蔵誕2023蔵王&ワンドロワンライ「夏祭り」(15.5時間) 『Holiday Snapshots』「ほら、できたぞ」
ぽんぽん、と角帯を叩いて終了を知らせる。
「どう?似合うかい?」
くるりと身体を翻す。藍鼠の小千谷縮に銀鼠の帯を合わせた王子が、まだ唐茶色のシャツと亜麻色のアンクルパンツを纏う蔵内に問う。立てていた右膝を伸ばしていつもの視点に回帰すると、蔵内は数歩下がった。
「ああ、似合うぞ」
腕を組み目を細め、軽く首肯した。柘榴石が柔らかく輝く。八畳間の片隅にある、衣文掛けに掛けられた鉄紺の小千谷縮を携えようとする蔵内を、軽く制する。
「ぼくもやってみたい。いいかい?」
きらきらと輝く土耳古石。厚めの唇が綻んだ。
「勿論、どうぞ。しかし、それなら俺が先に着付けて貰ったほうが良かったかな」
無論、一般家庭で育った王子に着付けの経験はない。それでも、黙々と自分を着付ける蔵内の手際の良さに魅了され、やってみたくなってしまったのだった。だから、その提案には意味が無かった。配慮に感謝しつつ、憂慮を打ち消す。
「大丈夫、動きやすいよ。クラウチ、着付け上手だね」
「まぁ、何度か自分で着ているからな」
「道理で。板についてる」
蔵内が脱いだ衣服を受け取り、衣文掛けの横にあるハンガーに掛けた。その間に蔵内は汗対策のステテコを穿く。
「ありがとう。うちの家系は長身が多いから、市販品が合わなくて誂えたものがいくつかあるんだ。だから、自然と自分で着るようになる」
乳白色のVネックTシャツと純白のステテコ姿になった蔵内に浴衣を渡した。袖を通す。
「それに、女性よりは遥かに楽だ。帯だってシンプルだしな」
「成程。羽矢さんたちも今頃頑張っているかな」
一週間前の作戦室での出来事を思い出す。
蓮乃辺市で開催される花火大会のチラシを持ってきたのは、自隊のオペレーターである橘高だった。
隊長である王子が「皆で行こうか」と誘ったところ、橘高は涼やかな目尻を和らげて辞退した。
「ののと蓮と女子会なのよ。ごめんなさいね。この前、三人で浴衣も買ったから楽しみなの」
同年オペレーター仲間である藤丸と月見とは、見た目も中身もベクトルが異なるものの大層仲が良い。そして、三人揃うと「高嶺の花束」と密やかに囁かれるほどの存在感を放つ。軽やかな声音がやや幼く響き、王子たちは長姉としてではない彼女の表情を微笑ましく見守った。今度は隊の末っ子を見やる。
「じゃあカシオはどうだい?」
「あっ、はい。おれは受験生なので……」
黒曜石が珍しく惑い、語尾を濁す。その理由を知っている蔵内が後を受けた。
「そう言ったにも関わらず、南沢と一緒に行くことになったんだよな」
「えっ、何故それを……」
「水上経由でな。いいじゃないか、たまには息抜きをしても。きっと、南沢もそのつもりで誘ったんだろう」
「いや、あれは単純に遊び仲間を探していただけです」
先日、ボーダーの自販機コーナーでドリンクを購入する時に、半ば強引に押し切られたことが脳内再生され、樫尾の眉間に皺が寄った。
「ふふっ、何はともあれ、楽しんでおいで」
生真面目な樫尾に必要な「遊び」だと思われる。だからこその、声かけであった。誠実な樫尾は素直に頷いた。
「はい!」
作戦室に穏やかな笑いが満ちた。その流れで祖父宅にある浴衣の存在を思い出した蔵内が、王子を誘って今日に至る。
