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    肝缶ω

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    肝缶ω

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    過去に付き合ってた半ロナ。
    194死の後のしゃぶしゃぶ。
    伝説の木の衝撃と、悔しさと、少しのアルコールの力を借りてちょっと素直になった半田。

    「身を引け」と思わせる気など更々無い 時間制限三時間のしゃぶしゃぶ食べ放題が半分ほど過ぎた頃だった。ひとしきり肉をひたすら食べて、それで出た灰汁をせっせと掬っていた半田にカメ谷が交代を要求し、しばらく経ってから。あまり減っていなかった半田のウーロンハイが一気に空になった時に突然やってきた。
    「貴様!巨乳のお姉さんとの交際はどうした!!!!」
    「いきなり何の話!?」
     正面から指され、ロナルドは程よく白に染まった牛肉を箸でつまんだ状態で叫んだ。カメ谷は灰汁取り用のお玉を置きながら、半田の隣できょとんとしてる。
    「今日の体たらくのことだ!バカめ!!あの無様な姿は!!たまたまにく美さんが通りかかったから助かったものを、吸血鬼の能力に恋心まで操られおって!」
    「おまッ!仕方ねぇじゃん!半田は催眠かかんなかったから人のことそうやって言えるけどよぉ!つか質問に質問で返すな!!巨乳のお姉さんって何!!?」
     そう反論すれば半田がヒートアップした。
    「貴様ッ…!!!くだらん夢だが絶対に叶えてやると貴様が言い切ったから別れたのだろう!この大バカめ!!」
     驚いたのはロナルドだ。
    「わ、ちょっとバカお前!は??なんで今そんなこと言い出すんだよバカ!!」
     ロナルドは慌てて半田とカメ谷を交互に見た。そりゃ、カメ谷だって昔半田とロナルドがほんの少しの期間だけ、付き合っていたことを知らないわけではないが、わざわざ別れた時のことをロナルドだって詳細までは話してない。いきなり友人同士の過去の生々しい話はまずいだろう。…なんていうロナルドの心配などを他所に、カメ谷は「あー」と何やら納得したような顔をして、半田に言った。
    「それでなんかモヤモヤしてたんだ?」
     気にもせずに野菜を湯に潜らせている。
    「え?カメ谷、俺たちがその、わ、別れ…た時のこと知ってんの?」
    「いや?詳しくは知らないけど」
     カメ谷はそう言いながら野菜をポン酢だれにつけた。
    「でもさっきから半田がなんか言いたげなのは気付いてた」
     さすがカメ谷だぜ。スクープを追い掛ける記者としての感の鋭さなのか、長年友人をやってるからこそわかる何かなのか。残念ながら「んじゃ、しゃぶしゃぶに行くか」とカメ谷が発言してから、今の今までロナルドの頭にはしゃぶしゃぶのことしかなかった。半田の変化に気付かなかったのは何か少しだけ不甲斐ない。が、付き合ってたのなんてだいぶ前の話だ。別れてから今まで何も言わなかったのになんだコイツは。
    「…なんでその話すんだよ」
     ロナルドは口を尖らせる。
    「アレでせずに居れるか」
     そう答えながら半田はタッチパネルで追加のドリンクを頼んだ。他の注文も聞かれたから追加の豚肉をロナルドはリクエストした。カメ谷は日本酒を頼んだ。
    「はぁ?どう言う意味だよ」
     二人が交際に至ったのはそう、なんか…こう、何となしに、言ってみればそういう流れだった。ちょっと良い雰囲気になってしまったのだ。実際半田と「恋人」をするのは楽しかったし、半田も楽しそうだった、と思う。
     だがロナルドは、半田との「恋人関係」より、捨てられなかった「おっぱいが大きくてエッチな優しいお姉さん」への夢を選択した。つまり「やっぱり俺、いつかは巨乳のお姉さんと付き合いたいから別れて欲しい」と頼んだ。
     関係性を終わらせるのは罪悪感がなかったわけではないが、半田だってこれからどんどん環境が変われば、きっと可愛い彼女だってすぐできるだろうし、そうなった方が俺と付き合うよりずっとずと良いんじゃね?と、当時ロナルドは思ったの…だが。ていうか、…あれ?半田って本当に彼女いないんだっけ?
     急に湧き出てきた疑問に目を泳がせていると、サラダをつまみながらその様子を眺めていた半田が口を開いた。

