夜を徹しての任務は結局昼前まで掛かってしまった。
簡単な報告を先にすませておいて詳しくは帰還してからということにし、南風と扶揺は少し休憩しようと山を下りる途中で見つけた古ぼけた廟に立ち寄った。
すっかり朽ちてしまったその廟は一見では誰を祀っているのか分からなかったが、ただ休憩したいだけなので誰を祀っているのか確認する事はしなかった。
廟の石段に腰を下ろし、二人して息をついた。
「こんなに時間が掛かるような相手ではなかったのにな」
「お前が愚図だったせいだろ」
「お前な……」
南風は目を閉じて眉間に皺を寄せた。すっかり疲れてしまって喧嘩を買う気にもなれない。
たいした鬼ではないからと侮って、分身に割いた法力が少なすぎた。
横目にみた扶揺に疲れている様子は見えなかった。
ひどく情けない気分になる。
話しもせずにただぼんやりと座っていた。
さっさと戻った方が楽なのに動くのが億劫だった。
「南風」
呼ばれて顔を向けると、扶揺が自分の太ももを軽く叩いた。
思わず目を見開いたが、これでも一応恋仲なのだ驚くのもどうかしてる。
南風はのろりと扶揺の腿の上に頭を置いて横になった。
扶揺がひどく愉快げな顔をして南風を見下ろしている。
その表情の意図がわからなくて渋い顔になったが、すぐにどうでもよくなった。
陽の光が温かく、風に乗って聞こえてくる葉の擦れ合う音が心地よかった。
「扶揺」
「何だ」
「少し眠ってもいいか?」
「子守歌は歌ってやらないからな」
少し笑いを含んだ声に南風も小さく笑って目を閉じた。
扶揺が頭を撫でているとしばらくして小さな寝息が聞こえてきた。
恋人の膝で眠っているというのに眉間に深い皺を寄せているのが気に入らなくて、扶揺はそれを親指の腹で擦った。
「暖かいな」
呟いて顔を上げる。
見上げた空は雲一つなく、清々しく青かった。