蔵内の祖父宅は蓮乃辺市の会場から徒歩十分の所にあった。半年ぶりに会う孫と友人をもてなす老夫婦の言葉に甘え、浴衣の用意から宿泊までが既に整えられている。夕刻、謝礼の水羊羹を手渡した際には、人好きのする笑顔で迎えてくれた。王子はそれを少しだけ、擽ったく感じた。
蔵内のテノールが和室に落ちる。
「初心者用の『片挟み』というのもあるけど、どうする?俺と同じ『貝の口結び』にするか?」
「勿論、後者だね」
「蔵内了解。まあ、お前ならできるだろう」
「ご期待に沿えるよう、頑張るよ」
「まずは背縫いを中心に、裄丈を左右対称にする」
言いながら蔵内が自分でやってしまうので、王子の桜色の唇が尖る。
「もう、ぼくがやりたいのに取らないでよ」
「ああ、済まない。つい癖で」
「それじゃあ、後はナビだけしてよ」
「分かった。次は左前にして襟先を揃え、背縫いが背中の中心にくるようにする」
膝立ちで蔵内の前に位置する王子が、慎重に襟先を調整し蔵内に持たせる。背後に回り、背縫いの位置を確認する。
「下前を合わせてから、上前を下前に重ねる」
自分に巻かれたように座卓上にある薄手のタオルを手にする王子に、蔵内がストップをかけた。
「俺はタオル巻かなくても大丈夫。お前と違って腰幅があるからな」
その一言が、乗馬を嗜んでいても細腰に属する王子に、眉宇を顰めさせた。自分も貧相な部類ではないが、蔵内の方が一回り身体が厚く、彫像の如き魅力があるのも事実だ。黄櫨色の前髪に隠された、そんな仄かな羨望に気付くこともない蔵内が静かに続けた。
「踝が隠れるくらいに裾を調節する。そうそう、その位だ。上前の前幅を決めて、前下がりにした腰紐の中央を右脇の腰骨に当てる。両端をそれぞれ胴を一周させて、前中心から少し外して片蝶結びにしてくれ」
「こう?」
「ああ、できてる。それから腰紐の上に腰帯を巻く。まずは腰幅に取ってくれ。ここを『手』と言って、残りが『垂』となる」
王子は軽く頷くと、自分と同色且つ柄違いの角帯を手に取った。右手で『手』先を持ち、先程決めた『手』が体の中心にくるように当ててから、左手で『垂』を持ち、言われた通りに三回巻いた。
その後も幾つか手順を踏んで、漸く仕上げとなる。
「そう、『手』を折り上げて、その上に『垂』を重ねて、『垂先』を胴に巻いた帯と『手』の間に差し込んで終わりだ」
『垂』と『手』先を持つと、きつめに結んで形を整える。結び目と帯をそれぞれ持ち、右回りに後ろに回した。結び目を背中の中心からややずらして完成だ。
壁際の姿見で確認する。遠慮がちに下前と上前を引き微調整した。背後から王子が覗き込む。
「ふふっ、男前だね」
ほんのり外耳が染まる。鏡越しに優美に微笑む眼前の男の方が余程好男子だ、と蔵内は思う。
「ありがとう。王子も初めての浴衣だけど似合ってるよ。流石だな」
二度、瞬いた王子の頬に桜色が乗る。面映ゆく感じ、頬を掻いた。
「あっ、羽矢さんに写真送らなきゃ。クラウチ、スマホ」
「了解だ」
作戦室での会話で二人が浴衣を着ることを知った橘高は、食い気味に「必ず写真を送ってね!」と蔵内の手を固く握りしめた。引き気味に見ていた樫尾に「カシオくんは?」と情熱的な視線を刺す。一歩後退した樫尾は「いえ、おれは普通に制服で……」と言いかけるも「ダメよ、せめて私服で行って!そして写真をお願い!」と被せてきた。こうなった橘高は無敵だ。三人は経験上それを知っているので素直に従った。
結局、女子会三人・南沢率いる生駒隊+樫尾・浴衣コンビでグルチャに花火大会の写真を投稿することになった。
