ふつうの生活 一話目 1
依頼人の女性は、芹沢が持ってきたお茶に手をつけようとはしなかった。
霊とか相談所に来る相談は霊幻が数年前にテレビ出演で起こした騒動を経てから、七割は肉体的な不調によるもので、三割は本物の心霊相談になっていた。
今回の相談は三割のうちに入るものだと、霊幻は感じていた。根拠はないが、この仕事を長くやっているので大体当たる。
湯呑みからは淹れたばかりのお茶の湯気が浮かび上がる。女性の膝の上に揃えられた手に皺は少なく、ベージュに塗られた爪はきれいに整えられている。落ち着いた焦茶の髪色と地味な化粧に、パンツスーツ姿が、女性の周りに流されない意思の強さと有能さを教えていた。
先に書いてもらったアンケート用紙には名前と電話番号、自由記入欄に年齢と職業と住所、そして相談事があるが、彼女——宝城まり子はすべてを埋めていた。四十三歳、金融業。住所は調味市内になっている。相談事は霊障に丸がついていた。
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