れながら高い酒を注文した。
元気だな、と横目で見ながら注がれていた酒を煽った。
その時。
携帯にメッセージが入る。
相手は、ウタだった。
『出ておいで』
とだけ書かれているだけなのに、鼓動が高鳴る。
度数の高い酒だったからだろうか、それとも――。
ガタン、と音を立て席を立つ。
「平子くん、本当に大丈夫? 顔も赤いし……」
「……っ、今日は、失礼します。あんま、体調良くないみたいで」
適当に札を出して、その場を後にする。
ずっと鼓動は早いままだった。
店の外に出ると、大粒の雨が降っている。
そこに、ビニール傘を持って微笑む長身の男がいた。
「早かったね、平子さん。この後、分かってるよね?」
高圧的な発言とは裏腹に、優しく唇を奪われる。
「っ……」
俺は雨音で聞こえない振りをして、彼の傘に入る。
路地裏に入ると、いかにもなホテルが立ち並ぶ。
「さ、濡れないうちに入ろう」
促されるままホテルに入る。
これで良かったのだろうか、と自問するが酒が回った頭では考えられない。
けれどあの場にいるより、彼と過ごす時間の方が0.01mmくらいは楽しいかもしれないと思った。
おわり。