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    ☆ユズ☆

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    ☆ユズ☆

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    いただいたお題③
    シルイン
    『終盤近くの戦いの後、シルヴァンの頬にできた傷を応急処置するイングリット』

    ##シルイン

    「重なる願い」 あがった勝鬨からしばらく後の事だった。
     自陣に戻り勝利を喜ぶ兵たちを見回したイングリットはようやく探していた相手の姿を見つけた。
     束の間の歓喜であっても士気に繋がるのなら良い事だと、そう思いながらも彼女が気になっているのは探し人の事だったのだ。
    「ジルヴァン、ちょっときて」
     足早に近づいた彼女が共にくるように赤髪の幼馴染の腕を引くと、どうした?と驚きの声を上げながらも導かれるままついてくる。
     その場にいたもう一人の幼馴染がまたかとばかりに呆れを含んだ溜息を吐いたのがわかったが、それをも無視してイングリットは腕を引き続けた。
     彼女は勝利の後の喧騒から少し離れたところまでやってくると、ちょうど良い高さの場所を見つけシルヴァンに座るように促した。
    「何かフェリクスたちの前では話せない事でもあるのか?」
     理由が見つからないのだろう。それでも拒む事なく腰を下ろしたシルヴァンの顔には明らかな疑問符が浮かんでいた。
     本当に自分の事となると気にしないのね。
     内心で溜息を吐きながら、イングリットは腰につけた袋から清潔な布と液体の入った小瓶を取り出す。
     問いに答えるより先に彼女は瓶の蓋を開けそれを傾けると布を湿らせた。
     ちらと視線をシルヴァンの方に向けると、そこでようやく自分が人目につかないところに呼び出された理由を悟ったのだろう、碧色の瞳に些かばつが悪いと示す表情が映る。
    「その傷、殆ど何もしていないんじゃない?」
     指摘した頬の傷は、血は軽く拭っているようだがそれだけだと遠目からでもわかった。近づいてよく見ると乾き切ってはいないようで、おそらく戦闘も終わる間際についたものなのだろう。
     イングリットが消毒用の液体で湿らせた布を傷口にそわせると、シルヴァンがびくりと小さな反応を見せる。
    「……放っておいてもすぐ治るような傷さ」
    「私が同じ事をしてその言葉を口にしたら、あなた怒るでしょう?」
     きっとシルヴァンならこう言うだろう。そのとおりの台詞を告げられ、返した自身の台詞にイングリットは微かに眉根を寄せる。
     こう言えば彼は言葉につまる。その事を知っていて口にした──そこにある狡さに胸がちくと痛んだ。
     二度、そして三度。傷の形を辿り往復させれば、僅かに汚れた布が手の中に残る。
     これでいいわ、と零して少し離れるとシルヴァンはまだどこか気まずそうな表情をしていた。
     自分の見える場所に傷痕が残ったところで彼は気にしないのだろう。だが、先程も告げたとおり、イングリットが同じ事をすれば適当にするなと言い出すに違いないのだ。
     もう少し自分を優先して。私たちだけじゃなくて、自分の事だって大事にしてほしい。
     昔から抱いていた想いであったが、ここ最近──シルヴァンの言動がやけに気になるようになってからそれは胸の奥で大きく膨らんだように感じられていた。
    「あくまでも消毒だけ。応急処置だから、きちんと治療してもらって」
    「このくらい大丈夫だ……って今言ったら、お前はもっと怒るだろ?」
    「そうね。このくらいと思って大事になったら困るもの。──あと少し……もう少しでこの戦いも終わる。フェルディアにまた戻る時には、あなたと並んでじゃなきゃ嫌だわ」
     袋に小瓶と布をしまいながら、なるべく深刻な空気にならぬよう本心を口にしたつもりだった。
     腰の袋から視線をはずしたイングリットの目の前。微かにシルヴァンが動く気配がした。
     ゆっくりと再び正面へと顔を向け、瞳に映った幼馴染の表情に彼女の心臓がひとつ跳ねる。
    「──そうだな。俺も、同じだよ」
     目を細めて薄く微笑うその表情の中に、軽薄さは欠片もない。
     大きな音を立てた自分の胸に手を当て、その意味にまだ気づかぬイングリットは安堵と共に微笑みを返す。
     それは、最後の大きな戦いが迫るある夜の事。
     揃って王都の地を踏む、その二人の望みが叶う暫く前の出来事であった。

     End.
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