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    真砂長文倉庫

    @masago5050

    Twitterに収まらないものを入れる場所です。
    お手数ですが、Twitterのプロフをご確認いただけると有り難いです。
    ワートリ関係をのんびり詰めていこうと思います。
    まずはシステムに慣れることから…。
    プロフ画像は最高のコラボより。いつ見ても和む……。

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    真砂長文倉庫

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    1の続きです。2とは別時空。2より少し短いです。
    死者はいませんが、メリバ風味です。
    王子の思考回路が女々しいので、無理な方はリターン願います。

    2を書きながら「こんなん俺が許せねぇ…っ!」と悶えたのですが、「乙女的思考回路で本人が納得すればメリバ?」(訊くな)と言い訳しつつ頑張りました。
    「これを書くから2を思いっきりバドエンにできる!」
    ……我ながら無理矢理すぎる尻叩き。

    「Thank You」 3 Resigned Calm Dawn(白王子Ver.)ごぼっ、ごほ……っ!
    急激に意識が浮上する。喉を圧する水を吐いたぼくは、夜空を背にしたクラウチを下から仰ぐ形となっていた。
    そのまま、数回咳き込む。頬にクラウチの髪から滴る海水が当たる。短く呼吸を紡ぐクラウチがぼくをきつく抱きしめた。

    「王子…っ!良かった……っ!」
    身体を離し、ぼくの額を撫で上げ、両手で頬を包み、そのまま肩を抱く。
    「どこか異変はないか?」
    「う…っん、だい、じょうぶ。大丈夫だよ」
    ほう、と呼気を落として再びぼくを抱きしめた。今度は、包み込むように柔らかく。
    「そうか……。心臓が潰れるかと思ったぞ」
    両手をクラウチの背に回し、二度、撫で下ろす。
    「……ごめん。ちょっと酔いが回ったみたいで…はしゃいじゃった」
    一瞬、厳しい顔になったが、流石に叩くことはなく視線でぼくを戒める。
    「これからは、酒を控えてもらうからな」
    「王子、了解。……クラウチが人工呼吸で助けてくれたんだね。ありがとう」
    「丁度、車校で習ったからな。AEDを取りに行く間もなかったから必死だったぞ。……ほっとしたら、どっと疲れが出てきたな。宿で風呂に入りたい…」
    「ふふっ、そうだね。海水でべたべただし。露天風呂でさっぱりしよう」
    「そうだな。あと、浴衣とサンダルを駄目にしたから宿の方に謝るのが先だぞ」
    「うん」
    帯でどうにか留まっていた浴衣を見苦しくない程度に整える。身体に張り付いて気持ち悪い。
    先に立ち上がったクラウチがぼくの手を掴んで引き上げる。少しよろめいたぼくの腰を支えるように抱き寄せた。ぼくもクラウチの腰に手を回し、首元に寄りかかるように歩き出す。宿のサンダルはとうに無く、裸足だから石の感触がダイレクトにきた。
    風はなくとも、深夜の時間帯だ。ましてや濡れ鼠のぼくらは、互いの体温を分け合いつつ宿へと向かった。

    遊歩道に戻ると、クラウチのカメラが投げ飛ばされたように転がっていた。それを拾い上げたクラウチは、データの無事を確認するとほっとしたように微笑んだ。本体の一部に傷がついても、それを気にしないのがクラウチらしい。とても大事にしているのに。


    ぼくは、それ以上に大切に思われているんだね。
    ありがとう、クラウチ。
    君の必死さが、とても……嬉しい。


    そんなことは当然言えない。代わりにぼくは密やかに息を吐く。
    指でそっと唇をなぞる。海水で乾いたそこは、どんな理由であれ、最初にクラウチと触れ合った場所だ。みずかみんぐより、先に。


