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    ☆ユズ☆

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    いただいたお題④
    ディアシトで「幼少期」
    幼少なのがシトリニカだけになってしまった。ごめんなさい……。

    ##ディアシト

    「ほしいものをくれた人」 いち、に、さん。いち、に、さん。
     そう呟きながら王城の一室でひとりステップを繰り返す。
     両親はモリオン王とその妃に呼ばれて少し前に行ってしまった。幼いシトリニカはついていきたかったが、ここで待っているようにと言われてしまい留まる事しかできなかったのだ。
     新しいドレスに身を包み、ほんの少しだけ踵のついた靴をはけるのが嬉しかった。本当は早く誰かに見て欲しかったが、従兄弟のスタルークは部屋から出てきてくれなかったし、もう一人の彼の兄は部屋にもいなかった。
     舞踏会は今日が初めてではない。だが、前回フロアに出た時はあまり優雅に踊る事ができなかった。
     内心少し悔しく、だから、人知れずダンスの練習をした。先生から稽古をつけてもらう時以外は決して努力する姿を見せず、今日の為に練習を重ねてきたのである。
    「やっぱり相手がいないと、むずかしいわね」
     呟きは一人きりの部屋に溶けた。
     スタルークが扉を開けてくれていたらドレスを見せるのと同時に、ステップの確認と理由づけて一度相手をしてもらうつもりだったがそれも叶わなかった。
     フロアに出たなら余裕ある様子で、優雅に振る舞いたいのに──。
     シトリニカははあと深いため息吐くと、再びステップの復習を始めた。
     その時であった。
     コツコツと扉の方で乾いた音が響いた。
     お父様たちがもどられたのかしら。それにしては早すぎるけれど。
     そう考えながら「はい」と答え扉の方に向かおうとすると、シトリニカを待たずに扉がぎいと音をたてて開いた。
    「シトリニカ、やはり一人でいたのだな」
     扉の向こうから颯爽と洗われたのは、私室に不在だった従兄弟のディアマンドだった。
     だいぶ年上である彼は大股で彼女に近づくと、十になったばかりのシトリニカに目線を合わせるように「退屈していなかったか?」と微笑む。
     はっきり言えば、退屈はしていた。しかし、子供心にもそこで正直な答えを口にする事が気品ある行為とは思えず、シトリニカはゆっくりと首を左右に振った。
    「ごきげんよう、ディアマンド。すこしも、そんな事ないわ」
     言葉に続き、小さく首を傾けにっこりと微笑ってみせる。
     隠した嘘にディアマンドは気づいた様子もなかった。その証拠に彼は「そうだったか。安心した」と目を細める。
     上手に笑って返事ができた。内心でほっと息を吐き従兄弟と何の話をしようかと考えていると、シトリニカはふと従兄弟の赤い瞳がじっと自分を見つめている事に気づいた。
     ディアマンドは一度彼女の足元に向かって視線を下ろし、それからまた元の位置へと戻すと真っ直ぐに瞳を重ねた。
    「このドレスは以前のものと違うな。とてもよく似合っている」
     照れた様子もなくまなざしと同じように迷いない言葉で、ディアマンドは言葉を紡いだ。
     わかりやすくはあるがあまりに率直。幼い少女にも情緒がないとわかる台詞であったが、むしろそれはシトリニカがよく知る幼馴染らしく、何より彼女が今一番欲しい言葉だった。
     先程のすました態度は鳴りを潜め、シトリニカの柔らかな頬は熱くなり、まるで林檎のように赤くなった。
     こういった時も余裕のある淑女でいなくてはならない。今よりももっと小さな頃から周囲を見て思ってきた筈なのに、それが上手くいかず足元がふわふわとした気持ちになる。
    「ありがとう。おほめにあずかり、光栄だわ」
     火照る頬のままシトリニカはなんとかドレスを摘み、膝を曲げ礼を告げた。
     どこかおかしくはなかったかしら。その気持ちと共にディアマンドを見れば小さな頷きと笑顔が返ってきて、それだけで彼女の小さな不安は霧のように散っていく。
     欲しかったものをくれたよく知る幼馴染。
     素直にお願いをしたら、もうひとつわたしの欲しいものを叶えてくれるかしら。
     シトリニカは胸に生まれた淡い期待を無視する事ができず、まだ目を合わせてくれているディアマンドへと口を開いた。
    「あの……ディアマンド。すこしだけ、わたしのダンスの相手をしていただけないかしら」
     申し出と共にそっと小さな手を差し出せば、ディアマンドは僅かに驚いた表情を見せてそれからははと声に出して笑った。
     頷きと共に立ち上がった彼が、シトリニカの手をそっと取る。
    「私の背が伸びすぎて、お前が手の位置に困るかもしれないが」
     ステップを合わせる練習相手くらいにはなるだろう。
     苦笑を添えて告げられた言葉に、また喜びてシトリニカの頬は熱くなった。
     ──欲しかったものをふたつもくれた。
     幼い胸の奥が喜びで溢れる。
     十にしては大人びた。そう言われる少女は金色の髪を揺らし無邪気に笑って、今はもう間違える事がなくなったステップを踏み始めるのだった。

     End.
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