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    Booomjirirui

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    スカ万

    #スカ万(肉)
    #キン肉マンII世
    kinnikumanIi

    我が上の星は見えぬギャハハハハ!
    サラリーマンが疲れた様に肩を落として帰路に着く時間帯の頃。
    煌びやかな街並み、ビルとビルの間から下世話な笑い声が聞こえる。
    その先には酒に女に、白い粉、注射器や暴力が蔓延っていた、吐きだまりの様なその場所は薄暗くあちらこちらから怒号や喘ぎ声などが聞こえ空気も重く独特な臭さがあった。
    そんな路地裏の奥には破壊された赤いスポーツカーがありそのボンネットの上に周りと比べ一際体が大きい男が座っていた。

    「ねぇ~マルス、今日は私と過ごしましょうよ」
    「はあ?アンタみたいなブスがマルスに腰振ってんじゃねぇよ!ねぇマルスあたしと今夜も過ごしましょ」
    「なんですって!イカれた女がしゃしゃり出て来んじゃねぇよ!ヤク臭ぇんだよ!」
    「腰振る事しか頭にねぇ女に言われたくねぇよ!」

    マルスと呼ばれる男の両隣の美女が取っ組み合いの喧嘩を始める、そんな様子をフーとタバコをふかしながら眺めていた。
    (うるせぇ女どもだな…)
    ちょっと一晩相手してやったらこれだと退屈そうにしていると空になった酒瓶を後ろに投げ捨てる。
    ガシャーンと高い音が鳴るが誰も気に止めない。
    誰が殴られようが、誰が犯されようが、誰がイカれていようが、誰も気にしない、それが俺の世界だ。
    そう思いビルとビルの間から差し込んでくる月の光の先に目を向ける。
    (気に食わねぇ…)
    手を伸ばして空を掴むようにギュッと握りつぶす。
    「いつか全部ぶっ潰してやる」
    そして全部手に入れてやる、ギラりと光る男の眼光と燃え滾る程の野望に口角が上がって高々に笑う。

    ーーーー
    ーーーーーー

    カンカンカーン
    試合終了の鐘が鳴る
    会場中にキン肉万太郎コールが鳴り響くのが意識の遠くの方から聞こえる
    (嗚呼…俺は負けたのか…)
    不思議と嫌な気分はしなかった寧ろ心地よい気持ちに包まれていた。
    (不思議だぜ…こんな気持ちになるなんざよ…)
    毎日死ぬか生きるかの世界で生活していた、そんなスカーにとって戦いとは強者と弱者、食うか食われるかの世界に負けるのがこんなに清々しい事など無かった。
    (もう一度戦いてぇな……)
    そう思って意識が落ちていく、脳裏に浮かぶのはスカーを負かした男の笑顔だった
    あの試合から様々な事が起きた。
    そしてずっと自分の中にあった気持ちを確かに確信したのは過去から帰って来てからの事だった…






    「ねぇーキッドーこの後カラオケ行こうよー」
    「またかよ、言っとくが奢らねぇからな」
    「えぇーケチ〜」
    合同練習にて自分が居る反対側、リングの奥にキン肉万太郎がテリー・ザ・キッドと話をしていた。その様子を壁にもたれ掛かりながら眺めているとその隣に緑のヘルメットを被った男が並ん来て話しかけてきた
    「随分休憩が長い様だな、スカー」
    「うるせぇよ、俺様の勝手だろ」
    「ふーん…………万太郎って可愛いよね」
    「ブッ!!」
    唐突な言葉にスカーが思わず吹き出す
    ジェイドは 違った?という様な顔を向けてくる
    「何言ってんだテメェは」
    「だってコロコロ表情豊かだし、素直で強いしそれに優しいし」
    「そうかよ」
    「スカーはどう思ってるんだ?万太郎の事」
    「………俺は……」
    そこまで言うと口を紡ぐ
    そして出口に向かって歩き出し 帰るわ と一言告げて練習場から出ていく
    練習場から出て適当に歩き川沿いのベンチに腰掛けてポケットからタバコを取り出してそれに火をつけて口に咥える、穏やかに流れる川の水と青い空に浮かぶ雲が時間を忘れさらせる。
    ジジッ……と咥えていたタバコの灰が風に吹かれて飛んでいく先には燕が空を舞っていた、タバコの吸う部分が無くなる頃になって漸く自分が物思いにふけていたことに気づいた
    「勿体ねぇ」
    掌の上で握り潰して顔を空に向けて先程空を舞っていた燕を眺めていた