    このことを、生涯胸に刻んでいこう。
    きみがぼくにしてくれたことを、全部。
    ひとつ残らず、取っておくよ。

    クラウチ、……クラウチ。





    夜勤のフロント係に丁寧に詫びた後、ぼくらは部屋の風呂に入った。
    塩水でパサついた髪や身体を念入りに洗い終える頃には、月は遠く天空へと上っていた。やはりここからはムーンロードは見えなかった。

    海の中では、あんなに近く感じていたのに。
    もう、手にすることはできない。
    クラウチと……同じだ。

    共に湯船に浸かる。八角形の隣り合う辺にそれぞれ背を預け、リラックスする。クラウチがぽつりと独り言ちた。
    「長い、一日だったな……」
    ぼくより一回り厚みのある体躯。洗いざらしの前髪が無造作に額に掛かり、湯船脇の照明で柔らかく影を落とす。ぞっとするほどの色香を放ちつつ、本人がまるで無防備に屈託なく笑う。
    「お前が無事で、何よりだ」
    くしゃり、とぼくの頭を撫でる。まっすぐに向けられた眼差し。そっとその手を両手で包み、頬を懐かせる。
    「ごめん……。ごめんね、クラウチ」
    「もう、謝らないでいい。ただ、二度はないぞ」

    柘榴色の双眸に強い光が灯る。
    ぼくだけに向けられたそれを、裏切ってはいけない。もう、二度と。
    意識が回復した時の、あんな絶望の淵に立ったような表情をさせたくない。クラウチには。
    自分が原因なのは十二分に感じていたが、実際目の当たりにして初めて理解したこともある。

    「うん、分かった」
    クラウチの手の甲を恭しくぼくの額に当て、それからそこに口づけた。
    軽く瞠目したが、ぼくの誠意が届いたのだろう。再度、ぼくの頭を撫でてくれた。





    「クラウチ、布団くっつけていい?」
    三十センチほど離れた布団に横たわるクラウチに声をかける。
    「ん?どうした…?」
    「なんだか、今になって怖くなってきた。……手を、繋いでほしいんだ」
    「分かった。ゆっくり眠れるといいな」
    「ありがとう、クラウチ」
    「どういたしまして。ほら、どうぞ」
    ずりずりと寄せた布団の上に、クラウチの右手が伸ばされる。照明を消して布団に入り込んだぼくは、その温もりを押し戴く。
    「おやすみ、王子」
    「おやすみ……クラウチ」



    暫くすると、健やかな寝息が聞こえてきた。余程疲れたのだろう、偶に鼾のような濁音が混ざる。
    カーテンの隙間から僅かに届く月光。その明かりを頼りにクラウチの顔を覗う。
    整えられた布団からこちらに伸ばされた右腕。
    規則正しく上下する胸元。
    整髪料のついていない、額を覆うさらさらした前髪。
    薄っすらと開かれた、……唇。


    自分の布団から出たぼくは、そこに自分の顔を寄せた。一時間前と立場を代えた状態。ぼくの影の中にクラウチが……いる。
    クラウチの吐息がぼくの頬にかかる。


    ……ああ、温かい。クラウチの命の温度。


    鼻先も、唇も……ほんの少しだけ、先にある。
    この温もりに触れられる、倖せ。



    ……ぼくは、なんて愚かだったのだろう。
    この倖せを、自ら手放すなんて。
    クラウチがいて、ぼくがいる。
    その間にどれほどの、どんな人がいたって、それは不変だ。たとえ、みずかみんぐだって。



    更に下方に移動する。もう、触れそうだ。
    触れたい。
    触れたいよ、……クラウチ。きみに。
    万感の想いを載せた、この唇を。
    きみに、届けたい。
    受け止めて、欲しい。


    「………………」


    クラウチの唇が、僅かに震えた。
    それは、音を成さなかったが、ぼくを縫い留めるには充分だった。



    ……もう、いいだろう。もう……充分だ。



    そう、自分に言い聞かせて、ぼくはゆっくりとクラウチから離れた。
    自分の布団に戻り、伸ばされたままのクラウチの右腕に縋る。起こさないよう、そっと。
    ぼくの頬に添えたクラウチの指先が、濡れる。……夜明けまでには、乾くだろう。



