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    花式 カイロ

    @arisaki_hspr

    自創作本編とは1μも関係のない怪文書と、自創作の小説を投げつけるだけの場所です。
    あとちょっとセンシティブな絵も載せようと思う。

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    花式 カイロ

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    リコリス・ラジアータ(ミルクちゃん宅)+メラン・ノインテッター(カイロ宅) ※敬称略
    うちよそ!

     彼岸花、別名曼珠沙華。その花は毒々しいほどに燃え盛る見た目の通り、その芯に毒を有する花。その名は食べたものに彼岸——死のみをもたらすことから付けられた、という説もある。加えて「採取をすると家が火事になる」などという、子どもから有毒植物を遠ざけるために生まれた迷信もあった。
     忌々しい性質と言い伝えを持つその花から彼女は、リコリス・ラジアータは誕生した。周りの者たちは、有毒植物から生まれた彼女をさも当たり前のように忌み嫌った。なおもリコリスは気にすることなく、陰で囁かれる悪意を纏った言葉にも気の強い彼女は打ちのめされることはなかった。
    「勝手に言わせておけばいい。私を知らない者の意見を、他の何よりも優先する義務するなんてない」
     そう言って悪意を跳ね除ける彼女は、凛と強く咲く彼岸花そのものだった。


    「ごきげんよう、ラジアータさん。お加減はいかがでしょうか?」
     そんな彼女の前に現れた一人の女性、メラン・ノインテッター。小柄で淑やかな振る舞いを欠かさないメランは、意外にも研究職に就いているらしい。職業柄か天性のものか、そんな彼女は他の者と一線を画し、リコリスと積極的に関わりを持とうとした。リコリスが彼岸花から生まれたことも、それと同様に毒を有していることも知りながら。
    「別に普通だ。それより、私に何か用か?」
     当然、リコリスは困惑した。数少ない友人を除いて、彼女と積極的に交流しようとする人物は稀有な存在であったから。知り合ってからしばらく経つが、いまだに彼女に対する疑問は底を尽きない。聞きたいことは多々あれど、深く追求する気が起きるわけでもなかった。
    「お話をしに来たのですわ。ラジアータさんのこと、もっとよく知りたくて」
     その“知りたい”という欲求が好意からではなく、ただの知的好奇心からくるものだったら少し悲しい。だなんて、女々しすぎることを思っている訳ではないけれど。だからと言ってせっかくの縁を大切にできないほど、リコリスは冷徹ではなかった。
     にこにこと淑やかな笑みを浮かべるメランにに対して、リコリスは呆れたように笑ってみせた。
    「相変わらず奇特だな、メランは」
     そんな言葉を返せば、メランは心底楽しそうに笑う。褒め言葉として受け取っておきますわ、と言って、それから何かを思い出したように目を見開いた。宝石のように艶やかなバーミリオンの瞳は、その輝きから浮つきを感じる。
    「そうそう、この前知り合いから良い茶葉を貰ったのです。雑談ついでに、お茶でもいかがかしら」
     五線譜に連なったように綺麗な声色でメランは言葉を紡ぐ。品の良さは残しながらも、柔らかな雰囲気を放つ彼女。リコリスはつられてほんのりと笑みを浮かべながら、その誘いに乗った。
     できることなら、自分のことを研究し尽くした後でもこんな風に関われたらいい。
     そんな言葉をかけていいのかさえも、リコリスには分からなかった。


