Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ☆ユズ☆

    @c_love_r123

    出来上がったもの、ざっくり書いたもの、書きかけのものなど、好きなものを好きな時に好きなだけ。
    閲覧やスタンプいつもありがとうございます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 24

    ☆ユズ☆

    ☆quiet follow

    リボンを結ぶスタラピ。概ねできた。手直しまだ。

    ##スタラピ

    「恋を結ぶひと」(スタラピ) 白いリボンの端で針を動かしていく。
     ひと針縫う度にほつれが繕われていくのが嬉しくてラピスの口元は自然と緩んだ。
     普段から身につけているリボンのほつれに気づいたのは今朝の事。おそらく鍛錬の最中にどこかに引っ掛けたか何かしたのだろう。端の縫い目が解けてしまっていたのだ。
     主であるスタルークの元に参じる前に少し鍛錬をと思っていた彼女は、その合間に直してしまおうかと裁縫道具も携帯する事にして今こうしていた。
    「繕うのはこれで何度目だろう」
     ぽつりと呟きながら綻んだ唇のまま手を動かす。
     昔──まだ故郷から出るつもりのなかった頃から気に入っているリボンだ。王城に来てからは常に身につけているのもあり、繕うのはこれが初めてではなかった。
     ほつれる度、まだ修繕すれば使える。そう思ってきたが、ラピスが直しては身につける理由はただそれだけではない。
     人前では隠してしまう事もあるが大切に思っている故郷の事を考えながら手を動かしているとあっという間にリボンは元通りになった。
    「これでよし、っと」
     縫い終わりを止めてぷちんと糸を切る。
     良い出来だと満足しながら針と残った糸を袋にしまい、ラピスはさてどうしようかと繕ったばかりのリボンを手にした。
     その時の事だ。がさと地面の草を踏む音がして、それに弾かれたように顔を上げたラピスの瞳が大きく見開かれた。
     手にしたリボンが皺になりかねない。
     それ程に強い力でぎゅっと握り込み、腰掛けていた切り株から腰を上げた。
    「スタルーク様……っ!?」
     驚きのままに名前を呼ぶと普段と同じ控えめな笑みで「おはようございます。ラピス」と柔らかな声が返ってくる。
     呼んだ名のとおり彼女の前に現れたのは後ほど顔を合わせる筈のスタルークだった。
     王子の臣下であるのだから簡単に動揺してはならない。そうは思うが今は有事の際ではなく、言うなれば個人的な時間の出来事である。そんな鍛錬の場に突然仕えている王子が目の前に現れて誰が驚かずにいられるだろう。
     そう考えたラピスは手を握り締めたまま主を見つめ、やけに緊張しているのを自覚した。
    「どうして、ここに……?」
     なんとかして声を出し尋ねる。すると、ラピスの緊張に気づいていないのだろうスタルークはいつもと同じ穏やかな様子で「ラピスならここだと思いまして」とまた小さく微笑った。
     たった一言、それだけで自分を探しにきたのだと悟るには十分だった。ただラピスにはその理由までは思い付かず、王城から少し離れたこの場所に彼がやってきた事が不思議でならなかった。
     そもそも一人でここまでやってきた事を臣下である自分が咎めなければならない。それもわかっているのに頭が働かず、浮かび上がった疑問符が大きくなるばかりだった。
    「あ、あたしに何か急な御用でしょうか。後ほどスタルーク様の元に向かうつもりだったのですが……」
     何とかもうひとつ尋ねると、普段ならば慌てた様子のひとつも見せるというのにブロディアの第二王子はゆっくりと首を横に振って、彼はラピスの言葉を優しく否定した。
    「いえ、急な用事などではないんです。ただ、普段よりも早く目が覚めて、ラピスはいつものように訓練をしているのかなと思ったら……足が自然に」
     ここに向いていました。
     そう続いた言葉に身につけた真紅の鎧の下でラピスの心臓の音がひとつ大きな音を立てる。
     自分を探してここへやってきたというだけでも喜ばしい事だというのに、目を覚ましたスタルークが自分の事を考えてくれていたなんて。
     思いもよらぬ理由に何と返して良いのかわからずラピスは続けるべき言葉を失った。二人の間に短い沈黙が生まれる事は少なくなく、スタルークの性格ゆえのものであるそれは大抵はラピスの方から会話を再開する事が多かったが、今日はそれも上手くできない。
    「休憩中でしたか?」
    「は……はい。リボンがほつれてしまったので、それを繕いがてら」