    もう、寝なければ。クラウチが心配する。
    何度も思ったけど、できない。
    やがてぼくはそれを諦めて、クラウチを見つめることに専念した。
    こんなふうに独り占めできることは、二度と……ないだろう。

    整った顔立ちがこちらを向いている。
    前髪が下ろされているので、幼い頃のクラウチを容易く想起できた。
    しっかりとした鼻梁は、今よりは細かったのだろう。幼子にありがちな、口を開いて寝るタイプだったのだろうか。
    きっと、穏やかで、…でも、少しだけ、頑固な性格はそのままだったのだろう。
    表情が硬く見えがちだけど、懐の深さが涙となって滲み出るだろうから、多くの人に好かれたに違いない。




    出逢った頃、こんな気持ちになるなんて知っていたら、ぼくはどうしていただろう。
    この想いに耐えられず、彼と共にあることを拒否しただろうか。

    ……いや、それはない。そして、クラウチも同じだと思う。

    ぼくの想いを知って、同じ想いを返せずに苦しむことはあっても。
    ぼくらそのものを否定することはないだろう。
    だって、クラウチだから。
    そんな、クラウチだから。

    クラウチ、……クラウチ。



    …………大好きだよ、クラウチ。



    窓の外が白むころ、ぼくは意識と想いを手放した。



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    真砂長文倉庫

    DONE王子ハピバ!今年は当日お祝いできたぞ!やったね!
    去年の蔵王と同様、ワインとケーキで誕生会。王子二十歳の誕生日。別時空です。
    それぞれのお相手への王子の差異を書くのが楽しいです。
    CPじゃなくても仲良しなのが好きなので蔵水がっつり出てきます。

    王子誕は香水をテーマにすることにしました。だから来年までに蔵っちとみんぐの香水プリーズ!
    王子は何回も二十歳になって羨ましいw
    (初出:20240111)
    王子誕2024イコプリ「Everything is OK」 警戒区域からほど近い1LDKの単身者用マンションには、三門市立大学に通う生駒と水上、そして隠岐が隣同士で暮らしている。
     年の瀬が近づいてきた今日、生駒宅の玄関には住人の他に二足分、持ち主の異なる靴が並ぶ。一足は少しだけ踵のすり減った代赭色のスニーカー、もう一足は手入れの行き届いた暗褐色の革靴だった。個室のローテーブルに置かれたノートパソコンの画面を生駒・水上・蔵内が取り巻いている。

    「王子のイメージはやっぱり青や思うんやけど、そんな色のケーキある?」
     生駒はブラインドタッチが不得手というより雨垂れ打ちに近いため、入力担当は副官である水上である。スクエア型ハーフリムタイプのブルーライトカットグラスをかけ、キーワードを入力した。
    6226

    真砂長文倉庫

    DONEブックサンタのpixiv版がある(しかも二次OK)と知り、本命CPにメリクリして貰いました。
    (高1~高2設定)
    定番のクリスマスソングを参考にしたのですが、コレ失恋ソングなんですね。優しい雰囲気だったのでハピエンだとばかり思っていました。
    やっぱり推しには倖せでいて欲しいので、歌詞のイメージをアレンジしました。

    メリークリスマス!