蔵内が自分のスマホを手に取り、まずは王子の立ち姿を撮る。正面・斜め後方から撮影した後、バストアップを収めると、王子に手渡した。同様に王子が蔵内を撮影する。団扇を後ろに挿した王子と、扇子を左腰に挿した蔵内の写真を見た橘高が、画面越しに拳を握ったことなど二人は知る由もなかった。
最後に、顔を寄せた二人の自撮りを送信すると、蔵内はスマホと小銭入れとタオルハンカチとウェットティッシュを信玄袋にしまう。愛用の一眼レフは残念だが留守番だ。浴衣着用時は荷物は最小限にした方が粋だ、と幼い頃から言われていたからである。洋装で花火を見る時には、必ず持参しようと心に刻んだ。
「行ってきます」
「遅くなるかもしれないから、先に寝ていてください」
「はいはい、分かったよ。いってらっしゃい、楽しんでおいで」
かろん、と下駄を鳴らした孫たちを優しい眼差しで送り出す。その音が段々と遠ざかっていった。
「クラウチ、会場に着いたらどうする?場所取り?それとも屋台を素見すかい?」
「多分立ち見になるだろうから、屋台を巡るか」
「王子了解」
坂を下り、川沿いの会場に到着する。既にそこは大勢の人で賑わっていた。晩夏の宵に流れる風を凌駕する熱気に溢れている。まだ空には茜色が残り、花火を打ち上げるまでには時間があった。
「これじゃあ、カシオや羽矢さんたちに会えそうもないね」
「確かに。カシオは生駒さんや水上がいるから大丈夫だろう。羽矢さんたちは……」
一拍、言い淀むが視線を交わした王子がチェシャ猫の如く笑んで続けた。
「……まぁ、大丈夫だろうね。結果的に」
「だろうな」
微苦笑して軽く吐息を落とす。橘高・藤丸・月見の「高嶺の花束」はその見目から、ナンパされた経験が十指に余る。同輩の十九歳男性陣や自分たちが同行している時は問題ないが、三人だけでも藤丸の男気や月見の絶対零度の視線で悉く相手をなぎ倒していた。弓場隊所属時にはそれらを武勇伝として、神田を含めた後輩トリオは何度も藤丸から聞かされていた。その度に弓場から「イキってんじゃねぇぞコラァ!」と言われるまでがお約束であった。
「わぁ、色々あるね。目移りしそう」
「確かに、いい香りがするな」
イカ焼き・ドラゴンポテト・ベビーカステラなど、様々な香りがそこかしこから漂っている。お好み焼き屋を通過した王子が声音を弾ませる。
「カゲくんとみずかみんぐが屋台を出したら、面白そうだね」
「ははっ、確かに。粉もの対決だな。年齢的にも影浦のSE的にも厳しそうだが、食べ比べはしてみたいな」
流れてくるソースの粒子が二人の熱い戦いを脳裏に描かせる。
「あっ、そうだ。文化祭の出し物でやってくれないかな」
王子がはたと手を打った。蔵内も小首を傾げる。
「その位なら、大丈夫そうか?穂刈も村上もいるし」
「そうだね、後でポカリに連絡しておこうっと」
「お祭り男の手腕に期待だな」
影浦と水上が次々と注文を捌いていく背後で、無表情な法被男が巨大団扇で煽っている風景が苦も無く想起され、ふ、と二人の口元が緩む。
「そう言えば、六頴館は文化祭には何するの?」
「うちは演劇だ。明後日の夏期講習の後、作品と担当を決めることになってる」
「へぇ、そうなんだ。詳細が決まったら教えてよ」
「うーん、どうしようかな」
顎に拳を当て、悩ましげに応じる。
「そんな、勿体ぶってないで、教えてよ」
「ははっ。分かった、分かったよ」
強めに引かれた袖を守るため、やんわりと王子の手を外させた。
牛串と鶏からと肉巻きおにぎりと野沢菜のおやきを胃袋に収めて緑茶でリセットする頃には、空は夜の顔になっていた。ベンチから立ち上がり、設置された臨時ゴミ箱にゴミを捨てる。打ち上げ開始時間も迫っていたので、散歩がてら観覧場所を探すことになった。