     あれから少し経って、仕事が休みだというメランがまたやってきた。研究者らしく白衣を着た彼女。サイズが大きいのか、裾や袖が少しブカブカとしている様子がなんだからしくなくて愉快だ。けれど同時に、ほんの少しの嫌な予感がした。仕事が休みだというのに何故白衣を着ているのか。考えてみれば、その嫌な予感を助長させることとなった。
     そしてそれは見事的中していたらしい。軽く世間話を交わしたのち、メランはその瞳に好奇心の色を浮かばせながらにじり寄ってくる。リコリスが一歩後退するたびに、メランは三歩分距離を縮める。そんな勢いで。不意にパシッと手を掴まれる。手袋越しとは言え、いきなりのことでリコリスは酷く驚いた。
    「ラジアータさんの手には、確か彼岸花同様毒がおありなのですよね?」
     狼狽えるリコリスとは真逆に、メランは興奮を隠しきれない様子で声を出した。僅かに上擦って震える声、思わずその勢いに飲まれてしまいそうになる。
    「あ、あぁ、そうだ。……危ないから直接触ったりはするなよ」
     一応忠告しておこうと、宥めるような声色でそう言った。するとメランは途端にきゅっと口を噤んで視線を逸らす。すぐに縦には頷かない彼女に、リコリスは逆に訝しげな視線を送る。そんな状況下でも手を離さないところは彼女らしいと思った。
    「だ、大丈夫ですわよ。心配なさらないで、そんなことしませんわ。ええ、本当に」
     念を押すような言葉選びがむしろ怪しい。凛とした表情からはその言葉が嘘になると思えないが、反するようにリコリスの手を握る力は増していく。どこまでもチグハグなその振る舞いからは、普段の淑女然とした彼女とほど多くて。思わず笑いをこぼす。
    「メランは隠し事が下手だな。……そんなに、私の体質に興味があるか?」
     そんな笑顔に釣られたのかなんなのか、リコリスは少し踏み出して質問する。どんな答えが返ってくるだろうか。考えてみても、根っからの研究者である彼女ならば“こう言うだろう”という解答が既に出切ってしまっていた。
     メランは一度目を伏せて、次にその瞳を覗かせた時にはそれはしっかりとリコリスを捉えていた。
    「正直、研究者としての好奇心を加味すれば、興味は大いにありますわ。花から誕生し、元となった花と同じ性質を持って生きる者……興味をそそられない訳ありませんもの!」
     そしてメランは予想以上の早口で意見を述べた。彼女の言葉が一旦終わった後も、リコリスはその言葉を咀嚼するのに時間を要したため相槌を打つのが遅れる。
     やっとの思いで困惑混じりに「そうか」と返せば、彼女はにこりと笑って「でも」と続ける。
    「私は、ラジアータさん自身にも興味があるのです」
     打って変わって、落ち着いた様子でメランはそう言った。リコリスは驚きから目を瞬かせる。ほぼ反射的に「私に?」と返していた。
    「ええ、貴女は素敵な女性ですからね。ちゃんと知って、ちゃんとお友達になりたいのです」
     お決まりのポーズみたく、手と手を合わせて上品に言う。しっとりと、温かみのあるココアのような声色に嘘は感じられなかった。
     リコリスは思わず気が抜けて、ぽかんとした顔をしながら「お友達」とメランの言葉を鸚鵡返しする。ええ、お友達。律儀にも改めて返事をするメラン。じわりと頬が熱くなる感覚を抱いた。
    「……本当、どこまでも奇特だ。私にそんなことを言う人は、そうそういない」
     笑い混じりに言ってみせれば、あら、と彼女は相槌を打つ。
    「皆さんはラジアータさんの良さを分かっておられないのですわ」
     鍵盤を打てば音が鳴るように、自然の成り行きみたくメランは言葉を放つ。
     本当に奇特で、だけど芯の強い女性だと思った。芯の強いと言うより、彼女の知的好奇心が何よりも先に影響していると言う方が正しい気もするが。彼女とリコリスは根底が違えど、どこか似ているのだろう。リコリスは心のどこかでそれを感じながら、愉快げにメランに話しかける。
    「彼岸花から生まれたことで忌み嫌われているのにか?」
     背丈の低い彼女に振りかけるようにして問えば、心底不思議そうな顔をした。あら、と言って右頬に手を添えながら。
    「彼岸花は良い花ですわよ。見た目の美しさもさることながら、救荒植物や生薬としても扱われてきたこともあるのです」
     指でその一つ一つの例を示すように、数を作っていく。当然の知識のように述べる彼女はやはり聡く、研究者を体現するように笑っていた。
    「詳しいんだな」
    「知り合いにお花が好きな方がおりましてね。私もお花は好きですから、自然と」
     くすくすと、カナリアのように笑ってみせる。そんなことを言っている彼女こそが、花のように可憐だと思えた。
     リコリスは一つ息を吐いて、それから薄らと目を細めながらメランを見る。彼女は頭上に疑問符でも浮かべそうな表情をしていた。
    「正直に言うと、嬉しいんだ。元は知的好奇心だったかもしれなくても、それでも私と友達になりたいと、そう言ってくれたのが」
     照れを感じながらそう告げれば、メランは一拍置いた後にぷっと吹き出した。
     らしくない。そう思いつつも彼女が笑った理由が分からずに、リコリスは頰を染めながら唸った。それに気付いたメランは謝罪の言葉を吐き出すが、けれど変わらずに笑っていた。メラン、と嗜めるように言えば、上品に手で口を覆う。
    「ラジアータさんたら、可愛いんですもの。思わず笑みをこぼしてしまいましたわ。お気に障ったのならごめんなさい」
     予想外のことを言われて、リコリスは戸惑った。そんなリコリスを見てか、一度は収まっていたらしい笑いが再度込み上げたようで、メランは口元を歪ませながら微笑んでいる。恐らく我慢をしているのだろう。それでも苛立ったりしないのは、彼女が自分を受け入れてくれていることによって湧いた安堵の気持ちがあるからなのだろう。
     そう思うとなんだかおかしくて、リコリスも破顔した。誘われるようにメランも笑って。二人の間にはしばらくささやかな笑い声が溢れていた。