    「ロナルド、俺と付き合え」

     突然の命令、というか告白にロナルドは一瞬、半田が何を言っているのか理解できなかった。ただ、どうやら半田に彼女はいないらしい。という疑問はすぐに解決した。まぁそうなんだろうけど。彼女がいてそれで俺への嫌がらせに時間かけてんの色々怖いんだけど。
    「って、なんでそうなるんだよ!!」
     ロナルドは思わず叫んだ。
     カメ谷も口の中の物を咀嚼しながら視線を半田の方に向けた。視線はそのまま豚肉を箸でつまむ。
    「いつまで経っても実績ができない上に嘘偽りの恋心など植え付けられるからに決まっているだろう馬鹿め!俺と別れてからどれ程経ったと思っている?教えてやろう!今日で五年九ヶ月と十二日だ!!」
    「え…俺もうそんなに時間を浪費して…って何で数えてんだよ!!」
    「貴様がそのわやわやした理想とやらを達成するのに何十年かかるか記録するために決まっているだろう!!!!」

     煽るような顔が非常にムカつく。カメ谷がカメラのシャッターを切る。ロナルドは反論した。
    「お前こそなぁ!俺のことばっかに脳のリソース使うのやめて他の子に興味持てばすぐ彼女くらいできるんじゃねぇの!?俺が絡まなきゃマトモらしいし!?俺は知らねぇけど!?」
     半田は「は?」と眉を顰めると、心底意味がわからないという顔でロナルドに言った。
    「貴様がいるというのに、俺に一体他の誰のことに興味を持てというのだ!?なぁカメ谷?」
    「あ、うん。なんかすげぇ事言ってる気がするけど、まぁお前にとってはそうなんだろな」
     急に話を振られたカメ谷は半笑いで答えた。そこに、スタッフが追加の品を持ってやって来た。
     ロナルドは固まった。
     何、今の。俺の勘違いじゃなかったら、まるで半田、俺以外に全く興味ないみたいじゃん。いや、実際そうなのかもしれないけど。違う意味っていうか。あれ?そうこうしていると半田は追加のサワーを一口飲んでこう言った。
    「だから俺と付き合え!無意味に空席にしておいたところで碌なことにならんということが今日ハッキリした!また貴様の恋人の席に俺を座らせろ!!」
    「どんな理屈だよ!?てめ何言ってんのかわかってんの!?」
    「わかっている」
     偽りない半田の台詞に、ロナルドは少し怯んだ。が、嫌味のように言った。
    「はーん?酔ってんだろ!?」
    「ふん!多少は酔っている!だからカメ谷に証人になってもらうのだバカめ!!」
    「はは、勝手に任命してんなぁ」
     ちびちびとカメ谷もお猪口を口に運ぶ。

     え…マジなの?どうしよう。
     まさかこんなことになるとは思わなかった。っていうかこのまま過去の淡い思い出として消えていくんだと思ってた。
     半田はあの時すんなり了承したし、あけ美さんのこととかもあってちょっと気まずい時期もあったけど、結局今こんなだし。それなりに仲良くしてるつもりだし。いや、マジで俺の醜態宣伝して回るのとセ⬜︎※はやめてほしいけど。
    「嫌か」
    「え」
     嫌、なのか?と言われるとそうじゃない。セ⬜︎※はムカつくが、そもそも嫌いで別れたわけじゃないし。
    「で、でもそれだとよ、もしなんかその、エッチな巨乳のお姉さんと俺がこう、良い感じになったら…」
     ロナルドは苦し紛れにそう言いながらも、流石にこの言い訳はないな、と自分でも思った。「無条件で甘えさせてくれるエッチな巨乳のお姉さん」なんてのは「ぼくのかんがえたさいきょうの〇〇」くらい非現実的なもの。桃源郷のようなものだってことくれらいは、さすがに気付いている。チラリ、と半田を見ると「フン」と短く唸ってキッパリと言い切った。

