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    azurem00n

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    azurem00n

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    『OO』後のお話。
    晃牙くんがずっとしょんぼりめ。

    ##零晃

     ステージを降りて客席へと向かえば、先ほど見かけた場所に探す姿はなくて、きょろきょろと周りを見渡した。
    「薫くん、アドニスくん、晃牙は一緒じゃなかったのかえ」
    「零くんおつかれ~」
    「朔間先輩、お疲れ様、だ。大神なら外の空気が吸いたいと出ていってしまったが……」
    「具合でも悪くしたかのう?」
    「ん~そんな感じでもなかったけどな」
     ついさっきだよ、出て行ったの、という薫の返答に礼を返して、会場の出口まで向かう。「最強決定戦」と謳われた『OO』の、最終決戦直後。そのステージに上がっていた張本人がいるとあれば、まだ熱に浮かされたような観客たちからの視線は痛いくらいだったけれど、それに気づかぬふりをしてするすると合間を縫っていく。
     会場を出て、しばらくきょろきょろと周囲を見渡しながら歩いていれば、桜の樹の下にしゃがみ込んだ晃牙と、その隣で幹に背をもたれ掛けるようにして立っている敬人の後ろ姿を見つけた。
     声をかけようとして、聞こえてきた晃牙の声にはた、と足が止まる。
    「あんたたちは――あのひとはいつだってそうだ」
     俺様だけ蚊帳の外で、こっちがどれだけ心配しようが、役に立ちたい、助けたいって思おうが届かない。そんなもの必要じゃあ、ない。俺様ばっかり必死で、なのに全部空回りで、それが、悔しい。
     そう言って、晃牙は立てた膝に顔を埋めた。
    「俺とて朔間さんを全部理解できているわけじゃない」
    「てめ~も俺様を蚊帳の外にしてんのは同じだろ」
    「拗ねるな」
    「うるせえよ」
     覇気のないそれに小さくため息を吐いた敬人が、組んでいた腕を解いて、そっとおろした。敬人だって、普段あまり表に出すことはないけれど、晃牙を可愛がっている。だから慰めるためにであろう、頭を撫でようとした敬人の手首を、零はしかと握って止めた。
    「だめじゃよ蓮巳くん。それは我輩の役目じゃから」
     顔を上げた晃牙と、こちらを振り返った敬人のふたり並んだまんまるの目に少しだけ口元を緩ませていると、敬人が腕を振るって零の拘束を解く。
    「自分の役目だというなら放っておくな。貴様は毎度毎度腹芸ばかり上手くなって言葉が足らん。言わずにわかってもらおうなんて傲慢でしかないし、それで悟ったように失望して、諦めるのは貴様の悪い癖だ」
    「はは、耳が痛いのう」
    「ふん、ずっと言ってやりたかったんだ」
     まったく、と敬人こそ拗ねたようにふい、とそっぽを向いて言ってくるものだから幼い頃を思い出してつい笑ってしまう。ギロリと睨まれもしたがそれさえ懐かしい。
     あの日道を違えたときの曲が、こうして今では昔を懐かしみ、楽しんで演れる曲に変わったように、過ごした時間の意味も少しづつ形を変えながらも消え去ることはない。
     敬人と過ごした時間は、零にだって大切な思い出だったのだ。
     去っていく敬人の後ろ姿をしばし見送って、まだぽかんとした顔のままの晃の前にしゃがみ込んで視線を合わせた。
    「あんたの役目、ってなに」
    「ん?」
    「さっき言ってた」
    「あぁ」
     くしゃ、と晃牙のこめかみあたりから手を差し入れて、そっと撫でる。
    「しょんぼりしていたら、慰めるのは飼い主の役目じゃろ?」
     いつもは飼い犬扱いするなとがなりたてる晃牙が不服そうな顔をしながらもおとなしく受け入れているのは先ほどの言葉のせいだろうか。
    『必要じゃない』『全部空回り』
     
