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    azurem00n

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    azurem00n

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    ネロお誕生日おめでとうございます。
    日付変わる頃のシャイロックのバー(ゲストはオズ、フィガロ、ミスラ、ルチル)と、東の魔法使いでブランチ。

    ##CPなし

    ネロ誕生日2022げっ。
    そこに居並ぶ顔をみてすぐさま扉を閉めなかった自分を褒めたいような、後悔しているような。
    「おや、いらっしゃい。ネロ」
    どうぞ、お入りになって?とシャイロックに招かれてしまっては歩みを進めない訳にはいかない。
    「ネロさーん」
    ひょこりとミスラの影から顔を覗かせたルチルがこっちこっちと招くように手を振った。居並ぶ面子はカウンターにオズとフィガロ、ソファーにルチルとミスラ。北でこんな状況に遭遇しようものなら、すぐさま回れ右をして全力で逃げろ、という面子が揃っている。いくら賢者の魔法使いとなって彼らの違った側面を知ったところで、本能的な恐怖というのはなかなか拭い去れないもので、こういうときネロはいつだってどこか心が落ち着かない。
    ルチルには笑みを返して、オズとフィガロから数席離れた、シャイロックの目の前のスツールを選んでバーカウンターに持参したバスケットを置く。おそらくその場の面子にネロが少しばかり萎縮したのをみて、先にふたりから少し離れたところに立っていてくれたのだろう。
    これでネロはシャイロックに話があるのであって、わざとオズとフィガロから距離をとったわけではないのだ、と言い訳ができる。ちら、とシャイロックへ視線をやればなんでもお見通し、と言わんばかりににっこりと笑みが返ってきた。それはムルの、目も唇も弧を描く、猫のような無邪気な笑い方とそっくりで、ネロはひくりと口の端をひくつかせる。
    ネロだって、そこそこ生きてきてはいるけれど、やはり千年の時を超えて生きてきた魔法使いはそら恐ろしい。東の魔法使いたちの中では最年長といえど、この場では下から二番目である。
    そんな言ってしまえば化け物みたいなやつらの中で、最年少なのに平然としてる、むしろ話題を振ったりして場の空気の中心になっているルチルもまた大物なんだろう。
    若いって怖い。知らないって怖い。
    いや、それとも大魔女の血が流れるゆえなのか。
    とはいえ、シャイロックに助けられたのは事実なのでありがたくその席に座らせてもらう。
    「腹が減りました」
    すん、と鼻を鳴らしたミスラの視線がじぃっとネロの持参したバスケットに注がれた。
    「あぁ、これか。シャイロックに新作の味見頼もうと思って」
    「俺が食べます。ください」
    「それでは皿に分けて盛りつけましょうか」
    「いいですよ、そのまま食べます」
    「ミースラ」
    フィガロが嗜める響きを持ってミスラを呼ぶ。
    「ネロが作ったものなら俺たちだって食べたいさ。みんなでご相伴に預ろう」
    ミスラはむすりと唇を尖らせはしたものの大人しくいうことを聞いている。魔道具を出されるような事態にならなくてよかったと胸を撫で下ろせば、ふふ、と楽しそうにルチルが笑う。
    「すごいでしょう、フィガロ先生。さっきバーに入ったときにもオズ様に喧嘩売りそうだったミスラさんを止めてくれたんですよ」
    仲良しさんになったんですねぇ、とにこにこしているルチルには悪いが、さぞそのときのフィガロの笑みは冷ややかなものだったに違いない。
    どこをどうみたらそう見えるんです、なんて早速ミスラからも苦情が入っている。
    「オズもミスラもなんとなく弟気質、っていう感じしない?俺はどっちかといえば兄気質だと思うんだよね。だから、扱い方がわかるんだよ」
    「……誰が弟だ」
    「ちょっと、気持ち悪いこと言うのやめてもらえます?」
    「あっ!ミスラさんが弟っぽいっていうのはなんだかわかる気がします!」
    ちいさく眉を顰めたオズと、心底嫌そうな顔をしたミスラとパン、と手のひらを合わせて笑顔になるルチルの三者三様の反応にフィガロは満足そうに笑う。ルチルはミスラに抗議がてら頬をつねられていたけれど。
    そんな光景を眺めながらバスケットから容器を取り出していけば、それをシャイロックが手早く三枚の皿にそれぞれ盛りつけていく。つまみだからそんなに量も種類もないはずだったのに一端の前菜のようになっていくのはさすがだった。
    「……おや?」
    ふとシャイロックが手を止めたかと思えば、並ぶ酒瓶にゆったりと目を走らせる。
    「《インヴィーベル》」
    ふわ、といくつかのボトルが宙を舞って、シェイカーに中身が注がれる。優美なしぐさでそれが構えられて何度かシェイクされた後、とろりとカクテルグラスに注がれたのは、麦のような黄金と淡い青がやわらかくグラデーションを描く綺麗なカクテルだった。まぁ、とルチルも感嘆の声を上げる。
    「日付が変わっていたようです。おめでとうございます、ネロ」
    「あっ、そうだ、ネロさんのお誕生日ですね!」
    パッとソファーから立ち上がったルチルがパタパタとネロのもとへ駆け寄ってきて手を取った。
    「おめでとうございます、ネロさん!せっかくですから踊りましょ?」
    多少酔いも手伝ってか、ぐいぐいとネロの手を引くルチルの額をこら、とシャイロックの指先がとん、と軽く小突く。
    「いけませんよ、ルチル。ネロは人気者ですから順番に」
    「はぁい、ごめんなさい!シャイロックさんのお祝いカクテルきらきらしていてとっても綺麗!」
    素直に退いたルチルはソファーには戻らずひとつ間を開けてスツールに腰掛けた。
    さぁ、どうぞ。
    すっとネロの手元に滑らされたグラスをそっと持ち上げて、少しばかり明かりに翳せば確かにどことなくきらきらとしていて、自分の誕生祝いには綺麗すぎるくらいだった。口をつければ、もちろん味はしっかりとネロ好みのものだ。
    「うまいよ。ありがとな、シャイロック」
    「ふふ、光栄です。……さぁ、次が控えてますよ」
    わくわく、とした表情でネロをみてくるルチルは普段が落ち着いているだけに、年相応でなかなか新鮮だ。けれどどうにもここで、というかこの面子がいる中で踊るというのはネロにはなかなか頷き難いおねだりである。
    「ほら、ネロさん踊りましょ!フィガロ先生、何か弾いてください!」
    「はいはい、ルチルはおねだり上手なんだから」
    《ポッシデオ》とフィガロがちいさく唱えれば、その手にリュートが現れる。
    「誕生祝いに一曲、フィガロ先生のリュートを捧げよう」
    「じゃあ俺も踊ってやりますよ」
    むんずとミスラから後ろ襟を掴み上げられたネロの喉はぐえ、と悲鳴をあげる。
    「もー、ミスラさんってば、さっきシャイロックさんが言っていたでしょう?順番ですよ、って」
    「そうでしたっけ?だってフィガロは参加してるじゃないですか」
    「ふふ、待っているのが寂しかったんですか?しょうがないなぁ、じゃあみんなで踊りましょう!」
    パッとオズの方をルチルが振り向けば、オズはたいそう苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
    「……わたしは草笛ぐらいしか吹けない」
    ふい、とそっぽを向いた顔と、その物言いは確かに――拗ねたこどものようだった。
    ぷっ、と噴き出して笑い出したフィガロが意外なくらいやさしい顔をしてもう一度呪文を唱えて、オズに指先を差し出す。
    「ほら、こういうのでいいの?少し音を増幅する魔法をかけておいたから」
    せっかくだからおまえも混ざったらいい。
    かすかな、ルチルには聞こえないくらいの声音は確かに、弟を思う兄のような響きを持っていた。
    「それでは私も今日はそちらに参りましょう」
    シャイロックがカウンターから出てきて、ネロの、ルチルに取られているのとは反対の手をとる。
    オズの草笛。
    フィガロのリュート。
    ミスラとシャイロック、それからルチルが自分をダンスに誘う夜。
    「っふ、はは!」
    誰が予想できただろう。こんな夜など。
    「ルチル、あんたすごいな」
    自分がどういう状況を作り出したのかなんて、まったく自覚のないルチルはきょとんと目を瞬かせて首を傾げたけれど流れ出したリュートの音に、早速ネロの手を引いてくるくると回り出す。
    とんだ夜もあったものだが、悪くはない気がした。