     それから、メランは今度はそっとリコリスの手に触れた。毒への興味を持ち直したのかと思えば、顔を見る限りでは違うらしい。彼女は酷く穏やかに微笑んでいた。
    「これからも、私にラジアータさんのこと、たくさん教えてくださる?」
    「! あぁ、もちろんだ」
     反響するように、リコリスもまた微笑み返して答える。そしてあっと声をあげて、自らの手に触れているメランの手を持ち上げた。
    「リコリスでいい。その呼び方では、素っ気ないだろ?」
     片眉を上げながらそう告げる。メランは逡巡ののちに再びリコリスと目を合わせ、力強く微笑んだ。
    「ふふ、そうですわね……お友達ですもの。それでは……リコリスさん」
     たっぷりと余韻を含ませてなを呼ばれる。満足感を得るような心地がした。
     名を呼ばれたことに浸っていると、そーっとメランがもう片方の手を使って、リコリスの手を包んでくる。何かと思って彼女の顔を見れば、少し気まずそうに、けれどどこか期待をするような流し目をしていた。
    「い、いつか素肌にも触れさせてくださいね? 私、楽しみにしておりますから!」
     セリフだけ見たらときめき一直線であろうその言葉は、けれどマッドサイエンティストよろしく興奮した様子で言われるとその要素を微塵をなくさせる。
     なっ、と声をこぼしながらリコリスは呆れてしまった。
    「諦めてはくれないのだな……」
    「研究に諦めなどありませんわ!」
     勢いよく返されてしまい、リコリスは圧倒されてしまいそうになった。この様子では、彼女がメランの押しかけに白旗をあげる日もそう遠くないだろう。それほどの熱量が、メランの声にも表情にもこもっていた。けれどそんな彼女だからこそ、彼岸花から誕生したリコリスを受容してくれたのだろうと思うと悪い気はしない。
     そんなことを思ってしまうのだ。きっと今の時点で大分絆されている。けれどそれさえもがリコリスにとっては新鮮で。
     今まで周りの意見には流されず、強く生きてきた。だがこうして他人が内側にいることも案外悪くないと、そう思えたのはメランのおかげだ。せっかくの縁だからと続いた関係が好転して、今日こうして“友達”がまた増えたことは素晴らしいことなのだろう。
    「メラン、私について一つあることを教えよう」
     呼びかけて向けられたジルコンの瞳を浴び、そんな考えが一層強くなる。
    「実は私は舞が得意なんだ。見てくれるか?」
     顔を明るく輝かせた目の前の女性を見て、自己を肯定する思いがふわりと増した。
     舞おう、新たな絆を祝して。貴女のために舞う踊りは、曼珠沙華の如き情熱を持って、形なくとも友好の証を刻むのだ。
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    花式 カイロ

    DONE登場キャラクター
    ・ヴァイス
    ・グレース
    ・ノワール
    ・ディアン
    ・スティル
    十九話 なんでもない ヴァイスは、あれからどうやってグレースの言葉に返事をしたのか覚えていない。抱いた不信感と違和感が強すぎたせいなのか、とどこか他人事に考えたが、理由を追求したところで思い出せはしなかった。
     そしていつの間にやら会話は終えられ、ヴァイスは研究所を発つことになった。
    「グレース様、今日はありがとうございました」
    「あぁ。何かあったらいつでも来ていいからな。なんなら、検査じゃなくてただ遊びにくるのでも大歓迎だぞ? 立場上表に出ることが少ないと、お前たちに会う機会も中々訪れない。やはりそれは寂しいから」
    「わ、分かりました! 分かりました、また来ますので!」
     帰り際にもグレースのマシンガントーク癖が発動しかけたため、慌てたヴァイスは語気を強めてそう言った。グレースもぽかんとした後にまたもや頭を抱えたが、「待ってるぞ」と羞恥の渦中でぽそりと伝えてくれる。反省をしながらもそう返してくるのだから、歓迎している旨は本意なのだろう。ヴァイスは勝手に解釈しつつ、「はい!」と元気に答える。それに釣られたのか、グレースもにこやかに笑ってくれた。
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    花式 カイロ

    DONE【登場キャラクター】
    ・ヴァイス
    ・グレース
    十八話 白い蝶 検査を受けている間、ヴァイスは意識を失って、眠りの最中にいるような柔らかさに包まれる。そうして目を覚ませば、知らぬ間に検査が終わっていて、結果や所感を伝えられるのだ。
     けれど今日は違った。例えるなら、夢の中で起床をすると言ったような、そんな心地を味わっていた。
     体を動かそうと試みて、けれど上手くいかないことに気付く。眉を寄せて訝しみ、そうして声をあげようとしたところでまた一つの気付きを得る。声も出せない。音を紡ごうとして喉を震わせても、ヒュッと情けない空気が漏れるだけ。それも感覚だけで、実際にそのような音が聞こえる訳ではなかった。
     あたりは薄闇に包まれており、そしてヴァイスは急激に不安へと誘われる。瞼にすら上手く力が入らない中、神経を集中させてどうにか目を閉じようとした。この不安から逃れるために。目を閉じたところで待つのは同じ暗闇だ。それでも何もできないよりはできた方がマシだと懸命に力を込めていれば、唐突に一筋の白が視界を掠める。急なことで驚きはしたが、目の痛みなどは一切なく、不思議な感覚を抱きながら眼球だけを動かしてその正体を追った。
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