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    ななめ

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    季節への招待状【堀と川端】
    ワンライお題「招待状」で書いたものです。

    #文アル
    "asWritten"Album
    ##文アル

    僕らはみな、新しい季節への招待状を受け取っているのだ。

    *

    中庭のベンチは読書に最適な場所だけれど、外で過ごすには最適な季節は過ぎようとしていた。僕は抗うように赤いマフラーを首に幾重にも巻きつけて、芥川さんから借りた本を膝の上で開いた。『辰っちゃんこも好きだと思うよ』そう言われて渡された本は図書館の一般開架から誰かが借りてきたもので、司書さんからは一度きちんと返却してから読みたい人が借り直すようにと言われていたものの、僕らは本を回し読みすることに慣れきっていた。
    読み終わったら芥川さんと語ろう。
    それを楽しみにしていたはずなのに、ページをめくる手は少しも進まず、僕の目は舞い落ちる木々の葉をぼんやりと眺めていた。あれは桜の葉だ、花びらよりも重く宙を切る。心は軽やかとは言いがたく、池に落ちた葉のように沈んでいった──

    「堀さん」
    ふいに声をかけられて僕は飛び上がった。
    「は、はい。……あ、川端さん」
    川端さんは少しの間、目の前に立ったまま静かに僕を見つめていたけれど、そっと隣に座り背筋を少し丸めるようにして正面を眺めた。まるで僕が見ていたものを確かめるように。
    川端さんは前を向いたまま口を開いた。
    「堀さん、もう寒いですよ。そろそろ戻りましょう」
    「ええ、そうですね……」
    僕は川端さんから目をそらし、開いたままの本へ視線を落とす。そこにはいつの間にか落ち葉が乗っていた。指でつまんで目の前にかざしてみる。細かいギザキザのついた縁と絵画のような赤と黄の色むらが美しい。
    「冬への招待状、ですね」
    「え?」
    「それは桜の葉でしょう?過ぎ去った日々は戻りませんが、冬が来て、やがてまた春が来ます。桜の花が満開になったら皆でお花見をしましょう」
    そうだ、これは過去の遺物ではなく未来への──
    川端さんが目を細めてひっそりと笑った。僕も静かに笑みを返し、落ち葉を挟んで本を閉じた。
    「ありがとうございます、川端さん。まずは僕がお茶に招待します。今から部屋に戻ってお茶をいれますね」
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