普通の人間と、普通の人間よりも大層体の大きな人間、その二種類がいる。双方に体の仕組みに差は無いが、身体能力の高い者は大きな方に多かった。とにかくただただ違うのは大きさだけだった。軍には大きな人間が多い。表向きは優れた身体能力云々といっているが、大きければ無能でも普通の人間の盾にはなれるから。そんな軍の世界でしか生きれぬ自分に、大きな貴方はその指で摘むにはさぞ大変であったろう小さな野の花を指先で掴んで俺に渡して、綺麗だろうと笑った。見上げた首が痛くなるほどの体格差。名も知らぬ野花を俺の腕ほどの太さのある指先から受け取って、そうですねと応えた。それ以外に言葉が浮かばなかったから。物置部屋を漁って花瓶を探し出すと、そこに活けて執務室の窓辺にそっと置いた。自分の執務机の何倍もある大きな机でせっせと書類仕事をこなす大きな少尉の真剣な顔をちらりと見、そして自分も仕事に戻る。
翌日、両手で抱えきれないほどの美しい花々が包まれた花束を貰った。渡してきたのは勿論大きな少尉殿で、お前に受け取って欲しくて、花屋で長い時間悩んでしまったとはにかむように笑っていた。自分には両手いっぱいの花束だったが、彼にとっては一握りだ。きっと物足りない事だろう。
ありがとうございます、と言う。
うん、と返される。
お返しをしたいのですが、と見上げる。
うん?と見下ろされる。
後日、二人で小さな小さな苗木を植えた。いずれ大きな桜の樹になるそれは、自分から貴方への一輪の花の贈り物となるのだ。