開始の案内がスピーカーから流れてきた。
直後、どぉん、と響く音。挨拶代わりに巨大な花が天空に咲く。そこかしこから歓声が上がった。
その余韻が消える前に、賑やかな音楽と共に小ぶりの花火が次々と打ち上げられる。
「始まったね」
「そうだな」
河川敷へと続く道を歩く。両脇には屋台が立ち並ぶエリアだ。人波の中、聞き慣れた声が鼓膜を通過した。長身の男が年若い男女の背後にいた。彼の声は鋭いので大衆の中でもよく通る。
「弓場さんだ」
「本当だ。外岡と帯島もいるな」
「あれ、その向こうにいるの……、カンダタじゃない?」
自分たちから見て二時方向に弓場隊の三人が、やや離れた十二時方向に神田・犬飼・荒船が見えた。向こうも気付いたようだ。モノクロのアロハと砂色のハーフパンツ姿の犬飼が、手を挙げた。
「会長!王子も来てたんだ」
「うん。そっちは六頴館で来てたの?」
「いるぞ、オレも」
「ポカリ!」
通話を終えて合流した穂刈が宣言する。
「浴衣で来たのか。似合ってるな、二人とも。着てくれば良かったな、オレも」
「ありがとう。ポカリも似合いそう。写真あったら今度見せてよ」
「いいぞ」
法被姿の写真もあると聞いて、後日それも合わせて見せてもらうことになった。
「おぅ、お前ェらも来てたのか」
「おつかれさまっス」
「こんばんは!」
弓場が歩み寄り、外岡と帯島がぺこりと礼をした。九人の大所帯は道端に移動しつつ会話を続ける。神田と肩を並べた蔵内が小さく問うた。
「お前、俺が誘った時には断ったくせに来たのか」
「や、俺も模試の勉強するつもりだったんだけど、荒船が『犬飼の気晴らしに付き合ってくれ』って言うから」
蔵内が息を呑む。
犬飼の誕生日の翌日に鳩原が姿を消して以来、同じ隊に属する彼が不安定なのは同輩は皆察知していた。犬飼自身が必死で隠し、触れられたくなさそうだったので、そっと見守っていたのである。一方、犬飼には「神田の受験ノイローゼを回避するのに付き合ってくれ」と声を掛けたと本人から聞いた。荒船の手腕に蔵内が舌を巻いたのは二日後の校内であった。
「ポカリは誰と話していたんだい?」
王子が隣の穂刈に訊いた。江戸紫色のシャツと中黄のハーフパンツで目にも鮮やかな出で立ちの穂刈は、通常運転の凪いだ声で応じる。
「鋼と水上だ。隊で来ているからな、あいつらは。誘ったんだ、解散したら合流しようと。OKだ、二人とも」
「へぇ、楽しそう。ぼくらも混ざってもいいかい?」
「人数が多い方が楽しいものな、勿論いいぞ」
「やったね。ありがとう」
ふふ、と朗らかに笑った王子が、先程の提案をした。穂刈の鋭い眼差しが爛々と輝く。手応えアリだ。王子はますます楽しくなった。
そのまま九人で花火を鑑賞した。語らいの合間に蔵内がスマホで撮影する。理由を聞いた弓場が「橘高、自由過ぎんだろうがァ……。嫌なら断れよ、蔵内。俺が締めておく」と肩に手を置く。退隊した自分にもまだ心を砕いてくれる。鼻の奥がツンとなった。それを悟られないように、笑顔を浮かべて「いえ、大丈夫ですから」と返す。弓場の闇色の瞳は、それさえも看破しているようだった。ぽんぽん、と肩を軽く叩かれた。
半分は自分の趣味でもある。風景や水生生物をメインに撮ってはいるが、楽しそうな人々を撮るのも心が躍った。