    ――朝。というかもう昼に近い時間。
    ネロの朝食当番は「わたしがやります、むしろやらせてください!こんな日くらい、たまにはのんびり寝てください!!」とカナリアが言ってくれたおかげで、ずいぶんと寝坊をした。起きて、夜中の自分の振る舞いは大丈夫であったのだろうかと少しばかり心配になるが、まぁ、そこはそれ。きっとルチルに会えばあっけらかんとした笑顔で「楽しかったですね!」と言ってくれるだろう。
    ふわふわと覚醒と微睡を行ったり来たりしながら起き上がるかどうか迷っていれば、ドンドン、と部屋の扉がノックされる。
    「ネロ、起きてるか?」
    「起きてるよ、ちょっと待ってな」
    寝起きのボサボサの髪を手櫛で整えて、扉を開ければそこにはシノとヒースクリフの姿があった。
    「おはよう、ネロ。今日は俺たちでブランチを準備したんだ。中庭に準備してあるんだけど、どう、かな?」
    「おはようさん。ありがとな、おまえさんたちが準備してくれたんならもちろん食べたいさ。身支度してから行くから先に行っててくれよ」
    こどもたちふたりは顔を見合わせて、ほころばせて、それからシノが早くな!と念を押してパタパタと駆けていく。
    着替えなんかを済ませて中庭へいけば、ばっちりと整ったテーブルで、ファウストがゆったりと紅茶を飲んでいた。こどもたちは、ネロが来たからと淹れる紅茶や、作ってくれたというブランチの準備をしてくれている。
    「おはよう。昨夜はずいぶんとお楽しみだったみたいだね」
    「言い方……。まぁ、そうだな。なかなか珍しい夜だったよ」
    「ルチルが朝から教えてくれたよ。一緒に飲んで、踊ったんだよ、って」
    俺たちはまだ飲めないからちょっとうらやましいな、とヒースクリフがはにかむように笑う。
    「別に踊るのはいつだっていいだろう。西の連中は四六時中踊ってる」
    ずるい。みたい。だから俺とも踊れ。
    シノがネロも含めて、東の魔法使いを誇らしく思ってくれているのも、好意を向けてくれるのも微笑ましい。「東の魔法使い」に縄張り意識のようなものを感じているところもどことなくこどもらしさがあってかわいいもんだ、と思う。
    「他の国のやつらのおねだりは聞くのに、俺たちのを聞かないのはおかしいだろ」なんてことばはよく聞くもので、そのたびにネロはくしゃくしゃとシノの頭を撫でながらはいはい、と返事をしてきた。
    だからこそ、まっすぐなおねだりは、基本的には好ましいのだけれど……それはちょっとキツくないか。
    「いや、素面じゃ無理だろ。ああいうのってその場の雰囲気っつーか、ノリと勢いというか」
    「ふぅん」
    「先生?」
    「《サティルクナート・ムルクリード》」
    唐突に呪文を唱えたかと思えば、その手には見覚えのあるリュート。
    「それじゃあ僕が雰囲気とやらを作ってあげよう」
    「ずっる」
    青空の下、静かに流れ出すリュートの音。
    「よくやった、ファウスト」
    満足そうな顔をしたかと思えば、シノは片足をひいて手を差し出してくる。
    「お手をどうぞ?」
    「おまえさん、ほんっとそういうのどこで覚えてくんの」
    「従者の嗜みだ」
    「へーへー、有望なこって」
    やけくそとばかりにシノの手を取れば、ヒースも、とシノが促す。えっ?と驚いて少し頬を染めたヒースも、綺麗なお辞儀とともに手を差し出してくる。
    そんなに嬉しそうにされてしまっては、こちらが照れる。
    「ふふ」
    「先生」
    非難めいた声色を乗せれば、ファウストはわざとらしい咳払いをして、誤魔化すようにリュートを奏ではじめる。
    引っ張られて、くるりと回って。
    音楽にあっているのやら、いないのやら。
    けれどこどもたちが楽しそうに笑うので、もうそれでいいか、とも思って。
    「つーか、ファウストも来てよ!」
    完全に傍観者として楽しんでるが、ファウストだけそこにいるのはずるいだろう。やけくそのように叫んで腕を掴んで引っ張り上げる。