     問われてなんとかラピスが返事をすると握った手の方へスタルークの視線が移るのがわかった。
     どうにも落ち着かない気持ちであるのに自然と目の動きを追ってしまう。普段からスタルークは言葉よりもふとした表情や視線の動きの方が心情を伝えてくる事が多く、彼の傍らに仕える事が多いラピスにとってそれはもう無意識の行為だった。
     スタルークの視線が剣ではなく白いひとひらを握る右手に注がれたままになり、決して長い時間ではないとわかっているのになぜか倍にも感じられてしまう。
     最近のあたしはおかしい。
     ラピス自身その自覚があった。
     しかも主であるスタルークを前にした時だけ。時に王であるディアマンドの前に立つ事もあったが、緊張する事はあれどこんな風にぎゅっと胸の奥が掴まれたような感覚を覚えたり、熱を帯びたりする事は一度だってない。
    「ラピスはとても器用だからきっと綺麗に元通りですね」
     ふふと吐息混じりに微笑ったスタルークの赤い瞳が細められた。自分を褒めてくれる時の微笑みが優しいのはいつもと変わらないのに、それはラピスの中に宿った熱をますます深くする。
     そんなことは、と上手く紡げないまま声は途切れた。ありません、と続く筈の言の葉は唇の裏で溶けていった。
     こんな風に感情に振り回されていてはいけない。
     だって、あたしはシトリニカと共にスタルーク様という主を護る剣士。
     スタルークが姿を現す前の落ち着きを取り戻そうと自身に言い聞かせ、ラピスは目の前の柔らかな笑みを真似るようにしてどうにか──些かぎこちなくはあったが、唇の両端を持ち上げた。
    「もう少ししたら城に戻ってスタルーク様のところに向かおうと思っていましたし、一緒に帰りましょう。お一人でここに来たと他に知れたら怒られるかもしれませんよ」
     臣下としての本心と自分の気持ちから目を背ける為、スタルークがここに来た時にすぐ言うべきだった言葉を口にする。
     やや早口になってしまった事に気づかれただろうか。もし気づいたならどうか指摘しないで欲しい。
     そう願いながら「いきましょう」と明るく言って、ラピスは歩き出そうとして。
     だが、そこから動けなくなった。
    「シトリニカに会ったのでここに来るのは伝えてあるんです。だから、もう少しくらいは大丈夫。──これを結ぶ間の時間だけ、僕にください。ラピス」
     右手から白いリボンが旅立つ。自分の手からなのだからそうしたのがスタルークである事は明白なのに、ラピスの思考は固まった身体ごと鈍くなった。
     いいですか?といつもならば尋ねてくるのに。そう頭の片隅で思いながら「どうしたのですか」と今の彼女には問う事もできない。
     気づけば向かい合う二人の視線は繋がって、にこ、と薄く微笑んだスタルークの指がラピスの髪に触れた。
     僅かにかきわけ編んだ一房を彼は手に取り、白色が普段ある場所へと巻きつける。
     当然、スタルークの手の動きは目に映らず、感じられるのは微かな気配だけ。
     ただされるがまま。いけません、とその一言すら紡ぐ事もできずに、今のラピスに許されたのは次第に上がっていく自分の体温と胸を満たしていく苦しさを認める事だけだった。
     やがて──手間取りながらも蝶に似た形へとリボンを結んだスタルークが、手を離し小さく息を吐く。
    「できました。少し不恰好かもしれませんが」
     少し前までの積極性がなりを潜め、代わりに普段のやや自信なさげな声音がラピスの耳へと届く。
     いいえ、いいえ。
     声にできずに。だがそんな事はないのだとは伝えたくて、ラピスは頭を左右に振った。
     胸の奥が騒がしくてせつなくて苦しい。
     結んでくれている時に微かに指が触れた頬。そこがじゅっと焼けたようにいつまでも熱い。
     ラピスは乾いてからからになった口を開けて、どうにか声を絞り出した。
    「──ありがとうございます、スタルーク様」
     赤い瞳を見つめ続ける事などできずそっと視線を落としながら、彼女はとまったばかりの蝶々にそっと指先で触れる。
     こんなにせつなくて苦しいのに、同じくらい嬉しくて嬉しくてたまらないなんて。
     主と臣下。他の何にも変えられない関係を理由にラピスが見ないふりをしてきた感情はあまりにも確かで。
     スタルークにリボンのように結ばれてしまったそれは『恋』と名づける事しかできなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏💕💕🎀❤❤❤🎀❤❤❤😍🙏💖💖😍💕💕💕💕💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works