    「俺と別れてでも一緒にいたいと思えるような相思相愛の巨乳のお姉さんとやらが現れれば、その時はその席からまた身を退いてやるわ!ただし宿敵である運命と監視からは逃れられんがな!!」
    「へ?」
     ロナルドは驚いた。
    「また一度身を引くって何それ」
     思わず食い気味で聞くと、半田が驚いた様子で目を大きく開いた。
     その時ロナルドの頭に蘇ったのは、別れ話をした時の半田の様子だった。
     だってあの時、理由は聞かれたものの、答えれば案外すんなりと手を離してくれて、それは別れを切り出したロナルドも、ちょっとショックを受けるくらいだっのだ。
     次に偶然会った時には恋人独特の甘さのようなものを持った態度が完全に消えてしまったことに「やっぱり半田はもう俺のこと好きじゃないんだろうな」と、自分から言い出した癖にすごく寂しくて、同時にちょっと安心したのに。
     ———だって、思ったのだ。これ以上半田と居たら、俺本当に、もう一生半田だけで良いやって思っちゃいそうだし。って。

     それくらい恋人期間の半田は、ムカつくのにカッコよくて、やっぱバカだけどかわいくて、素直じゃないけど何かが伝わってきて、それで半田相手なのに「キュン」ってなったりして、会えないときはあいつ今何してんのかなとか思っちゃったりして、そんな時は、なんかテレパシーでもあるみたいに、連絡くれたりして、それがめっちゃ嬉しくて。嬉しいって言えば半田もなんか、すげー嬉しそうで。
     …だからこそ、夢見たちょっとエッチな青春の憧れを実現させるには、もう本当にギリギリだと思って。だから、半田がすんなり別れてくれて助かったのに。また変わらずバカやれて嬉しかったのに。

     あぁ、そっか、とロナルドは納得した。
     俺もあの時もう、めちゃくちゃ半田のこと好きだったし、半田も俺のこと、俺が思ってるより好きでいてくれたんじゃん。
     それに、多分知らないうちにずっと、形を変えても一緒に育んでくれてたんじゃん。


     気づけば、いつの間にか鍋に落としていた豚肉が白く煮えていた。慌てて箸で掬う。その様子を眺めていたカメ谷が笑った。
    「びっくりする程愛されてんな、ロナルド」
    「…ん」
     胸のところがムズムズして、ぎゅっとなって、そう答えるのがやっとだった。

     しばらくみんな黙々と肉と野菜をしゃぶしゃぶした。
    「…あ、あのさカメ谷」
    「ん?」
    「もしさ、俺が半田と付き合うって言っても、これからも一緒につるんだり…してくれる?」
     ロナルドが恐る恐るそう尋ねると、カメ谷は呆れたように、でも少し嬉しそうに笑った。
    「当然だろ?あ、でも流石にデートはお前ら二人だけで行ってくれよな?」
     そう言った後に「デザート頼む?」と言ったカメ谷のタッチパネルを覗き込んだ。チラリ、と半田の方を見ると、少し不服そうな、何か言いたそうな金色の瞳と視線が交わった。
     きっと、さっきの答えを半田は待っている。でも、悪いけどあとちょっとだけ待ってほしい。ちゃんとカメ谷の前で言おうと思う。デザート食べて、会計して、少し半田の酔いが冷めてから。自然に半田に触れることができる距離に移動してから。
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