    そうして、こどもらが、というかシノが満足するまで踊れば、気づけば全員の腹が悲鳴を上げていて。
    準備してくれていた紅茶はもちろんもうすっかりと冷えきっていたから、もう一度淹れなおして、それからこどもたち渾身のブランチを腹に納めたのだった。
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    zo_ka_

    REHABILI大いなる厄災との戦いで石になったはずのネロが、フォル学世界のネロの中に魂だけ飛んでしまう話1俺は確かに見た。厄災を押し返して世界を守った瞬間を。多分そう。多分そうなんだ。
     だけど俺は全て遠かった。
     ああ。多分、石になるんだ。
    『ネロ!』
    『石になんてさせない』
     ぼんやり聞こえてくる声。クロエと、後は、ああ……。
    『しっかりしろ、ネロ!』
     ブラッド。
    『スイスピシーボ・ヴォイティンゴーク』
    『アドノポテンスム!』
     はは、元気でな、ブラッド。早く自由になれると良いな。囚人って身分からも、俺からも。
    『ネロ……‼‼』
    「……」

    「なあ、ブラッド」
    「何だよネロ」
    「今日の晩飯失敗したかもしんねぇ」
    「は? お前が?」
    「なんか今日調子がおかしくてよ。うまく言えねぇんだけど、感覚が鈍いような……」
    「風邪か?」
    「うーん」
     おかしい。俺は夢でも見てるんだろうか。ラフすぎる服を来たブラッドがいる。それに、若い。俺の知ってるブラッドより見た目が若い。傷だって少ない。
     何より俺の声がする。喋ってなんてないのになんでだ?
    「ちょっと味見させてくれよ」
    「ああ、頼む」
     体の感覚はない。ただ見ているだけだ。
     若いブラッドが目の前の見たことのないキッチンで、見たことのない料理を 2283