秘蔵ファイルはお前でいっぱい その日悟飯はとても疲れていた。ピッコロの家に遊びに行く為に抱えていた仕事を高速かつ不眠で片付けた悟飯は目的地に着いた途端気を失うように眠りに落ちた。
「おはようございます!ぴっ…………」
最後まで言葉を口にすることなく床に倒れた姿に家主は心底驚いたが目の下の隈と寝息で状況をすぐに理解し、また無茶をしやがってと呆れと怒りを胸に倒れた悟飯をベッドへと運んだのだった。
眠るのに邪魔な眼鏡を外すとそこには実際よりも大分若く見える悟飯の素顔。超サイヤ人以上に変身する時以外では外すことが滅多にないので久々に見るその顔に怒りの感情は霧散し代わりに幸福感で満たされていく。
「やはり、神龍に視力を戻してもらうべきか……む?」
外した眼鏡を片付けながらそんなことを考えているとふととある光景が目に入る。
「んん〜……」
枕元に置いてあった一体のペネンコ、部屋の机に置ききれなくなって仕方なく、そう仕方なく枕元に置いていたペネンコに擦り寄る悟飯の姿があった。ペネンコの肌触りはなかなかに上等なものだ、頬に触れるその感触に眠っている悟飯の顔が幸せそうににやけている。
「…………悟飯、悟飯」
そんな幸せそうに眠る悟飯の身体を軽く揺すって声を掛ける。相当深い眠りに落ちているのかその程度では全く起きる気配がなかった。
「よし、起きないな……そのまま暫く寝ていろよ」
ピッコロはどうやら起こしたいわけではなく、どの程度深い眠りなのかを確認したかったようだ。
自分の満足する深い眠りであることを確認すると静かに部屋中にある大小様々なペネンコを回収していく。
腕に抱えきれるぎりぎりの量を回収し、そのペネンコ達を優しく悟飯の周囲に配置する。抱えていたペネンコを配置したらまた回収する。何度もその行為を繰り返し、両の指で数え切れない程の周回をして漸く全てのペネンコの配置を終えた。
「………………いいな……」
大量に飾られたペネンコ、そしてその中心に眠る二十五歳の成人済み男性。見る人によっては痛々しいと思うかもしれないその光景は制作者にとっては絶景のようだ。
いい仕事をしたなと満足気に鼻を鳴らし、自身のスマホの操作を始める。
「以前ビーデルに教わった機能を使う日が来るとはな……あとで礼を言っておくか」
少し危なげな動作ではあるが、望みの機能を出すことが出来たらしい。スマホをペネンコ畑で眠る最強の眠り姫に向け指で画面をタップする。
パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!
物凄い勢いでシャッターの切る音が鳴り響く。一瞬もシャッターチャンスを逃したくなかったのだろう、ピッコロの人生初の通話以外のスマホ使用は連写モードとなった。
「んっ…………!」
「!」
かなり大きな音だったので目覚めてしまったのだろうか、普段好きではないと豪語しているのにこんな幼稚な真似をしているところを見られたくはない。特に悟飯には。
心臓がバクバクと激しく動くのとは逆にその他の動作はピタリと止めて静かに悟飯の様子を伺う。
「…………すぅ……すぅ……」
どうやらまだ起きることはなさそうだ。ほっと息を吐き出し胸を撫で下ろすと今度は録画モードで撮影をするピッコロだった。
悟飯が訪ねに来たときよりも太陽が大分傾いている。スマホの中身を秘蔵ファイルでパンパンにして満足したピッコロはそろそろ起こすかと思案しているところだった。
まずは大量のペネンコを片付けなければならない。ベッドの縁に配置しているペネンコからどんどん回収して元の位置に戻していく。残すは悟飯のすぐ近くに置かれているペネンコのみとなった時にそれは起こった。
「んむ……ぴこ、しゃ……」
ぎゅうぅぅ……
最初から枕元にいたペネンコ、偶然にもピッコロに似た緑の毛色のペネンコ。それに抱きついて自分らしき名前を呼んでいる。
「…………」
自分で始めたことである。元々自分がそこに置いていたのである。でも、とても面白くない。
抱きつかれているペネンコ以外を少し乱暴に戻した後、べりっと音が聞こえそうな程の勢いで緑のペネンコを悟飯からの引っ剥がした。引き剥がしたペネンコを普段スマホを持つときの様に自分の目線まで持っていくと鋭い目つきで睨みつける。
「ピッコロはオレだ。お前じゃない。だから悟飯の腕の中はお前の居場所じゃない」
二十九歳とは思えない主張をペネンコ相手にする。ペネンコからの返事は勿論ない。最初から枕元に置かれていたそのペネンコは他のペネンコと同じ机に、悟飯に遠い位置に置いて片付けは完了した。
ピッコロ自身はどうしたかというと……。
「フン、ここはオレの場所だ」
悟飯の隣りに寝そべりその温もりを堪能するのだった。
ー数時間後ー
「なんで、なんでこんな夜中まで起こしてくれなかったんですか……?ボク楽しみにしてたのに……」
「…………すまん」
堪能しすぎてその日は何もできずに終わった。
終