最後に、集合写真を撮ってグルチャに送信する。「同隊の会長が入らなくてどうするの。ほら、スマホ貸して」と撮影係を買って出た犬飼は、こんな時でも彼らしかった。同輩の五人は視線を交わして、彼の優しさを甘受した。
水上と村上が合流し、蓮乃辺駅付近のゲームセンターに向かう。道中水上が、樫尾と南沢を生駒が送り届ける旨を王子隊の二人に告げ、其々から謝辞を述べられた。
「あーあ、影浦隊と冬島隊が夜勤でなきゃ、久し振りに男子全員揃ったのになぁ」
「そうだな。でもこの人数も久しぶりだな、本部外では」
「俺、このごっつい集団に合流するの、躊躇ったもんな……。凄い圧やで、自分ら」
「お前もだろ。特に頭」
「おい。自分かて夜でもキャップ被ってるやんか。頭で俺に言えたクチかい」
「二人とも、その辺にしておけよ。村上が困ってんだろ」
「頭で言ったら、カンダタもそうだよね」
「おい王子、消しかけた火に油を注ぐな」
「オレは嬉しかったな、誘ってくれてありがとう」
村上が小さく微笑むと、「ごっつい集団」は穏やかな空気に包まれた。
実は村上が同輩で一番のキーマンじゃないかと密かに神田は思っている。所属する鈴鳴第一の隊長である来馬の下で健やかに育まれた実徳さは、SE由来で傷ついてきた生来のそれを取り戻しつつあった。その事はここにいない者も含めて、同輩全員が好ましく受け止めている。本人のいない所で「良心」とまで言われていた。
ゲームセンターに到着する。リズムゲームやシュート対決、クレーンゲームを満喫した。
三門市行き電車の発車時刻が近づいた。改札口で皆を見送ると、王子と蔵内は人の流れに逆らって緩やかに歩き出す。かろん、とまろやかな音が久しぶりに耳に届いた。
「今日は本当に楽しかったね」
ほぅ、と息を落とす王子の声が満悦したように響く。
「ああ、そうだな」
星明りが戻った空を見やり、蔵内は応じた。祖父宅へと向かう坂道は民家もまばらで街灯間も広かった。花火の煙はとうに流れ、中空に在る月光と更に遠い星光が天空を飾っていた。二人の下駄の軽やかな音と、気の早い鈴虫たちの羽音が穏やかなハーモニーを奏でている。
「羽矢さんやカシオの写真も盛り上がっていたようだったし、話を聞くのも楽しみだ」
橘高からは三人の浴衣姿や様々な甘味を満喫する写真が、樫尾からは全員参加の射的で細井に可愛いぬいぐるみを贈った写真などがグルチャに上げられていた。
今日幾度もあった弾んだ声音で、王子が提案した。
「また、みんなで遊びたいね」
「受験生だろ」
「でも、きみは推薦合格ほぼ確定だろう?みんなだって息抜きは必要だよ。弓場さんやイコさんみたいに旅行もしたい」
「それは流石に卒業後じゃないと無理だろう。女子抜きでも人数倍いるんだぞ。当真や影浦の成績だってかなり厳しいって聞いているぞ」
「あ、知ってたんだ。でもまぁ、何とかなると思うよ。大丈夫」
「その自信はどこから来るんだ……」
無責任に聞こえる台詞でも王子の口から発せられると、何故か信じてしまう。何とかしてくれると期待してしまう。深夜に輝く陽光のような笑みを湛える王子に、呆れつつも納得させられてしまう蔵内だった。
「そうだ、カンダタにも写真送ってあげようよ。いつでもホームシックになれるように」
「待て……と言いたいところだが、賛成だ。受験のお守りにしてもらおう」
歩を止めて、数枚送信した。すぐに既読がつく。返信が来た。
「来年は九州の花火を一緒に観よう」
「ふふっ。流石カンダタ、余裕あるなぁ」
「はははっ、良いな。楽しみだ」
軽やかな下駄の音が再度夜道に響く。それは、二人の心境とシンクロしていた。