    『スカーはどう思ってるんだ?万太郎の事』

    先程ジェイドに言われた言葉が頭の中で谺する
    ずっと……ずっと月をぶっ壊したいと思っていた
    何食わぬ顔で静かに輝きその優しい光で全てを包こもうとする月が嫌いだった
    だが違った、俺はずっと俺だけに向かないその優しい光が欲しくて欲しくて堪らなかった
    でもあの時触れてしまった、無償の慈しみに
    それからずっとドロリとした心の壺から出そうになるものに気づかなかった
    いや、気づかないようにしていた、蓋をして溢れ出ないようにしていた
    (ハッ、大笑いだぜ。
    月を憎んでいた奴が、月に魅入られるなんてよ…)
    ギシッと座っていた椅子が軋む
    「さて、どうしたもんか」
    自分らしくない迷いがある
    きっと強引に押し進めば応えてくれるだろう。
    そういう奴だ、だが…
    「それじゃあ意味ねぇんだよな」
    誠実などの言葉なんざ知らねぇ、今まで黙っても勝手に擦り寄って来た女達、欲しいものは力ずくで奪ってきたし嫌がっても甘く囁いてやれば勝手に股を開いてきた。
    それを愛だと思っていた、だが違った、本物はもっと厄介で面倒くさくて人の心にズカズカと入り込んできて思い通りになりゃしねぇ、腹立たしい事この上ないのに堪らなく愛おしい。
    「厄介なもんだぜ」
    ハッと笑ってみて再び空を見上げるとそこには今思っている者の顔が横から現れた
    「何が厄介なことなの?」
    「!?」
    幻でも見たのかと思ったくらい相当参った状態に陥ったのかと思ったがどうやら本物のキン肉万太郎がそこに現れたらしい
    万太郎は首を傾げながらスカーの隣に座り出した
    「お前なんでここにいんだよ」
    「ジェイドに言われて来たんだよ、スカーがなんか落ち込んでるから元気つけてやってくれって」
    (あ、あの糞ガキ~~)
    後で半殺しにしてやると余計なお節介をしてきたジェイドとは裏腹に万太郎はスカーの顔を覗き込んでジッと見つめてくる
    「で?どしたの?何に落ち込んでたの?」
    「別になんも落ち込んでねーよ、ジェイドにからかわれたんだろ」
    「えぇー折角心配したのにー!」
    ぶーぶーと文句を垂れる万太郎にふはっと笑うとそれを横で見ていた万太郎がキョトンとした顔で見てきた

    「何人の顔見てんだ?」
    「いや、最近スカー変わったよね」
    「あぁ?」
    「最初はおっかなかったけど、最近は…うん、雰囲気が柔らかくなったよね。良く笑うようになったし、色んな人に技の対策とかそういうのも話するようになったよね、昔は一匹狼だとか言って周りから距離置いてたのに」
    「へっお前らのレベルが余りにも低いから俺様の練習相手になるように育ててるだけだ」
    「ふふっ、強がっちゃって」
    にへらと笑う万太郎に自然と自分自身も笑みが出る。
    (嗚呼、悪くねぇ…)
    こんな時間でさえ悪くないと思えるほど自分自身が本当に丸くなっちまったのにむず痒さを感じるが隣に居る万太郎がそうさせているのだろうと思うと相当にコイツに惚れ込んでるのかとも思う。

    「おら、いつまで笑ってやがる」
    「痛たたた、もう!乱暴者は変わらないんだから!」
    「へっ、糞ガキには多少の躾をしねぇとな」
    いつまでも笑う万太郎の頬をつねってみせると次はぶーぶーと文句を垂れるのを見てやっぱりガキじゃねぇかと頭をガシガシと撫でる
    「もお!ガキ扱いしないでよ!」
    「ガキだろ実際よぉ」
    「そんな事ないよ!十分大人だい!」
    「ほぉ…」
    「えっ」
    「ならこんな事してもいいんだよなぁ?」
    万太郎の襟元を乱暴に掴んで顔を近付けると万太郎はちょ、ちょっとスカー!と困惑してその後ギュッと両目を閉じる、少し震えるそんな万太郎の様子を見ておでこにデコピンを食らわせる。
    「いったあ!」
    「はっ、なんだ本気にしたのか?」
    「なっ!?もう!そうやってからかって面白いの?!」
    「ガキには効果覿面だろうが」
    「ムキ~~……でも良かったよぉ、友達のスカーとキスなんかしちゃったら僕どうしていいか分かんないもん」
    「へーへーそりゃ良かったな。お友達のままで」
    「うん!スカー!これからも宜しくね!」
    屈託のない純粋な笑顔を向けてくる、真っ直ぐすぎる裏表の無いその言葉に 恥ずかしい奴だなと吐き捨てると そうかなぁ? と首を傾げる。

    (まあ、今はまだ気づかないフリしておいてやるよ)

    「……おい、万太郎」
    「?なあに?スカー?」
    「Tu sei la mia luna」
    「??? えっ?なに??」
    「ガキには分かんねぇかぁ」
    「むぅー!またそうやって意地悪する!」
    「くくっ」

    (お前がその言葉の意味が分かるまで)
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