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    wonkob

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    wonkob

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    ここは前後をちゃんと書いたあと要判断。脳内ではもうちょっとポジティブな印象だった気がする

    タイトル未定(ロマぐだ♀) その日はうまく寝つけなかった。理由ははっきりしている。第四特異点でマシュと藤丸さんが邂逅した本当の敵。魔術の祖たるソロモン王の存在だ。
     科学の畑出身の私でも知っているそのビッグネームに、どうして平然としていられるだろう。実際に相対したマシュや藤丸さんの前では、いっそなぜか彼女たちよりも動揺していたドクターの前では取り繕っていても、みな少なからずその名に身を震わせていた。全員で集まっているときは前を向けても、マイルームに戻ってひとりになったときは恐怖で顔を上げられなかった。
     こんなときのためにあらかじめ、一回分の睡眠薬をスタッフ全員に配っていたのだろうか。はじめて飲んだそれで沈むように眠りについた私はいつもより早い時間に目覚め、マイルームを出た。そうして食堂に向かう途中にある藤丸さんのマイルームの前を通りがかったとき、その部屋から明らかに寝起きの顔をしたドクターが出てきたのである。
     何日も洗濯されず着たままのためクタクタになった白衣と、心なしかいつもより重たげなサーモンピンクの髪は、彼が昨夜の特異点修復後からずっと少女の部屋にいたことを物語っていた。
    「あ」
     私と鉢合わせたドクターは目をまん丸に見開き、それだけを口にした。私はなにも言えず、硬直したドクターから視線を外すこともできなかった。
     たっぷり五秒はお互いに動作と思考を止めていただろうか。ヒュッ、と引きつったような音を立ててドクターは息を吸った。
    「ちが、うんだ。待ってほしい。カルデアの査問会にかける前にボクの話を聞いてほしい。お願いします」
     どうやら私が混乱しているのと同じ、あるいはそれ以上に、ドクターも混乱しているらしい。同い年で役職が下の私に敬語を使いつつ、なんのポーズなのか、両手を前に突き出しながら半歩後退している彼は滑稽に見える。先に気持ちが平静に傾いたのは私だった。
    「まだ私はなにも言っていませんが。ドクター」
     たったそれだけしか言っていないのに、ドクターは大げさなまでに肩を跳ねさせる。
     私よりも身長が高いにもかかわらず器用に上目遣いでこちらを見やったドクターは、私の視線に含まれるものに軽蔑の色が薄いことを感じ取ったのだろう。わずかに安堵の息を漏らし、背筋を伸ばす。
    「先に言っておくと、誓ってボクは未成年に手を出していません」
    「はあ」
    「第四特異点では、ほら、いろいろあっただろう? だから立香ちゃんのメンタルケアも兼ねてマイルームにお邪魔してたんだ。それで」
    「それで?」
    「…………途中で寝落ちて、気づけば朝になってました」
     いくつかのステップが抜けた説明であることを、ドクター自身も理解しているのだろうか。上擦った声はどこか白々しく、途中から斜め下に向けられた視線が上がってくる気配はない。私は思わずため息をひとつ落とした。
    「いや、でも本当に! カルデアのコンプラと日本の青少年法に誓って本当に、立香ちゃんとはなにもないから! ボクが勝手に寝落ちただけで! これだけは信じてほしい!」
     必死な声だ。これだけで「未成年の少女の部屋から朝帰りした男」ではなく「三十路の男を一泊させた未成年の少女」というレッテルを恐れているのだと察せるくらいには。
     私は眉を寄せながらとりあえずドクターに笑いかけた。笑う以外の表情を、今はあまり作れなかった。
    「あなたがそういう人じゃないことも、藤丸さんがそういう子じゃないことも、わかってますよ」
     それがわかるだけの時間を、私たちはすでにともにしている。
     ドクターは何度か瞬きをしたあと、首裏に手を当てていつもの人当たりのいい笑顔を浮かべた。「よかった」その呟きは、今まで彼から私に向けられた言葉の中でもっとも多くの本心が含まれているような気がした。
     だからだろう。私は、たしかめたいと思った。終わりにするなら今だと思った。
    「……でも実際のところ、どうなんですか」
    「え?」
    「藤丸さんのこと。人類最後のマスターだから気にかけてる、ってだけではないんですよね?」
     こんなことを聞いて、なにになるんだろう。馬鹿みたいだ。そう思う自分だってたしかにいる。けれどそれ以上に、私は疲れた。
     傷つくのは私の勝手だ。嫉妬するのも私の勝手だ。でもそういうものにはもう、疲れた。
     いつ死ぬかもわからない状況で、魔術王なんてとんでもない敵を前にして、叶わぬ恋を原動力にしてがんばれるほど私はひたむきではない。一夜の夢でいいからと無謀になれる歳でもない。私は藤丸さんにはなれない。あの子のように、何度挫けようと諦めずに立ち上がり続けることなんてできない。
     鳩が豆鉄砲を食ったようだったドクターは、しばらく考えるように黙り込んだあとゆっくり口を開いた。
    「そうだね。もちろん彼女が人類最後のマスターだからというのも理由のひとつだけど……ボクはそれ以上に、彼女個人の強さに肩入れしているのかもしれない」
     優しい語り口だ。その口調のまま、ドクターは続けた。
    「でもボクが彼女に抱いているものはそれ以上でもそれ以下でもないし、ほかのものになる予定もないよ」
     これは彼の優しさなのだろうか。あるいは誰かに対する誠意なのだろうか。そうだとすれば、こんなにも残酷な言葉はない。
     もうとっくに、あなたはあの女の子を自分にとっての特別な位置に据えているのに。あの女の子も、あなたを自分にとっての特別な位置に据えているのに。今さらどうして突き放そうとするのだろう。
    「そのつもりがないなら、気を持たせるようなことしちゃダメですよ、ドクター」
     ドクターはわずかに眉間にしわを寄せて表情を歪めた。彼にしては珍しい、不意打ちで傷ついた顔だった。
     このひとのこういう、どうしようもないところも、嫌いではなかった。どこか懐かしい気持ちでそんなことを思いながら、私はまた彼に笑みを向けた。
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