     ――そんなこと、ないのに。
     
    「ほら、そんなところにずっと座っておるとお尻が冷えちゃうじゃろう」
     よいしょ、と晃牙の手を取って立ち上がらせれば、ジジクセェ、の悪態も力ない。視線も合わないままで、表情もどこか悲しげに見えた。
    「……よかったのかよ、『また』悪役なままで」
    「うん? ……あぁ、いいんじゃよ。今回はみぃんな納得済じゃもの」
     あのときのように踊らされただけじゃない。見て見ぬふりをしたわけでもない。自分たちが立ちたいからステージに上がって、「友」と歌い踊るのを楽しんだ。零にとってはそれだけだ。色々と思惑も裏では走っていたようだけれど、あのときも――その「思惑」で思いがけず大切な友を得たように、今回も思いがけずその友たちとともに歌う機会を得た。
     悲劇は、喜劇へ形を変えた。それで十分だ。
    「我輩、かっこよかったじゃろ?」
    「うん」
    「おぉ、めずらしく素直じゃの」
    「ダンスもいつもと違って……なんて~のかな、やわらかい? 感じ。あぁいうのも似合うんだな」
    「ふふ、みぃんな、楽しそうだったじゃろう?」
    「おう」
    「だから、いいんじゃよ」
     そう言葉を連ねても、晃牙の表情は晴れない。
    「なにを拗ねておるのかや?」
    「……すっ! ねてはね~し! あんたが、楽しそうだったのは嬉しかったし」
    「じゃあどうしてそんな顔しとるんじゃ」
     頬を包むようにして、晃牙の目尻を親指の腹でなぞる。
    「内緒にされてたと思った? ……蚊帳の外だと感じてしまった?」
     ぴくりと晃牙の肩が微かに跳ねる。
     今回は内緒にするも何も、零自身だって急に知らされたことなのだけれど。
    「すまんの。蓮巳くんと話してるのちょっぴり聞こえてしまっての。」
    「……わかってんだ。あんたに追いつけてないことくらい。まだ頼ってももらえないってことも。自分では少しくらい成長したつもりでも、昔、あんたの都合も気持ちも考えね~でガキみてぇについて回ってたあの頃と、今もなんも変わってねぇ~んじゃねぇかって」
    「そんなことはないじゃろ。頼もしくなったと思っておるよ。……こども扱いしてるつもりはないんじがのう、逆先くんへといい、愛し子たちにはどうにも年長者ぶってしまうんじゃよ」
     そこは、許してほしい。年上としての幾ばくかの矜持だ。
     たった数年でも先に生まれた者として、できれば笑って過ごしてくれるよう、立ち塞がるものは払ってやりたい。それが必要な困難であれば立ち向かわせもするけれど、理不尽に傷つくような目には遇わせたくない。
     少しくらいかっこつけさせても欲しいのだ。
     だって。
    「…それに、好いておる相手の前ではかっこつけたいものじゃろう?」
     ぱっと晃牙が目を瞠る。かっこつけたいなんて言っておきながらどうにもかっこつかないけれど、口をついてしまったのだからしょうがない。
     しょんぼりとしている晃牙は見たくないし、想いが通じれば重畳、そうでなくても、「からかってんじゃねぇ!」といつものがなり声がでれば、今はそれでいいと思った。
     さて、どうくるか。
     わな、と晃牙の唇が震えて、声を出すために空気を吸った。どくり、と心臓が跳ねて、痛い。
    「いっ、イカサマ野郎のことそんな目で見てたのか!?」
    「……なんじゃって?」
    「今言ったじゃね~か! 好きなヤツの前では、って」
     言ったけれども。
    「おぬし、そんなにアホの子じゃった?」
    「ふがっ」
     えい、とちいさく鼻を摘まめば間抜けな鳴き声のあとになにすんだ!と噛みついてくる。
     うん、それでいい。
     晃牙の、そういうところが、いいのだ。
    「どうして今の話の流れで逆先くんになるのかのう。どう考えてもおぬしじゃろうて」
    「……なんっ、で」
     あんたを傷つけてたのに、と震えた唇からきっと晃牙の、零への一番の後悔がこぼれ落ちた。
     あぁ、今もまだずっと、それに負い目を感じていたのか。
     ――確かに、捨て去りたかった己を切望し、慕う瞳は零を傷つけるものだった。うざったくて、重苦しくて、わずらわしいものだった。
     けれど同時に、切望しながらも、変化を求めた零に寄り添ってくれたことは、ずっと変わらず傍にいてくれたことは、救いだった。
     傷つけながら、返す刀で晃牙はそれを癒しもしていたのだ。
     悲しいときはぼろぼろと大粒の涙を流して、納得のいかないことには全身で怒りを、悔しさを示して、腹の底からその感情を力いっぱいに叫ぶ晃牙は、零にはまぶしくて。
     外からみれば「こどもっぽい」と嘲笑されてしまうくらいのまっすぐさは、貫くことに強さがいるのだと知っている。
     その振る舞いがまだ許される時分から、零ができなかったことを、晃牙が代わりのようにやってくれたことが、どれだけ零を充足させたか晃牙はわからないだろう。
    「馬鹿じゃの」
    「は、あ!?」
    「そんなもの、もうとうに癒えておるよ。おぬしが、ともにいてくれたから」
     晃牙を抱きしめる。この、熱いくらいの体温を何度求めたことだろう。ぽかぽかと、あたたかい、ひだまりみたいな子。焦がれてやまない、まぶしさ。
    「だからこれからもずっとここにいておくれ」
     ちいさな唸り声とともに、そろりと背に手が回されて、ぎゅう、と衣装の引っ張られる感覚。顔を擦り付けられた肩はすこしだけ、冷たい。
    「……そんなこと言ったら、ぜってえ離れてやんねえからな」
    「望むところじゃよ。おぬしが息を吹き込んで甦らせたんじゃもの、責任とってもらわんとのう」
     ぎゅう、と背中に回された手にさらに力が入って、押し付けられた分、肩の濡れた部分を強く感じる。
     ぽんぽん、とあやすように背中を叩けばぐずるような唸り声がまたも聞こえて。
    「泣き虫さんじゃの」
    「バカヤロー、あんたのせいだ」

    あんたのことでだけだよ、こんなん。

     ぶっきらぼうな愛のことばに口元が緩んで、柄にもなく緊張していたのか、ほっと胸を撫で下ろしたのは零だけの秘密だった。
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