♡ペアルック
「なぁ、リョーちんこれ似合いそうだぞ!」
「あー?…ちょっと派手じゃね?」
さっきからふたりで楽しそうにTシャツを物色する2人の男の子。
会話だけを聞いていれば一見普通のお友達同士のやり取り… なのに。
「…」
鏡越しに見える、私の見間違えじゃなければ、背の小さいこの方が、背の高い子の腰に手を回している。まるで男女のカップルのように寄り添いあいながら。
「お揃いがいーんだろ?」
「…ン」
「ったく、しゃーねぇなあ。花道も着るならこっちよりこっちのがいーんじゃね?」
つい私も商品を見るフリして聞き耳を立ててしまう。
口ぶりがあまりにも彼氏、で。
ちゃんとわがままを聞いてあげつつも、自分の意見をちゃんというところが、二人のいい関係を表している気がする。
「お前、可愛ー顔してっからシンプルなほうがいーぜ」
自分より身体の大きい子に、可愛い顔、なんて、もうそれは、二人の関係を察する他なかった。
「な、な………」
「ほら、な?」
あーもう、聞いてる方も甘い!
きっと赤髪の子の身体にTシャツを宛がって見せているんだろう。
「リョーちんも、それ似合ってるぞ」
「そ?じゃあこれにすっか。ちょっと待ってろ」
「あ!そーやってまた金出す気だろっ」
小さい方の男の子がスマートに2着のTシャツを手に持って会計に向かってしまった。
ああ、可愛いやり取りだった。今日は1日中パークにいるのかな。
彼らの1日が、いいものになります様に。
♡暗がりの秘め事
目の前にいる、背の高い赤い髪と、背の低い特徴的なヘアスタイルの男の子
。さっきショップでTシャツを選んでいた二人だ!暗いキューラインで、ふたりお揃いのTシャツを着てひとつのスマホを覗き込んでいる。
「んー、これ乗ったらメシ食う?」
「いーぞ、俺様はなんでも食えるっ」
「そりゃぁさっきからフードワゴン見る度に腹鳴らされりゃあな」
「ンギャッ」
背の高い子が軽く脇腹を肘でツンと突かれてビクンとしたのを見て、突っついた方は意地悪い顔をして笑っている。
「ぬぅ……」
「よえー」
「う、うるせいっ」
「で?はなちゃんは何食いてんだ?」
「リョーちんの食いてーのでいー」
「んだぁ?遠慮してんの?」
「そ、そーいうわけではねー、けど」
背の高い子はちょっと恥ずかしそうにポリポリ頬をかいて、もう1人の子を見る。
この子、おっきい体の割に凄い可愛い表情するのよね。さっき相手の子が可愛い顔してるっていうのも、分かるわ。
「さ、さっきから、俺に譲ってばっかりだし、リョーちんもたのしーっておもってほしいっつーか、その…」
「……あー……そーね、ありがとな。でも俺、めちゃくちゃ楽しーぞ?お前とこうやってあーだこーだいいながらやってんの、サイコーだわ」
………あ~もう本当に、さっきまではお友達の空気だったのに急に甘くなるの、なんでなの!?
「そ、そーなんか?俺に遠慮してたり、しねー?」
「ばーか、しねぇよ。俺も腹減っててなんでも食える」
「ほ、ほんとか!?じゃ、じゃあよ、ここに来る時見たアレ、食べてえ!」
「じゃ、そーしようぜ」
「へへ…」
嬉しそうにする赤髪の子を見てリョーちんって呼ばれてる子は優しい目をして見つめている。
「なあ、リョーちん、手出して」
「ん?」
リョーちんは不思議そうに右手を差し出すと、なんと、赤髪の子がそっとその大きな手で、その手を握って「く、くれーから、今だけ…」なんて、照れたように言った。
リョーちんは鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をして、その後しっかりと顔を赤くして「お前ほんとに、そーいうとこだぞ…!」
と悔しそうに呟いた。
はぁ、もう、こっちが砂糖吐きそうだわ!
♡食事だけでも甘いのなんの。
「あ」
思わず声を上げてしまった。なんていう遭遇率なんだろう。
イベントも相まった土日で、軒並みレストランは混雑を極めて、いろいろ探し回ったあげく
席数も多いのか唯一空席のあったところに入ったんだけど。
向かい側には身に覚えのある、背の高い赤い頭。
大きな身体で見えないけれど、向かい側には「リョーちん」もいるのだろう。
そういえば、さっき背の高いほうの子は何て呼ばれていたんだっけ?…あ、
「はなちゃん」だ!はなちゃんが言っていた、さっきみたってやつ、はこのキャラクターモチーフのハンバーガーだったのか。
このキャラ、好きなのかなあ。見た目に似合わずこういうの好きなの、可愛いかも。
リョーちんに釣られてはなちゃんが可愛く見えてきた。
「お前、ほんとウマソーに食うな」
「ん?そーか?」
「でけー口でさ、ホッペ膨らまして嬉しそうに齧り付いてんの、見てるだけで満足しそ」
リョーちんのその声色にはやっぱり愛おしさを滲ませている、本当に花ちゃんの事、好きなんだろうなあって伝わってくる。
「…あ、リョーちん。ちょっと動くなよ」
「ん?」
はなちゃんが動いて、リョーちんの顔に手を伸ばす。
詳しくは見えないけど、顔から何かを取って自分の口元に持って行った。
「リョーちんも口の端っこにベントーくっついてたぞ!」
はなちゃんの反撃!はなちゃん、そんなちょっと意地悪な声も出せるの?
思わずちょっとドキッとしちゃった。
「ったく、んなどや顔してかっけーことした!って思ってっかも知んねーけどさ」
「…?ふぬっ」
今度はリョーちんが少しだけ腰を浮かせて、はなちゃんの顔に手を伸ばす。
「おめーは鼻のてっぺんにソースついてんだわ」
掬い取ったであろう指先についたソースをリョーちんは迷うことなく口に入れた。
ちょっとだけ見えたリョーちんの顔はやっぱり意地悪で、それでも甘さを含んでいた。
もー、ここまでくると最後まで見届けたくなっちゃうな…!!