    年末を機にこちらに移動。

    (初出:20231223)
    クリスマス2023蔵王「Last Christmas and... 」 防衛任務後、ボーダー本部を後にした蔵内と王子は蓮乃辺駅前に赴いていた。隣接する三門市における三年半前の大規模侵攻で一時期規模を縮小していたクリスマスイルミネーションが、漸く以前と同レベルに戻ったからである。駅前のロータリーには五メートルに及ぶ現代アーティストによるクリスマスツリーが据えられ、上品且つ華やかに彩られていた。そこから放射線状に広がる幾つかの大通りにはテイストの異なる電飾が施されていて、訪れた人々の目と心を楽しませている。更に、クリスマスソングがオルゴール版にアレンジされ、心地良い調べが街灯に設置されたスピーカーから控え目に降り注ぐ。
     ある柔和なメロディーがオルゴールで奏でられると、オブジェを撮影していた蔵内の脳内に伸びやかな歌声が想起された。そして、その歌詞も。
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    真砂長文倉庫

    DONE今年もボージョレ解禁でゲットした「オレンジワイン」の色がみんぐ色(はい?)だったので、連想してみました。蔵水とも迷ったのですが、ワインは王子のイメージだったので久しぶりの王水で。

    当日書くつもりでしたが、一瓶飲んで寝てました。出産後の断酒を経験すると加齢もあってめっきり弱くなったなぁ。
    酒は飲んでも飲まれるな。(ブーメラン)
    オレンジワイン王水「nouveau dessert」「やぁ、お邪魔するよ」
    「…………入れや」
     ここ数日でめっきり冷え込んだ玄関での問答は無意味だ。
     招かれざる客ではあったがその両手に抱えられた物を視界に捉えると、琥珀色の双眸が酷薄に輝いた。その光を凌駕する土耳古石の所有者は悠然と微笑む。勝手知ったる恋人の家のリビングに入り、ローテーブルに荷物を置いた。ふわりとスパイシーな香りが舞う。そのまま瑠璃色の上着と濃紺のスヌードを壁際のハンガーにかけ、手洗いと嗽を済ませてテーブル前に座した。ちゃっかり引っ張り出した座布団を敷いている。

    「時間ぴったり、かな?」
    「約束も連絡もせんで、『ぴったり』もあらへんやろ」
     そうは言いつつも、水上の空腹具合をぴたりと見計らって来るのが王子であることを知っている。そう水上が思っていることを王子も知っている。それは、六年前の春、高校入学時に出逢った頃から肌で感じていたことだ。知人・友人・恋人とクラスチェンジした今でもそれは変わらない。嫌悪・共感・親愛の比率が多少変わったくらいだ。変動制であるそれの現在の比率は7:2:1である。
    1973

    真砂長文倉庫

    DONE2024カレンダーに脳を焼かれて書きました。
    高3夏休み設定他色々捏造していますので、ご注意ください。
    弓場隊・王子隊全員の動向を追ってみました。

    そしたらどんどんキャラ増えた……www最早CP詐欺だろコレ。済みません。

    皆、倖せであれ。

    蔵っち、も一度誕生日おめでとう!
    蔵誕2023蔵王&ワンドロワンライ「夏祭り」(15.5時間) 『Holiday Snapshots』「ほら、できたぞ」
     ぽんぽん、と角帯を叩いて終了を知らせる。
    「どう?似合うかい?」
     くるりと身体を翻す。藍鼠の小千谷縮に銀鼠の帯を合わせた王子が、まだ唐茶色のシャツと亜麻色のアンクルパンツを纏う蔵内に問う。立てていた右膝を伸ばしていつもの視点に回帰すると、蔵内は数歩下がった。
    「ああ、似合うぞ」
     腕を組み目を細め、軽く首肯した。柘榴石が柔らかく輝く。八畳間の片隅にある、衣文掛けに掛けられた鉄紺の小千谷縮を携えようとする蔵内を、軽く制する。
    「ぼくもやってみたい。いいかい?」
     きらきらと輝く土耳古石。厚めの唇が綻んだ。
    「勿論、どうぞ。しかし、それなら俺が先に着付けて貰ったほうが良かったかな」
     無論、一般家庭で育った王子に着付けの経験はない。それでも、黙々と自分を着付ける蔵内の手際の良さに魅了され、やってみたくなってしまったのだった。だから、その提案には意味が無かった。配慮に感謝しつつ、憂慮を打ち消す。
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